連邦制であるアメリカでは、選挙方法(当選者の決め方の方法)が州ごとに異なる。選挙方法は州の選挙だけでなく国政選挙にも適用されるので、様々ある選挙方法を理解しておいた方がアメリカの選挙を追いやすい。ここでは、最もよくみる選挙方法を解説していく。
まずは、背景の説明から
アメリカは基本的に共和党および民主党により構成される二大政党制。よって、大半の選挙では、この二つの党に所属する候補が選挙を競うことになる。(一部の市長選や裁判官の選挙は党派性のない形で実施される)
また、どの州のどの選挙も原則として定数1であり、例外は一部の州下院選や市議会選のみである。
よって、「2つある政党のどちらかに所属する複数の候補からどうやって1人の当選者を選ぶか」がアメリカの選挙津でのゴールとなる。
頻繁に活用されてる選挙方法は?
最も多いのは、①党ごとに実施される予備選を通して党の指名候補を選定した上で、②後日の本選挙で各党の指名候補同士が競うパターン。
次に多いのが、⑴党所属に関係なくすべての候補者が1つの予備選で競い、⑵予備選で上位に入った候補の間で後日に決選投票が行われるパターン。
党ごとに実施される予備選にはどのようなバリエーションがあるの?
まず、ユタ州やマサチューセッツ州の一部の州では、党大会での党員による投票を通して予備選の候補が数人に絞られる。
また、予備選で投票できる有権者を党員に限定しているか否かも州によって異なる。
アメリカでは、投票権を有するためには単に住民であるだけでは不十分で、有権者になるための登録を自ら行う必要がある。この登録の際、多くの州では政党の党員となることを選択することができ、党員になればその党の予備選や党員集会で投票できることになる。
党員にしか投票権が認められない予備選は「閉じた予備選(closed primary)」と呼ばれる一方で、どの党にも登録していない有権者ならどれか1つの党の予備選に投票できる予備選は「開いた予備選(open primary)」と呼ばれる。
予備選が「閉じた予備選」であるか「開いた予備選」であるかは、州の法律によって決まっている場合もあれば、州の法律が政党の判断に委ねている場合もある。
なお、党員の登録を行わない州もあるが、この場合の予備選は必然的に「開いた予備選」になる。
当選者の決め方にはどういった種類があるの?
主に次の三つの方法が採用されている。
- 相対多数制〜得票数が最多の候補が当選
- 多数決制〜得票数が過半数である候補が当選。どの候補も過半数が取れなかった場合、上位2位の間で後日に決戦投票が実施される
- 優先順位付投票制〜投票者が各候補に優先ランクをつけて投票し、”最優先ランク”の過半数を得た候補が当選。当選する候補がいなければ、”最優先ランク”が最も少ない数の候補が落選し、その候補に投票された票が投票者が選んだ優先ランク2の候補に移譲される。そして、1人の候補が過半数を獲得するまでこれが繰り返される
予備選・本選挙でいろいろな選挙の仕組みがあるのはわかったけど、具体的にはどういうことなの?
各仕組みを1つずつ見ていこう。
① 党ごとに実施される予備選と指名候補同士が競う本選挙が相対多数制の州
大半の州で採用されている仕組みで、最も票が多ければ当選できるので、予備選で候補が乱立したり、本選挙で共和党・民主党所属以外の有力な候補が出馬していると、得票率が30%台と低くても当選できる。
バーモント州は、知事選においてのみ、本選挙で過半数を獲得する候補がいないと、州議会が当選者を決める多数決制を用いている。
② 党ごとに実施される予備選と指名候補同士が競う本選挙が多数決制の州
ジョージア州が採用している仕組みで、当選するには過半数が必要。過半数を獲得する候補がいないと、予備選・本選挙それぞれにおいて、上位2位の間で後日に本選挙が実施される。よって、最終当選者を決めるために4回の選挙が必要となる場合がある。
ミシシッピ州はすべての予備選および知事・副知事等の本選挙でこの仕組みを採用しているが、他の選挙では相対多数制を採用している
なお、この仕組みだと最終的に当選するには過半数を獲得する必要があるので、第三極の政党や無所属候補の出馬による「妨害効果」は起こり得ない。
③ 党ごとに実施される予備選と指名候補同士が競う本選挙が優先順位付投票制の州
メイン州が連邦議員や大統領選の予備選および本選挙で採用している仕組みで、投票者は優先ランクをつけて投票するため、”死票”がなくなる。また、当選するには過半数を獲得する必要があるので、本選挙における第三極の政党や無所属候補の出馬による「妨害効果」は起こり得ない。
なお、知事や州議会の予備選および本選挙では相対多数制が採用されている。
④ すべての候補が競う1つの予備選が相対多数制で、上位2位に入った候補の間で競う本選挙(決選投票)が多数決制の州
ワシントン州とカリフォルニア州が採用している仕組みで、党ごとに予備選が実施されないため、本選挙での決選投票が同じ政党の候補同士になる可能性がある。
ルイジアナ州の制度もこれに近いが、同州では、すべての候補が競う1つの予備選で過半数を獲得する候補がいれば、決選投票は実施されない。
なお、この仕組みでも、最終的に当選するには過半数を獲得する必要があるので、第三極の政党や無所属候補の出馬による「妨害効果」は起こり得ない。
⑤ すべての候補が競う1つの予備選が相対多数制で、上位4位に入った候補が競う本選挙が優先順位付投票制の州
アラスカ州がすべての選挙で採用している仕組みで、予備選から4人の候補が本選挙に進めるため、本選挙では同じ政党の候補同士が競う可能性が高い。優先順位付投票制である本選挙では、投票者が優先ランクをつけて投票するため、”死票”がなくなる。また、この仕組みでも、最終的に当選するには過半数を獲得する必要があるので、第三極の政党や無所属候補の出馬による「妨害効果」は起こり得ない。
大統領選の選挙の仕組みはどう異なるの?
大統領選の本選挙では、党の指名候補が州ごとに「選挙人」の獲得を競う(詳細はこちらの解説を参照)。各州の選挙人獲得の仕組みは次の通りとなる。
- アラスカ州、メイン州、ネブラスカ州以外では、州単位で最も多く得票した候補がその州の選挙人全員を獲得(州単位の相対多数制)
- ネブラスカ州では、州単位で最も多く得票した候補が選挙人2人を、連邦下院議員の選挙区単位で最も多く得票した候補が残りの選挙人を1人ずつ獲得(州単位と下院議員選挙区単位の相対多数制)
- アラスカ州では、州単位で優先順位付投票制を通して“優先ランク”の過半数を得た候補が州の選挙人全員を獲得(州単位の優先順位付投票制)
- メイン州では、州単位で優先順位付投票制を通して“優先ランク”の過半数を得た候補が選挙人2人を、連邦下院議員の選挙区単位で“優先ランク”の過半数を得た候補が残りの選挙人を1人ずつ獲得(州単位と下院議員選挙区単位の優先順位付投票制)
大統領選の予備選(党候補指名争い)では、州ごとに大統領候補が自分を支持している党大会代表者の獲得を競うが、この党大会代表者獲得レースにおける選挙方法は政党と州ごとに異なる。詳細はこちらの解説を参照。