大統領選の世論調査ではいろいろな切り口でデータが内訳されており、ここでは、今回の大統領選で勝敗を決めるかもしれない人種的マイノリティーと男女の間の共和党ドナルド・トランプと民主党カマラ・ハリスの支持の傾向について解説して行く。なお、世論調査の内訳はサンプルサイズが小さくなるため、許容誤差が大きくなる(つまりデータの有意性が低くなる)ことに留意が必要だ。
人種的マイノリティーの間で、トランプはどれほどハリスのリードに食い込んでいるの?
数々の世論調査の中で大きな傾向として見えてきているのが、民主党を支持する傾向にある人種的マイノリティーの間でトランプが健闘していることである。
例えば、ケーブルニュースチャンネルであるCNNが実施した直近の世論調査では、黒人の間でハリスが79%、トランプが13%から支持を得ている。これはハリスにとって相当なリードに見えるが、4年前の大統領選の出口調査によると87%がジョウ・バイデンを支持し12%がトランプを支持していたので、民主党候補のリードが75%から66%に縮小している。
ヒスパニック系ではこの傾向がもっと著しく、CNNの世論調査では54%がハリスを支持し37%がトランプを支持しているが、4年前の大統領選では60%がバイデンを支持し30%がトランプを支持していたので、民主党候補のリードが30%から17%まで縮小している。
ハリスの支持がアリゾナ州で芳しくないは、ここではヒスパニック系の投票者が多いからであると考えられる。また、ハリスの黒人の間の支持の縮小も、黒人が特に多い南部のノースカロライナ州やジョージア州だけでなく、都市部に黒人が多く住むラストベルトの3州(ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州)でトランプに勝利をもたらせる決定的な要素になる可能性がある。
トランプは、差別的な発言をする割には人種的マイノリティーの支持を集めているが、これは下記にて記述している男女の間での支持の差が影響している。つまり、トランプはマイノリティの支持を満遍なく広げているのではなく、男性の人種的マイノリティーの間で広げているのだ。
男女の間で、トランプとハリスの支持にはどれほどの違いがあるの?
もともと女性は民主党を支持し男性は共和党を支持する傾向にあるが、今回の大統領選ではそれがいつもに増している。
CNNの世論調査によると、男性は51%がトランプを支持し45%がハリスを支持、女性は50%がハリスを支持し44%がトランプを支持している。男女で12ポイントもある差がジェンダーギャップ(gender gap)と呼ばれている現象だが、これは小さい方で、より顕著な26ポイントもの差が出ている世論調査もある。出口調査によると4年前の大統領選では23ポイントのジェンダーギャップがあったので、性別でもアメリカの二極化が進んでいることが分かる。
アメリカでは女性の投票者の方が男性の投票者より多いことから、トランプにとっては、女性の間でハリスのリードが広がりすぎると、男性の間で同等のリードを保っても敗北する計算になる。2016年のトランプの勝利の秘訣は、初の女性候補であったヒラリー・クリントン相手に、特に都市郊外地域に住む女性のクリントンの支持を抑えられたことだった。
今回の大統領選でもどこまでトランプが女性の間で踏みとどまれるかが注目され、アリゾナ州とネバダ州では特に中絶の権利の観点が関心を引く。
こちらで解説したとおり、中絶の権利は50年間、アメリカ連邦憲法上保護される人権の1つとされてきたが、2022年、トランプが指名した裁判官が1/3を占める連邦最高裁によってこれが覆された。以降、住民投票を通じて中絶の権利を州の法律か憲法で保護しようとする動きが広がり、2024年の選挙では、アリゾナ州とネバダ州で中絶を人権とする州憲法の修正案が住民投票にかけられる。
中絶の権利は特に女性にとって重要な争点なので、アリゾナ州とネバダ州では女性が住民投票のために投票に現れ、”ついでに”大統領選でハリスに投票することで、女性によるハリスの票が伸びる可能性がある。