短期決戦となった2024年大統領選の分析(下)〜ハリスが勝利する理由〜

短期決戦となった2024年大統領選の分析(下)〜ハリスが勝利する理由〜

投票日の約100日前に民主党候補がカマラ・ハリスに交代したことで、2024年の大統領選は前例のない短期決戦となった。ここでは、完全にリセットされた大統領選を民主党のカマラ・ハリス副大統領が勝利する理由を解説する。共和党のドナルド・トランプ前大統領が勝利する理由はこちらで解説している。また、「大統領候補がハリスに交代したからこそ民主党が勝てる解説」も参照されたい。

ざっくりいうと、ハリスが勝利する理由は?

これまでのハリスの選挙活動はどういう意味で完璧で、今後どうすればいいの?

バイデンが撤退してからのハリスは、4年前の大統領選において民主党の予備選で撃沈したとは思えないほど完璧な選挙を展開できている。

まず、陣営立ち上げのスピード。当然のことながら、現職大統領出馬中に副大統領が出馬の準備を進めることはできなかったので、ハリスはホームページやロゴのデザインといった基本的なこともバイデンが撤退してから着手する必要があった。にも関わらず、バイデン撤退の26時間後にはハリス陣営のロゴ入りホームページが開設された

また、バイデンから推薦を受けたからと言ってハリスが大統領指名候補になれることは既定事実ではなかったが、早々と党内の重鎮と潜在的な対抗馬から支持を取り付け、バイデン撤退の1日以内には指名を確実なものとした。

そして、ハリスにとって最初の重大な決断であった副大統領候補の指名も、(意外性はあったが)概ね好意的に受け止められた

この期間、失言はなく、献金は爆増し、世論調査ではトランプとの差が縮まった。これ以上とないスタートを切っている。

バイデンが撤退した7月21日(現地時間)から投票日の11月5日(現地時間)まで107日しかなく、今日で既に22日が経過している。「完璧」をいつまでも維持することは不可能だが、短期決戦のこの大統領選では、残り85日の間だけ失言などの問題が起こるのを避けるので十分である。ハリスは苦手なテレビインタビューなどを最低限に留めるだろう。

勢いがあるハリスは、どのように短期決戦を逃げ切ればいいの?

ハリス陣営は相当盛り上がっており、その勢いでトランプとの差がだいぶ狭まった。現在の世論調査によるとまだトランプがリードしている状態だが、民主党の党大会が残っていることを鑑みると、ハリスの勢いはまだ続くことが期待できる。

世論調査で民主党の従来の支持者の中でハイデンに嫌気が差していた黒人やヒスパニック系の投票者がハリスの支持に戻ってきていることがハリスにとって大きな追い風となっている。これら投票者は南部西南部に多いことから、こちらで解説した通り、ハリスの勝利への道は白人が多いラストベルトだけでなくサンベルトにも広がった。

ハリスとしては、今回の大統領選が異例の短期決戦であることを活かし、このまま勢いを切らすことなくどれか1つでも勝利への道を切り開くことができたら、そのまま逃げ切る戦略で当選できる。

なんでハリスがマスコミの注目を独占できてることがそんなに重要なの?

9年前にトランプが初めて出馬表明して以降、全員の対抗馬が苦労したのは、テレビやラジオ、SNSやネットのすべてがトランプの話題で独占されたことである。大半の報道は決してトランプに好意的なものではなかったが、注目されているという事実がトランプの力の源になっていた。

ところが、バイデンが撤退して以来、トランプ暗殺未遂事件共和党の党大会があったにもかかわらず、ハリスと民主党はマスコミを独占できている。さらに、19日(現地時間)から民主党の党大会が開催されることから、少なくとも来週いっぱいは、マスコミの関心は現職大統領であるジョウ・バイデン、元大統領であるバラク・オバマとビル・クリントン、16年の民主党大統領指名候補であるヒラリー・クリントン、副大統領候補に指名されたティム・ワルツ、そしてもちろんハリス本人の演説に向く。

トランプは9月18日に口止め支払い事件で量刑を言い渡される予定で、この時ばかりはマスコミの注目がトランプに集まることは避けられない。だが、9月16日には超激戦州であるペンシルベニア州で期日前投票が始まり、10月に入ればアリゾナ州やジョージア州でも始まる。

ハリスは奇跡的にも、これまでどの候補も悩まされてきた「トランプ独占劇問題」を出馬表明から投票が始まるまで回避できそうである。短期決戦だからこそ可能なこの状況を活かせば、ハリスはトランプマジックを封印できる。

トランプ陣営が態勢を立て直せないことは、短期決戦ではどのような影響があるの?

バイデンが撤退しハリスに交代することは6月27日の討論会以降想定できたはずなのに、いざそれが起こると、トランプ陣営は迷走し始めた。

具体的には、ハリスへの交代直後のトランプは沈黙状態に陥り、その後「ハリスはIQが低い」と幼稚園児のような喧嘩をけしかけ、集会はほとんど開催しない雲隠れ状態が続いてる。さらに副大統領候補に指名されたバンスの発言が物議を醸し、トランプは不本意にも彼の援護に追い込まれてる。

現在のトランプ陣営はまるで目標を見失った魚雷だ。戦略を立て直して目標を定め、対ハリスの有効的なメッセージを打ち出し、それを浸透させるための時間はあまり残ってない。トランプ陣営の迷走が長引けば長引くほど、ハリスは大した批判を受けないまま投票が始まる可能性が高まる。

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