連邦裁判所の仕組み

連邦裁判所の仕組み

アメリカの司法府は連邦最高裁判所、連邦控訴裁判所及び連邦連邦第一審裁判所から構成される。ここでは、連邦裁判所の仕組みについて、歴史や背景も補足しながら解説していく。なお、アメリカには連邦裁判所に加えて州裁判所が並存していることに留意。州裁判所に関する解説はこちらを参照

まずは、連邦裁判所の基本から

連邦裁判官の任期は終身。よって、就任したら、連邦議会に弾劾された後罷免されるか、死去・辞任するまで連邦裁判官でいられる。

大統領や連邦議員と異なり、連邦裁判官になるための要件をアメリカ連邦憲法は定めていない。

連邦裁判官は何人いるの?

連邦最高裁判所の定数は連邦法(合衆国の法律)で定められており、9人。これは1869年以降、変更されていない。

連邦控訴裁判官及び連邦連邦第一審裁判官の定数も連邦法が定めており、合計で1000人近くいる。

連邦裁判官はどうやって選ばれるの?

大統領が任命し、上院が承認する。よって、大統領と上院の間で「ねじれ」が起こると、(最高裁に限らず)連邦裁判官が承認されにくくなる。また、ねじれがなくても、上院の特有な審議の仕組みのため、数名の上院議員の反対により承認されなくなることがある。

なんで連邦最高裁判官の選定は揉めるの?

背景には、連邦裁判官の終身制と権力にある。

大統領の任期は長くて8年だが、若い裁判官を任命できればその影響は退任後何十年も続き得る。特に現代の連邦最高裁判所は強力な権限を有するので、連邦裁判官を任命できることは大統領の最も強力な権限と言っても大げさではない。

大統領選において候補がどのような連邦最高裁判官を任命するのかといった点が争点となったり、連邦最高裁に欠員が生じるたびに政治論争が過熱する背景には、こういった理由がある。

どういう経歴の人が連邦裁判官に選ばれるの?

近年、連邦最高裁判官に任命されるのは、アイビーリーグロースクール卒業の連邦控訴裁判所裁判官が大半。過去には、学者や政治家が任命されることもあった。

連邦控訴裁判所裁判官や連邦第一審裁判所裁判官に任命される人の多くは連邦検事。

連邦裁判所の管轄権の範囲は?

アメリカ連邦憲法上、連邦裁判所の管轄権は極めて限定的。以下のような事件・訴訟においてしか管轄権を有しない。

  1. アメリカ連邦憲法または連邦法に関する事件・訴訟
  2. 当事者が居住する州が異なる訴訟
  3. 連邦政府が当事者である事件・訴訟
  4. 州同士の訴訟
  5. 外国または外国人が当事者である事件・訴訟(たとえば、日本人または日本企業が当事者である訴訟)

言い方を変えると、原告が同じ州に居住する被告を州の法律に基づいて訴えた場合(たとえば同じ州に住む原告と被告が起こした交通事故の損害賠償責任に関する訴訟)、管轄権は連邦裁判所にはない。

連邦裁判所が管轄権を有していない場合、管轄権は州裁判所のみが有する。

連邦裁判所の方が州裁判所より管轄権が狭いため、一般論として、連邦裁判所で提訴できる訴訟は州裁判所でも提訴できるが、州裁判所で提訴できる訴訟は必ずしも連邦州裁判所で提訴できるわけではない。

州裁判所と連邦裁判所はどういう関係なの?

連邦裁判所と州裁判所は横並びに並存し、上下関係にあるわけではない。図で示すと以下のような関係になる。

なお、図では連邦最高裁が州最高裁の「上」にあるように見えるが、州最高裁の判決を連邦最高裁に控訴できるのは連邦裁判所に管轄権がある案件の場合のみである。連邦裁判所に管轄権がない案件においては、州最高裁が最終の判決を下す権限を有し、連邦最高裁に控訴することはできない。

連邦裁判所なのか州裁判所なのかはどのようにわかるの?

