無力だけど選挙に影響を及ぼすアメリカの第三極の政党

無力だけど選挙に影響を及ぼすアメリカの第三極の政党

アメリカは民主党と共和党で構成される二大政党制だが、他の政党が存在しないわけではなく、無所属の候補が当選できないわけでもない。ここでは、アメリカの選挙における民主党と共和党以外の勢力について解説する。

そもそもなんでアメリカは二大政党制なの?

民主党と共和党から構成される現行二大政党制は1850年代に誕生したが、それ以前からアメリカは二大政党制だった。

この背景には、大統領選連邦上院選連邦下院選がすべて定数1で、概ねどの州も相対多数制を採用していることがある。(州レベルでも州議会の選挙の大半は定数1である)。

得票数が最も多い候補が1人しか当選できないと、自然と二大政党制になる。

民主党、共和党以外にどのような政党があって、どれくらいの勢力があるの?

全国的な知名度がある政党としては、リバタリアン党(Libertarian Party)と緑の党(Green Party)がある。

リバタリアン党は右寄りで、レッセフェール経済主義や行政の規制に反対する自由主義の政党。緑の党は左寄りで、環境視点の政策を重視する政党。いずれも、大統領選どころか連邦上院選および連邦下院選で候補者を当選させられたことがなく、勢力は共和党・民主党に大きく水を開けられている。

アメリカの投票者は主に投票用紙に載っている候補者・政党名から投票先を選ぶため、政党にとって投票用紙に党名が掲載されることが命だが、投票用紙に載るための条件である①前回の選挙で一定数の得票率に達している、または②一定数の有権者の署名を集める、のどちらかを50州すべてで満たせている政党は、共和党・民主党・リバタリアン党以外にない。

新しい第三極を作ろうという動きはないの?

どの時代も政治に対する不満が二大政党制(具体的には、共和党と民主党)に向かう。よって、第三極を誕生させることこそが政治改革であると意気込む政治活動家が絶えないが、上述した選挙制度の壁は高い。

直近で台頭できた”第三極”の政党は1850年代に誕生した共和党だが、これはウィッグ党の消滅に伴うものだったので、二大政党制を構成する政党が入れ替わっただけに過ぎなかった。

第三極の政党が蜃気楼なら、無所属での出馬は絶望的なの?

意外と、必ずしもそうとは言えない。

“無所属”にもいろいろあって、元々共和党か民主党に所属していた議員なら、無所属でも有力な候補となり得る。たとえば、2010年の連邦上院選では、アラスカ州の現職連邦上院議員だったリーサ・マーカウスキー(Lisa Murkowski)が共和党の予備選で敗北してしまったものの、めげずに本選挙に無所属で出馬し、共和党の指名候補(予備選で負けた相手)と民主党の指名候補を破って再選を果たしている。

なお、時々知名度が高い有名人が出馬すれば健闘するという世論調査が出てくるが、こういった候補が実際に出馬しても、選挙が近づくにつれて支持が落ちていき、投票箱を開けてみると得票率が一桁台、となるのが通常の終焉である。

大統領選で健闘した第三極または無所属の候補はいるの?

“健闘”の定義による。

大統領選は”選挙人”の獲得争いであり、各州の選挙人を獲得するためには概ねその州で最も得票数が多くなければならない

州全体で共和党・民主党の指名候補を上回る票を獲得するのは至難の技で、最後に実現できたのは、1968年の大統領選で5つの南部の州の選挙人を獲得できたジョージ・ウォレス(George Wallace)である。1850年代に共和党が設立されて以降、民主党・共和党以外の政党が選挙人の獲得数で2位に食い込めたのは、共和党の大統領だったセオドア ・ルーズベルト(Theodore Roosevelt)が進歩党(Progressive Party)を立ち上げて出馬し、共和党の票を奪った1912年の大統領選のみである。

得票率だけをみれば、億万長者ロス・ペロー(Ross Perot)が1992年の大統領選で20%弱の票を獲得している。選挙人を獲得するまでには至らなかったものの、メイン州(Maine)で共和党の指名候補だったジョージ・H・W・ブッシュ大統領(George W. Bush)を、ユタ州(Utah)で民主党の指名候補だったビル・クリントン(Bill Clinton)を上回った。ペローはこの結果を踏まえて改革党(Reform Party)を設立し、1996年の大統領選にも出馬したが、得票率が8%に沈んで勢いを維持できなかった。

ということは、第三極や無所属の候補の存在は考慮しなくていいの?

そうともいえないのが、「妨害効果(spoiler effect)」のためである。

これは何かというと、共和党候補と民主党候補が拮抗している選挙において、一騎打ちなら共和党または民主党に入るはずの票の一部が第三極・無所属の候補に流れて、選挙の結果が変わってしまう現象を指す。

よく挙げられる例が2000年の大統領選である。この選挙では、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)がフロリダ州の選挙人を約500票差で獲得しアル・ゴア副大統領(Al Gore)を破ったが、同州では緑の党の指名候補だったラルフ・ネーダー(Ralph Nadar)が10万票弱獲得していた。左寄りだったネーダーの票はゴアに入っていたはずだと思われており、ネーダーさえ出馬していなければ、ゴアはフロリダ州そして大統領選を勝利できていたと考えられている。

なお、優先順位付投票制を採用しているメイン州(Maine)とアラスカ州(Alaska)、および(大統領選以外で)多数決制を採用しているジョージア州(Georgia)では、当選するためには過半数を獲得する必要があるので、「妨害効果(spoiler effect)」が起こりえない。

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