トランプ政権は、イーロン・マスク(Elon Musk)主導の下、アメリカ連邦政府の大幅な人員削減に取り組んでいる。ここでは、これまでどのような人員削減が行われ、それがなぜ省庁廃止までに発展し、今後どうなると思われるかについて解説していく。
簡潔に言うと、何が起こっているの?
ドナルド・トランプは大統領選の時から連邦政府の欺瞞、濫用および無駄(fraud, abuse and waste)をなくすことを公約に掲げており、1月20日に就任した直後からそれを実行に移している。
具体的には、トランプはマスクを政府効率化省(「Department of Government Efficiency」、通称「DOGE」)の長官に任命し、DOGEが主導する形で連邦政府の職員の解雇が始まっている。また、トランプは人員削減に止まらず省庁の廃止も目論んでおり、米国国際開発庁(United States Agency for International Development)は既に実質廃止され、教育省(Department of Education)も廃止に向けた動きが始まっている。
なお、DOGEは大統領令に基づいて設立されていることから正式な省庁ではなく、「長官」であるマスクは閣僚どころか政府の職員でさえもない。(DOGEにはマスクとは別の正式な長官がいる)
これまでどのような人員削減が行われてきたの?
就任日の1月20日、トランプは大統領令を通して連邦政府の職員の新規の採用を凍結した。
1週間後の1月28日、人事管理局(Office of Personnel Management)は230万人いるほぼすべての連邦政府職員に対して希望退職を募集するメールを送信した。メールの内容は2月6日までに応じれば9月末までの給与と福利厚生を約束するとしたものであり、題名の「分かれ道(Fork in the Road)」はマスクが旧ツイッター(現X)を買収した直後に社員に長時間働くか退職するかの判断を迫ったメールと同じであることが注目を集めた。最終的には、8万人弱が希望退職に応じている。
2月4日、トランプ政権は米国国際開発庁の職員1万人に対して管理休職(administrative leave)を命じた。管理休職とは雇用されたまま労働義務が免除されることで、通常は解雇の前段と考えられている。
2月11日、トランプ大統領は各省に対して、DOGEと連携し大幅な人員削減の計画を3月13日までに策定することを命じる大統領令を新たに発した。
2月14日、人事管理局は試用期間中の職員(probationary workers)を2月17日までに解雇するよう各省庁に命じた。試用期間中の職員とは現在の職務に就いてから1年未満の職員を指し、採用されたばかりの職員だけでなく昇進したばかりの職員も含まれる。試用期間中の職員は連邦政府全体で24万人いる。
3月21日には2月11日の大統領令で求められた人員削減の計画が揃い、現在、行政管理予算局(Office of Management and Budget)と人事管理局がDOGEと共に内容を審査している。報道によると、防総省(Department of Defense)で60,000人、退役軍人省(Department of Veterans Affairs)で80,000人、教育省で2,000人、社会保障局(Social Security Administration)で7,000人等が削減される予定である。
そんな簡単に政府職員を解雇できるの?
アメリカ連邦政府の職員の雇用は連邦法上保護されており、これは官僚の採用や昇進の判断を行う能力主義制度(merit-based system)の重要な要素である。
もっとも、政府の職員は解雇できないというわけではない。
まず、試用期間中の職員には雇用保護がない。トランプ政権が最初に試用期間中の職員を標的にした理由は解雇しやすいからである。
また、雇用保護対象の職員であっても、正式な人員削減(Reduction in Force、通称「RIF」)の手続きに従えば解雇することができる。RIF手続きの詳細はこちらのマニュアルに記載されているが、解雇を実施する前に希望退職の募集等の代替案を検討する必要がある。それでも解雇する場合、対象者への60日の事前通知や連邦議会・組合への連絡が求められる。
現在DOGEが審査している各省庁の人員削減の計画は、RIF手続きに則った計画となる。
廃止の対象となっている省庁は?