裁判所の名称でわかる。

連邦裁判所の名称は必ず”United States…”から始まる。

  • 連邦第一審裁判所は”United States District Court…”
  • 連邦控訴裁判所は”United States Court of Appeals…”
  • 連邦最高裁は”United States Supreme Court”

それ以外の名称の裁判所はすべて州裁判所である。

憲法上、連邦裁判所にはどのような権限が与えられているの?

アメリカ連邦憲法は連邦裁判所の権限についてほどんど何も規定していない。法律を違憲であると判断し無効にできる「違憲指令審査権」は裁判所の最も強い権限といえるが、日本の憲法と違って、アメリカ連邦憲法には定められていない。

よって、建国当初の連邦裁判所には権力があまりなかった。初期の頃、連邦最高裁判官は大使に就任するためや知事選に出馬するために頻繁に辞任していたし、重要な判決(1793年のChisholm v. State of Georgia)が直ちに憲法改正によって覆されてしまう始末だった。

1801年にジョン•マーシャルが第4代連邦最高裁判長に任命されて連邦最高裁の権力は少々強化されるが、現在のような強力な権限を持つようになったのは20世紀に入ってから。それを象徴しているのが最高裁が入居している建物で、1937年に現在の建物ができるまで、連邦最高裁は連邦上院の中に所在していた。

現在の連邦最高裁の権限は?

連邦最高裁の地位と権限は徐々に拡大していき、現在は大統領に匹敵する権力を有するともいえる。

その背景にはまず、1803年の判決(Marbury v. Madison)により、連邦最高裁が違憲指令審査権を自ら確立させたことにある。ただし、最高裁がこの権限を頻繁に行使するようになるのは20世紀に入ってからである。

また、1960年代以降は、最高裁が多数の人権を新たに保障するようになる。

  1. 弁護人依頼権(1963年)
  2. 人種にかかわらず結婚できる権利(1967年)
  3. 女性が州立男子大学に入学する権利(1996年)
  4. 拳銃を保有する権利(2008年)

近年の連邦最高裁は以下のような判決を通してアメリカ連邦憲法をより制約的に解釈することで権力を発揮している。

  1. 連邦議会は学校への拳銃の持ち込みを禁じる法律を策定する立法権を有しない(1995年)
  2. 中絶する権利は人権ではない(2022年)
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3件のコメント

  1. >連邦最高裁の地位と権限は徐々に拡大していき、現在は大統領に匹敵する権力を有するともいえる。
    その背景にはまず、1803年の判決(Marbury v. Madison)により、連邦最高裁が違憲指令審査権を自ら確立させたことにある。

    そんなに強いとは知りませんでした。違憲にできる能力ってそんなに凄いことなんですね。しかし就くためのハードルは大統領と比べると低いように予想します。権力はあるものの待遇とか注目度が低いからなんですかね。

    忖度
    1. コメント、ありがとうございます。

      アメリカ裁判所の違憲指令審査権が強力な権力であるのは間違いないです。日本の裁判所にも同様の権限がありますが、権限の行使の頻度とそれがもたらす影響力の観点では、アメリカの比になりません。

      確かに裁判官になるより大統領になるハードルの方が高いですが、それは大統領は1人しかおらず、最高裁裁判官は複数人いる、といった違いに尽きると思います。2024年現在、これまでいた大統領は45人で、連邦最高裁判事は116人です。ただ、当初、最高裁の権力は弱かったため、最高裁判事はあまり魅力的なポストではありませんでした。20世紀に入ってから権力が増して注目を浴びるようになったので、現在では、大統領になるのと同じくらい最高裁判事になるのも困難であると言えると思います。(なるために必要な能力・才能はまったく異なりますが)

      1. 解説いただきありがとうございます。アメリカ連邦憲法のほうも読んでからコメントするべきでした、そちらにもこのあたりの理由が書かれていましたね。日本との違いも含めてここまでわかりやすく丁寧に説明している記事は有料モノでもあまり見ない印象なのでこのサイトの存在は非常に有難いです。

        忖度

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