2023年秋、連邦下院議長のケヴィン・マッカーシー議長(共和党)が解任され、後任が指名されるまで3週間もかかった。一体、何が起こったのか。
具体的には、何が起こったの?
現地時間の2023年10月3日(金)、マッカーシー氏は過半数の決議により議長の職をあっけなく解かれてしまった。
共和党が過半数の議決を有しているにも関わらず解任案(不信任案)が通ってしまったのは、自分の党に所属する8人の議員が造反したからである。
後任の選任においても党内の造反が多発し、4人の有力候補が次々と撤退を強いられたり拒否されたりと迷走した後、3週間経ってやっとマイク・ジョンソンが議長に選任された。
そもそも、議長が解任された理由は何?
マッカーシー議長の予算対応に対する共和党内の不満である。
アメリカ連邦政府の会計年度は10月1日から始まるが、2023年9月30日の期限が近づいても新年度の予算が成立していなかった。問題は下院の共和党で、過半数を有しているにも関わらずマッカーシー議長が党内の意見をまとめられなかったことにある。
予算が通らないと政府機関が”閉鎖”され、連邦政府が機能しなくなる。それを避けたかったマッカーシーは、結局2023年9月30日(木)の深夜に、民主党議員と共和党議員の一部の賛成を以って、2022年度の予算を45日間だけ延長する妥協案を下院を通した。
そして、数日後、民主党と組んだマッカーシー議長が許せなかった共和党議員の一部が、反乱を起こした。
背景には何があったの?
事の発端は2022年11月の中間選挙の結果に遡る。
共和党が圧勝すると思われた中間選挙で、同党は実質敗北。上院は民主党が維持し、下院は共和党(222議席)が僅差で過半数を獲得(民主党は213議席)。(その後空席が発生し、現在は共和党221議席、民主党212議席)。
新議員が就任する議会が開催された2023年1月に最初に行われたのは議長選任の採決であり、それまで院内総務(minority leader)として下院の共和党トップだったマッカーシー氏が当然のこととして議長に横滑りすると思われていた。
ところが、実際に採決して見ると19人が造反し、過半数には遠く及ばなかった。(造反者が5人を越えると過半数に達しない)。こうして、100年ぶりに、議長選任のために複数回の採決が必要になった。
上院と異なり、下院では議長の指名が憲法上求められており(議長が決まるまで新議員の宣誓式さえ行えない)、結果が変わらないことが分かっているのに採決が繰り替えされ、採決を中断するための決議さえ否決されるという始末であった。
造反組には様々な言い分があったのだが、一部「それまで執行部にいたマッカーシー氏は嫌だ」という過激派がいて、マッカーシー氏は彼らを説得するため、1人の議員でも議長解任案を提出できるよう院内規定を改定した(それまでは、解任案は党として提出する必要があった)。
最終的にマッカーシー氏は15回目の採決で議長に選定されたが、議長解任案を容易に提出できる妥協をしてしまったことから極めて脆弱な基盤となってしまい、実際、9ヶ月後に解任されてしまった。
後任はどのように決まったの?
10月11日(水) 共和党は党内の過半数による採決で、院内総務(下院の共和党ナンバー2)のスティーブ・スカリース氏を党の議長指名候補にすることを決定
10月13日(金) スカリース氏は票を数え、議会内の採決ではマッカーシーに対して反乱を起こした造反組の支援を得られないと判断し、議会での採決を取るまでもなく、早々と撤退
同日 共和党は司法委員会会長のジム・ジョーダン氏を次の議長候補に指名。造反組としては納得のいく指名候補だったが、今度は党内の中道派が反発。ジョーダン氏は過激派と見做されており、選挙区の地盤が弱い共和党議員としては党のリーダーとして受け入れられない人物だった
10月17日(火) ジョーダン氏は議会での採決を強行したものの、20人の造反者が発生して議長になれず
10月18日(水) 再度採決し、造反者が22人に増加
10月20日(金) 再度採決し、造反者が25人に増加。採決直後、共和党はジョーダン氏を党の議長指名候補から外す
10月24日(火) 共和党は院内幹事(majority whip)(下院の共和党ナンバー3)のトム・エマーを次の議長指名候補に決定。だが、現行執行部を敵対視してきた元々の造反組に加えてトランプ元大統領にも反対され、5時間後に自ら撤退
同日の夜 共和党は副院内幹事であるマイク・ジョンソンを4人目の議長指名候補に決定
10月25日(水) ジョンソンはほぼ無名議員だったが、その分敵もおらず、議会での採決において造反者を一人も出さず、議長に選任
議長が決まらない間、どうなってたの?
下院での審議が一切進まなかった。
パトリック・ヘンリー氏が仮議長として議長選定の進行を進めていたが、彼にはそれ以外の権限がなかった。下院が麻痺している状態に危機感を感じた一部の議員がヘンリー氏に本議長の権限を付与することを提案したが、ヘンリー氏自身が憲法上の懸念からその案を却下した。
共和党が迷走している間、民主党はどうしてたの?
民主党は一切手を差し伸べなかった。自爆してる敵に塩を送っても、民主党にとっては何のメリットもないからだ。
とはいえ、議長が決まらないと下院は何の法案も通せず、これは国家問題に発展しかねない。当座の懸案としては、そもそも解任騒動の発端となった2023年度の予算があり、11月中旬にはまた政府閉鎖の期限が訪れる。
もはや共和党が纏まれないのであれば、民主党と共和党の一部が組んで、共和党の中道派の議員から議長を選定するしかないのではないかというのが下馬評だったが、これは最後の手段で、共和党の中道派の議員でさえ望んでいなかった。
[この記事は日本時間の10月23日からライブで進捗を追っていた記事を、議長が選任された後、記載を整理して再掲載したもの]