地域ごとに見る共和党と民主党①〜東北〜

地域ごとに見る共和党と民主党①〜東北〜

二大政党制であるアメリカでは、共和党と民主党の違いを対極的に理解しやすい。ここでは、アメリカの東北地域での共和党と民主党の違いを解説して行く。なお、南部の解説はこちら、中西部の解説はこちら、西部の解説はこちらを参照されたい。また、政治的思想に基づく両党の違いの解説はこちらを、投票者の属性に基づく違いの解説はこちらを参照。

「東北」はどの州により構成されるの?

アメリカの国勢調査局が採用している区分を引用し、「東北(Northeast)」は以下の州から構成されるものとする。各州の人口のイメージがつきやすくなるよう、下院の議席数を括弧内で記載している。

  1. メイン州(Maine)(2)
  2. ニューハンプシャー州(New Hampshire)(2)
  3. バーモント州(Vermont)(1)
  4. マサチューセッツ州(Massachusetts)(9)
  5. ロードアイランド州(Rhode Island)(2)
  6. コネチカット州(Connecticut)(5)
  7. ニューヨーク州(New York)(26)
  8. ニュージャージー州(New Jersey)(12)
  9. ペンシルベニア州(Pennsylvania)(17)

上記1~6は合わせて「ニューイングランド(New England)」、7~9は合わせて「ミッド・アトランティック(Mid-Atlantic)」とも表現される。

東北では共和党・民主党のどちらが強いの?

東北は概ね民主党の牙城だが、以下で説明するとおり、メイン州ニューハンプシャー州ペンシルベニア州では共和党も存在感を示せている。

なお、民主党の強さは、連邦政府の選挙(すなわち大統領連邦上院および連邦下院)と州の選挙(すなわち知事)を区別して考える必要がある。東北でも、共和党の候補が特に社会問題に対する保守性を軟化させ党本部と距離を置けば、知事選では当選できる。実際、ロードアイランド州、コネチカット州、ニューヨーク州以外の州では、2012年以降、共和党の知事が就任していた時期がある。

東北の一般的な投票者の属性は?

一概には言えないが、東北は人口密度が高く、農村部が少ない。また、有権者は教育レベルが高く、所得は低くない。そして、社会問題に対してリベラルな思想を持っており、特にリベラル思想の傾向が強い大学生が集中している大学キャンパスが多くある。これらが民主党が強い要因となっている

人種的には、黒人が多い都市部を除くと、主に白人が住んでいる地域である。

メイン州は東北の他の州とどう違うの?

州の北部と南部で性質が大きく異なる。

人口が上位20に入る街の大半は南部に所在していることから、都市部が強い民主党が南部では強い。

他方で、カナダに接している北部は基本的に農村部。特にトランプが共和党を支配するようになって以降、北部では共和党が力を増している。ただ、北部は人口が少ないため、州全体的には南部で強い民主党が勝利する。

なお、メイン州は、大統領選において選挙人の獲得者を下院選挙区ごとに決める2つの州の1つである。2016年と2020年の大統領選では、共和党の候補だったトランプが北部の下院議員の選挙区の選挙人を獲得している。共和党がメイン州で選挙人を獲得できたのは、1988年にジョージ・H・W・ブッシュがメイン州全体で勝利を収めて以来だった。

ニューハンプシャー州は東北の他の州とどう違うの?

州のモットーである「自由に生きる、さもなくば死を(”Live Free or Die”)」からも分かるとおり、ニューハンプシャー州は自由主義が強い。また、東北のどの州より減税主義であり、ニューハンプシャー州は州の消費税がないことで有名である(連邦制のアメリカではどの州も自由に税制を規定できる)。

自由主義および減税主義は共和党の思想に近いことから、共和党はニューイングランド地域のどの州よりニューハンプシャー州で存在感を発揮できている。よって、たとえば2000年の大統領選では、共和党のジョージ・W・ブッシュがニューハンプシャー州で勝利できている。

ただ、社会問題に対する州民の考えは妊娠中絶に賛成であるなどリベラルなので、ニューハンプシャー州の共和党は全国的に見ると中道的である。

ペンシルベニア州は東北の他の州とどう違うの?

面積が広いペンシルベニアでは、他の東北の州とは異なり(だがメイン州と同様に)、共和党が強い農村部に一定数の投票者がいる。

他方、ペンシルベニア州のには大都市であるフィラデルフィア市が所在し、投票総数の約1/3がこの街で投票される。特に最近の選挙では、同市とその郊外がペンシルベニア州での民主党の牙城となっていることから、農村部とフィラデルフィア市でそれぞれ票を積み上げる共和党と民主党が州全体で拮抗する状況ができあがっている。

そこで鍵を握っているのが、2番目に人口が多いピッツバーグ市となる。地元のアメフトチームである「スティーラーズ」の名からも見られるように、この街はかつては鉄鋼生産の地として栄えた。鉄鋼業と共に街も衰退してしまったが、今でも住民の多くは白人の労働者である。従来彼らは民主党寄りだったが、白人労働者にとって魅力的な政策を打ち出している共和党に今後票が流れていくかが注目される。もしそのようなことが起これば、ペンシルベニア州が共和党寄りになっても不思議ではない。

東北の残りの州の特徴は?

  1. バーモント州(Vermont)
  2. マサチューセッツ州(Massachusetts)
  3. ロードアイランド州(Rhode Island)
  4. コネチカット州(Connecticut)
  5. ニューヨーク州(New York)
  6. ニュージャージー州(New Jersey)

ニューヨーク州にはニューヨーク市、マサチューセッツ州にはボストン市といった都市があり、ロードアイランド州やコネチカット州は面積が狭いので人口密度が高い。よって、これら州は都市部が強い民主党の牙城となっている。

農村部で共和党が票を伸ばしていることは東北で全般的に見られる傾向であり、たとえばニューヨーク州の北部でも起こっている現象である。ただ、これらの州では農村部の人口が少ないため、影響が限定的となっている。また、大半が農村部であるバーモント州も、思想的にリベラルなので、他の地域のように共和党寄りになっていない。

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