ここでは、アメリカ大統領を選ぶややっこしい「選挙人」の仕組みを解説していく。この大統領選に先立って各党の指名候補を選ぶ予備選(党候補指名争い)が実施されるが、予備選の仕組みについてはこちらを参照。
簡潔にまとめると、アメリカの大統領選の仕組みはどうなっているの?
大統領選の仕組みは複雑だが、要点は次である。
- アメリカの大統領は、有権者が「選挙人」(Electors)を選んで、「選挙人」が大統領を選ぶ間接選挙
- 「選挙人」は538人いて、その過半数(つまり270人)の支持を得た大統領候補が次期大統領になる
- 通常「大統領選」と呼ばれる選挙は、各州の有権者が「選挙人」を選ぶ選挙のことを指す
- 「選挙人」は50州および首都(ワシントンD.C.)毎に割り当てられる
- 大半の州では、州で得票数が最も多い大統領候補がその州の「選挙人」全員を獲得する(つまり、”州を勝利した”大統領候補への支持を表明している「選挙人」のみがその州の「選挙人」に選ばれる)
「選挙人」はどのように選ばれるの?
連邦制のアメリカでは、大統領選でも州が極めて重視されているため、投票も集計も州ごとに行われる。
州に割り当てられている選挙人の数は「下院の議席数」+「上院の議席数」。首都であるワシントンD.C.は州ではないが、アメリカ連邦憲法の修正条項に基づき3人の選挙人が割り当てられている。
概ねどの州も州単位で「勝者総取り方式」を採用しており、州で最も多く得票した大統領候補がその州の選挙人全員を獲得する。アラスカ州(Alaska)、メイン州(Maine)、ネブラスカ州(Nebraska)だけが例外。特にメイン州とネブラスカ州は連邦下院議員の選挙区単位で選挙人を割り当てることに注意が必要。詳細については、州ごとの選挙の仕組みの解説を参照。
各州の選挙人の数は?
2020年の人口調査に基づいて2024年の大統領選挙から適用されている選挙人の数は以下の通りである。
(該当する州をクリックして選挙人の数を表示)
結局、大統領になるには何人の「選挙人」が必要なの?
270人。これは、「下院議席数の合計(435)」+「上院議席数の合計(100)」+「ワシントンD.C.に割り当てられている選挙人(3)」=538の過半数である。
どの候補も選挙人の過半数を獲得できなかったら、どうなるの?
アメリカ連邦憲法上、連邦下院が選挙人の投票で上位3人に入った候補の中から過半数で選定することになるが、この投票は州単位(各州1票)で行われる。
現在の二大政党制のもとでは、このシナリオは共和党と民主党の候補が同数の選挙人(269)を獲得しない限り起こりえない。現政党制の前に下院が大統領を選んだことは2度だけあった(1800年と1824年)。
なお、副大統領は、連邦上院議員が選挙人の投票で上位2人に入った候補の中から選定する。
「選挙人」の制度は、大統領選にどういう影響を与えるの?
主に3つある。
(1)「激戦州」が注目される
大半の州では1つの政党が圧倒的な支持を得ているので、「無風州」となりやすい。人口が多いカリフォルニア州やニューヨーク州が大統領選で話題に上がらないのは、どちらも民主党の牙城だからだ。
反対に、共和党と民主党の支持が偏ってない州は「激戦州」となり、これら州は候補者からもマスコミからも注目される。
(2)地方の1票の価値の比重が人口に比例した価値より大きい
最も人口が多いカリフォルニア州と最も人口が少ないワイオミング州の間では、3.7倍の1票の格差がある。これは、各州に割り当てられる選挙人の数が下院議席と上院議席の合計であり、上院には著しい1票の格差が、下院には若干の一票の格差があるからである。
この影響により、人口が少ない州でも、ニューハンプシャー州のような「激戦州」は注目される。
(3)全国的に得票数が多い候補が選挙人の勝負で負ける可能性がある
「無風州」で圧勝し得票数を積み上げても、「激戦州」で競り負けると、肝心な選挙人の過半数獲得を逃す可能性がある。
歴史的には珍しい現象だが、2000年以降の大統領選では2回起こっている。
- ジョージ・W・ブッシュがアル・ゴアに勝った2000年
- ドナルド・トランプがヒラリー・クリントンに勝った2016年
この非民主主義的とも言える結果をなくすため、州の投票で得票数が最も多かった候補ではなく、全国的に得票数が最も多かった候補に選挙人を配分することにコミットする州間条約案があり、これは270人分の選挙人を持つ州が合意した時点で効力を発する。
大統領選の投票日はいつなの?
11月の第1火曜日。大統領選の年は4で割れる年。
選挙人が正式に大統領を選任する投票は12月の第3月曜日と決まっており、これは各州において実施される。なお、この投票において選挙人が民意に反して投票すること(つまり、投票者が選んだ大統領候補以外の候補に投票すること)は、稀だが起こり得る。
翌年の1月6日に連邦議会が選挙人の投票の結果を承認した後、1月20日に大統領が就任する。
誰が投票できるの?
州によって異なる。
アメリカ市民で18歳以上であれば、原則として選挙権がある。ただ、選挙権の要件の詳細(前科持ちが投票できるか否か等)は各州が定める。
また、アメリカで投票するためには単に住民であるだけでは不十分で、有権者になるための登録を自ら行う必要があり(登録している有権者は「registered voter」と呼ばれる)、登録の期限は各州が定める。
なお、アメリカの「投票率」は、選挙権がある人の総数に対する投票者の割合であり、投票登録している人の総数に対する割合ではない。
投票時間は何時から何時まで?
各州が定めるので、州によって異なる。また、フロリダ州のように、2つのタイム・ゾーンに跨っているため州内でも投票時間に1時間のずれが生じる場合もある。
投票方法は?
各州が定めるので、州によって異なる。たとえば、郵便投票しか認めていない州がある。
開票方法は?
各州が定めるので、州によって異なる。たとえば、郵送されてきた投票用紙を投票日前に集計することを認めている州もあれば、投票時間が終了するまで開票できないとしている州もある。