アメリカは国と州で権力が分散している連邦制を用いている。ここでは、連邦制の基本について、歴史や背景も補足しながら解説していく。
連邦制はどのように理解すればいいの?
国(連邦政府、アメリカ合衆国)と州に主権があって、原則として、合衆国の主権はあくまでアメリカ連邦憲法において定められている範囲に留まる。
言い方を変えると、州の主権は一般的、合衆国の主権は限定的で、合衆国が州に優先するのは、連邦憲法上、合衆国に認められている権力が州の権力と矛盾している場合のみである。
州が国と共に主権を有しているとはどういうこと?
州も主権を有することは、様々な側面で見られる。
- 統治の仕組みは合衆国と州で重複されており、各州が独自の州憲法を策定しており、どの州にも合衆国の裁判所から独立した裁判所が存在する
- 州憲法や州の法律を解釈する権限は州裁判所にあり、(アメリカ連邦憲法や連邦法(合衆国の法律)の違反が問われてない限り)連邦裁判所にはない
- 各州が軍勢を維持しており、知事が最高司令官である
- 合衆国は州の行政府(知事)に対して連邦法(合衆国の法律)を執行させることを強制できない(州にとって、連邦法はあくまで”他者”の法律であるから)
- 一事不再理の原則(刑事事件で判決が確定すると同一の犯罪で再度裁判にかけられることはない)はアメリカでも存在するが、同一の犯罪が連邦法と州の法律を違反している場合、たとえ連邦法の下で無罪となっても、州の法律の下で改めて裁かられることは妨げられない
国の主権が限定的であるとはどういうこと?
合衆国の立法権は、アメリカ連邦憲法において明示的に列挙されている事項に限定される。付与されている立法権は18項目あるが、特に重要なのは以下である。
- 国防
- 宣戦布告する権限
- 郵便局を設置する権限
- 課税権
- 合衆国の信用において金銭を借り入れる権限
- 州間通商規制権
- 破産制度を定める権限
- 通貨を発行する権限
- 著作権を促進する権限
商業や経済に関する立法権が多いことが注目に値する。
近年、アメリカの連邦最高裁は頻繁に連邦法を違憲であると判断しているが、これは連邦法の良し悪し(人権を侵害しているか、合理的であるか等)に基づく判決ではなく、連邦法が合衆国に認められている立法権を逸脱しているといった連邦制に基づく判決であることが多い。
州の立法権の範囲は?
合衆国と異なり、州には一般的な立法権があり、以下のような生活に身近な法律は概ね州により定められている。
- 治安
- 教育
- 婚姻
- 親族権
- 遺産相続
- 不動産
- 会社法
また、許認可制度も概ね州の管轄である。
- 自動車免許
- 酒類販売許可
- 弁護士
- 医師
- 公認会計士
さらに、どの州も消費税や(連邦法に基づく所得税に加えた)州所得税を自由に設定する権限を有しており、「州税率0%」とすることも可能である。
州の法律は、原則として、連邦法やアメリカ連邦憲法に違反しない限り有効である。よって、連邦法にプラスαとして州の法律を策定することが可能になる。
たまに、連邦法やアメリカ連邦憲法に違反していることを承知で法律を成立させる州議会があるが、これは、連邦法が廃止されたりアメリカ連邦憲法の解釈が変わったりすれば、それら法律は直ちに執行できるようになるからである。
なんでアメリカの州は極めて強力な権限を持ってるの?
“アメリカ合衆国”と呼ばれる国が生まれる前から”州”という組織が存在しており、もともと”主権”とは州が有していたものであったから。
当初のアメリカはイギリスの植民地で、長い間、イギリスは植民地による自治を許していた。その後イギリスによる統治の引き締めが1776年の独立宣言に繋がるのだが、1783年にアメリカが独立戦争に勝利した後も、州となった旧植民地の独立性は維持され、新たに設立された”国”は課税権を有しないなど、極めて微力だった。
これでは州の権限があまりに強すぎ、お互い関税を掛け合う貿易戦争が勃発するなど経済が崩壊しそうになったので、国の権力を強化するために現行のアメリカ連邦憲法が批准され、1788年にアメリカ合衆国が建国された。州としては、国に権力を”移譲”することになるので、必然的に、アメリカ連邦憲法の策定に当たって、合衆国に認める権限を限定的にした。