思いの外低いアメリカの投票率

思いの外低いアメリカの投票率

アメリカの投票率は大統領選以外では著しく低い。ここでは、アメリカの投票率がどれくらいの水準なのか、なぜ投票率のデータが入手しにくいのか、そして低い投票率の政治への影響などについて解説していく。

ざっくり言うと、アメリカの選挙の投票率は何%くらいなの?

選挙ごとに大きく異なるが、最も高い大統領選の本選挙の投票率を見ると、2004年以降は60%前後で推移しているが、1970年代〜1990年代は50%台だった

大統領選以外は、連邦議会や知事の選挙だと約40%、党の指名候補を選ぶ予備選だと20%未満、地方選挙だと10%台にまで落ち込む。

“投票率”の定義って?

ここでの”投票率”とは、【投票者総数】÷【投票する権利がある人の総数(eligible voters)】を意味している。

アメリカでは有権者になるための登録を自ら行う必要があり、多くの人はこの登録を行っていない。よって、投票率を【投票者総数】÷【投票登録している人の総数(registered voters)】、すなわち有権者ベースで算定することも可能であり、その”投票率”は2004年以降の大統領選で70%を超えている。わざわざ投票登録する人は、実際に投票にも行っているというわけだ。

下記においては、一般的に使われていてより有意な【投票者総数】÷【投票する権利がある人の総数】を投票率の定義とするが、通常、各州の選挙委員会が報告する”正式な投票率”は【投票者総数】÷【投票登録している人の総数】であることに注意されたい。

選挙ごとに投票率が大きく異なるって、どういうこと?

わかりやすく説明すると、選挙の注目度が低ければ低いほど、投票率が落ちる。

アメリカは、大統領連邦上院議員連邦下院議員知事州議会だけでなく、州の内閣メンバー(司法長官等)、裁判官、検察官、そして保安官や教育委員会のメンバーまでもが公選で選ばれる。さらには、各選挙において予備選と本選挙に加えて決選投票まで実施する州もある。

つまりアメリカはべらぼうに選挙があり、その分まったく注目されない選挙も多く、注目されない選挙の投票率は自然と落ち込むのだ。

じゃあ、大統領選の次に注目される中間選挙の投票率はどれほどなの?

中間選挙とは、大統領選がない偶数の年に連邦下院議員全員と連邦上院議員の1/3が改選され、多くの知事も改選を迎える本選挙のことを指す。

1970年代〜2018年の中間選挙の投票率は40%前後だった。2018年には50%、2022年には46%まで上昇したが、これらの年の投票率はこの半世紀を見ると異常に高かったと言える。

じゃあ、予備選の投票率はどれくらいなの?

予備選は本選挙で競う大統領候補や連邦議員候補を選ぶ重要なプロセスだが、本選挙と比べると投票率が著しく低い。

もっとも、これを裏付けるデータを入手するのは難しい。

その理由は二つある。

まず、予備選の投票率として参考にしたい大統領選の予備選は、順序に実施されていくため党の候補指名争いに決着がついた後に予備選が実施される州が少なくない。そういった州の予備選は注目されず、必然的に投票率も低くなるため、全国を通して見た大統領選の予備選の投票率は有意なデータとならない。

では大統領選の次に参考になりそうな中間選挙の予備選の投票率はどうかと言うと、上述したとおり、各州が報告する”正式な投票率”は【投票者総数】÷【投票登録している人の総数】なので、より有意な【投票者総数】÷【投票する権利がある人の総数】のデータが入手しにくい。

だが、あるNGO が2023年に公表したレポートによると、2022年、2018年、2014年、2010年の予備選の投票率は、それぞれ 21.3%、19.9%、14.3%、18.3%だった。

じゃあ、ほぼ誰も注目しない選挙の投票率はどれほど低いの?

ある調査機関が2016年に行った統計によると、地方選挙の投票率は概ね15%だった。また、教育委員会(school board)の選挙の投票率は一桁台であることがよくある

低い投票率はアメリカの政治にどのような影響を与えるの?

最も深刻なのは、著しく低い予備選の投票率の影響だろう。

上述したとおり、大統領や連邦議員を選ぶ本選挙の投票率は40%〜60%だ。これは決して高い水準とは言えないが、そもそも本選挙で競っている候補は、投票率20%弱の予備選を勝ち抜いた候補である。さらに、大半の州では得票数が最も多い候補が当選するので、予備選で候補が乱立していると、得票率30%台でも予備選から本選挙に進出できる。これはつまり、20%の30%、すなわち全体の6%の票で本選挙における候補の選択肢が決まっているということだ。

民主党または共和党の牙城の選挙区・州では本選挙は無意味で、党の予備選で実質的に勝者が決まることが多い。極めて少数の、それも最も熱狂的な支持者が大半のアメリカの政治家を選んでいることが、アメリカの政治の過激化・二極化の大きな要因であると言われている。

ここまで投票率が低いということは、アメリカ人の政治への関心は薄いということ?

そうとも言い切れない。

確かに、日本の投票率は衆院選や参院選で40%台、地方選挙でも30%を下回ることは稀なので、投票率だけを見ると、日本の方がアメリカより政治への関心が高いように見える。

だが、アメリカでは投票以外の行為による政治への関与が活発である。たとえば、大学生の多くは選挙事務所でボランティアしたり、連邦議員の事務所でインターンしている。また、政治の話も概ねタブーとはされていない。

よって、投票率以外の側面を見れば、アメリカの方が日本より政治が身近にあるとも考えられる。

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