トランプは人員削減だけでなく省庁自体の廃止も目指している。
米国国際開発庁は途上国支援の支出を管理していた庁だが、そこの職員はトランプ就任後1万人から数百人に減った。支出に関する契約は9割以上が解約され、残りの契約の管理は国務省(State Department)に吸収されたため、米国国際開発庁は骨抜きにされた。
教育省のリンダ・マクマホン長官(Linda McMahon)は任命された当初から同省を廃止するのが主な役割だとトランプ大統領から言われており、3月21日、トランプはそれを大統領令を通じて正式に命じた。(連邦制のアメリカでは教育は州の管轄であるため、共和党は長年連邦政府の教育省は不要であると主張していた)
さらにトランプは3月14日、大統領令において以下の庁や準政府機関の廃止を命じた。
- 米国国際メディア庁(U.S. Agency for Global Media)〜世界中で自由で公正な報道を提供することを目的とした政府機関で、Voice of Americaなどのメディアを運営
- ウッドロウ・ウィルソン国際学術センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)〜公共政策に関する研究と討論を促進し、国内や世界の問題に対する解決策を模索するシンクタンク
- 博物館・図書館サービス機関(Institute of Museum and Library Services)〜アメリカ全国の図書館や博物館によるアーカイブの支援を行う政府機関
- ホームレス防止協議会(United States Interagency Council on Homelessness)〜ホームレス問題に対する予防と支援策の実施を主導する政府機関
- 連邦調停・調整サービス(Federal Mediation and Conciliation Service)〜労働紛争を解決するために調停を行う政府機関
- コミュニティ開発金融機関基金(Community Development Financial Institutions Fund)〜経済的に恵まれない地域に金融支援を提供し地域経済の発展を促進する準政府機関
- 少数民族事業開発機関(Minority Business Development Agency)〜人種的マイノリティーが所有する企業の成長を支援する政府機関
そんな簡単に省庁を廃止できるの?
連邦政府の省庁は立法プロセスを経た法律によって設立されていることから、省庁を廃止するためにも法律が必要で、大統領は独断で省庁を廃止する権限を有しない。
もっとも、省庁を運営するにあたって大統領には人員削減を行う権限があるので、人員をなくすことで省庁を(米国国際開発庁のように)「空のハコ」にしてしまうことは可能である。
人員削減を通しての省庁の実質的な廃止は大統領と連邦議会の権限のぶつかり合いであり、過去にも稀な三権分立の観点の議論を引き起こしている。
人員削減・省庁廃止に関する訴訟は起こされていないの?
共和党が上院も下院も過半数を占めている連邦議会はトランプの言いなりなので、トランプの権力行使に歯止めをかけられるのは司法府しかないと考えられている。実際、既に多数の訴訟が提訴されているが、トランプ政権を止めることには至っていない。
たとえば、すべての連邦政府の職員が対象となった1月28日の希望退職の募集は、連邦裁判官が一時凍結したもののすぐに凍結が解除され、実行された。
人事管理局が2月14日に命じた試用期間中の職員の解雇は、3月13日に連邦裁判官2人が差し止めたが、トランプ政権は職員を職場に復帰させるのではなく管理休職にすることで命令に応じるとしたいようだ。
今後、省庁の廃止に関する訴訟が起こることが想定されるが、大統領が存続させたくない省庁を大統領に無理矢理運営させることは困難であるのが現実だ。
人員削減や省庁廃止以外、どのような対策が取られているの?
トランプ政権は政府の無駄を減らすために外部委託を削減することを各省庁に強く推奨しており、このことは既にコンサルティング会社アクセンチュアの業績に影響を及ぼしている。
さらに、トランプは連邦政府のによる支出の全面的な凍結を試みたが、これは撤回された。
人員削減はどのように世間に受け取められているの?
トランプ支持者の間でもDOGE主導の人員削減は不評である。
アメリカの連邦議員は週末や連休に地元に戻って有権者と談話するタウンホールを実施する慣習があるが、共和党牙城の選挙区選出の連邦議員でさえ有権者から追及を受けたりヤジを飛ばされることが増えており、マイク・ジョンソン下院議長(Mike Johnson)はタウンホールの開催を控えるよう指示している。世論調査を見ても、6割のアメリカ人が政府の支出には無駄があると考えながらも、DOGEによる人員削減には反対している。
人員削減が反対される理由として、選挙で選ばれてないマスクが取り組みを主導していることへの不満を挙げる有権者が多いが、実際には、人員削減の影響を既に受けているか今後受けることを懸念しての反応である可能性が高い。
連邦政府はアメリカ国内最大の雇用主であり、職員は全50州に散らばっている。大幅な人員削減が行われると、大半のアメリカ人が解雇された親族や知り合いを1人でも知ることとなる。また、医療や年金といった社会補償制度は広く支持されており、人員削減がそれら市民サービスに影響を及ぼすことが懸念されていても不思議ではない。
今後どうなっていくの?
2期目就任後のトランプは、1期目には感じられなかった明確な目標とそれに向けた実行力があり、人員削減についても迅速に動いている。この先、RIF手続きに基づいて本格的な人員削減が実施されていくことが想定される。
共和党が支配している連邦議会が(タウンホールで批判に晒されながらも)トランプの言いなりになっている中、歯止めをかけるとしたら司法府だが、判断に時間を要する裁判所がタイムリーにトランプ政権を止めるのは難しい。政権側もそれを見越して、裁判所にいずれ止められるまで最大限権力を行使する方針を採っている様子だ。
トランプ政権自体が頓挫するとしたら、マスクとトランプが仲たがいするシナリオかもしれない。マスクもトランプもエゴにあふれた億万長者であることから、ある日突然不和になるのではないかと以前から囁かれている。