予算がなくなる”政府閉鎖”

予算がなくなる”政府閉鎖”

アメリカの政治でよく話題になる「政府閉鎖」(government shutdown)。そもそも政府閉鎖とは何で、なぜ起こるのかを解説していく。なお、ここでは連邦政府を中心に解説するが、州レベルでも同様のことが起こり得ることに留意されたい。

「政府閉鎖」ってどういう意味?

言葉どおり、連邦政府機関が閉鎖することを意味する。政府閉鎖が起こると、連邦政府の省庁が閉鎖し、市民サービスが提供されなくなる。

「政府閉鎖」は何で起こるの?

予算がないからである。

日本でも同じだが、政府の支出のためには予算が必要である。政府機関の運営に支出が伴う以上、予算が成立しなければ、政府機関を閉鎖する必要があるとされている。

よって、アメリカ連邦政府の会計年度が始まる10月1日までに予算がないと、政府が閉鎖する。

予算が必要なら、予算を成立させればいいんじゃないの?

そう言うほど、連邦政府の予算を成立させることは簡単ではないのだ。

アメリカでは三権分立が徹底しており、予算を含む全ての法案には、原則として、下院、上院、大統領のそれぞれの承認が必要である(訴訟が起こった場合、裁判所の承認も必要だ)。下院議員、上院議員、大統領はすべて独自に選ばれるので、同じ政党が支配しているとは限らない。反対に言うと、上院、下院、大統領のどこかで「ねじれ」が生じている確率の方が高い。

重要なことに、日本と違ってアメリカの憲法には、予算について、下院、上院、大統領のどれかの判断が優先されるという規定がない。また、議会の中でしか「ねじれ」が生じない日本と違って、アメリカでは行政のトップと議会の間でも「ねじれ」が起こり得る。

よって、アメリカでは、予算に限らず、一般的に法律を成立させることが至難の技であると言える。

予算を成立させるのがそんなに難しいなら、アメリカ政府はしょっちゅう閉鎖してるの?

実は、政府閉鎖が起こるようになったのは結構最近の話である。

長年、アメリカでは予算が成立していなくても必要な支出は継続できると見做されていたが、1970年代に入って世論を分断するような政策が予算案に盛り込まれるようになると、予算が成立しなくなることが増えた。

カーター政権は予算がないまま政府を運営することに懸念を示し、予算がなければ支出をしてはいけないという解釈を1980年に取るようになると、それ以降「政府閉鎖」が頻繁に起こるようになった。

実質的な影響がなかった数時間や数日間だけの政府閉鎖を除くと、アメリカ連邦政府の閉鎖は3回起こっている

① 1995年〜1996年の21日間:民主党の大統領、共和党の議会

② 2013年の16日間:民主党の大統領、民主党の上院、共和党の下院

③ 2018年〜2019年の35日間:共和党の大統領、共和党の議会

2018年〜19年は「ねじれ」がなかったものの、アメリカの上院の奇妙な仕組み上、少数の民主党でも審議を止められるため、予算が成立しなかった。

反対に、何で3回の政府閉鎖で済んでるの?

「予算」(budget)とは、各政府機関の予算を精査し、予算の増額や削減を詳細に定めていくプロセスを指すが、別に予算ではない法案を通して支出を担保することも可能だ。

その典型的な例がspending bill(支出法案)、特にcontinuing resolution(継続合意)と呼ばれるものである。

簡潔に言うと、通称CRと呼ばれるContinuiing Resolutionは、詳細な予算を組まず、昨年度の予算をそのまま又は一括的に調整して(x%の増加や減少等)、一時的に継続させる法律である。精密な判断・交渉を行わなくて良いので、CRは予算より議会も大統領も承認しやすい。

CRがあるなら、別に予算がなくてもいいのでは?

CRはあくまで暫定的な処置なので、予算はいずれ必要になる。

政府機関としては、正式な予算がないと、新しいことを始められないし、中長期的な計画を立てることができない。

また、1月1日以降もCRが続くと自動的に予算が1%削減される法律が存在する。

予算もCRもなく政府閉鎖が起こると、何が起こるの?

市民サービスが提供されなくなり、公務員の給与が支払われなくなる。

必要最低限の政府機能は続くが、たとえばアメリカの国立公園は、予算が失効した時点で閉鎖する。

政府閉鎖は公務員に限らず全国民に影響を及ぼすので、とても不人気である。

なぜ政府閉鎖はアメリカでしか起こらないの?

日本を含む多くの国は議会制を採用しているため、立法府である議会と行政府である内閣が同じ政党・連立で構成されており、予算の成立を妨げるような「ねじれ」が起こりにくい。

また、たとえ予算が成立しなくても、前年度の予算が継続されるといった法律が存在する国が多い。

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