トランプによる国連大使指名の撤回~背景にあるのは政権と下院の運営の厳しさ~

トランプによる国連大使指名の撤回~背景にあるのは政権と下院の運営の厳しさ~

ドナルド・トランプ大統領は現地時間の3月27日(木)、エリス・ステファニク下院議員(Elise Stefanik)の国連大使指名を撤回すると発表した。ここでは、これがなぜ異例の出来事で、なぜトランプ政権の厳しい運営を示しているかについて解説していく。

簡潔に言うと、何が起こったの?

トランプは昨年11月に大統領選で勝利した直後、ステファニク連邦下院議員を国連大使に指名すると発表した。国連大使は連邦上院による承認が必要なポストで、承認は現地時間の4月2日(水)に得られる予定であった。

指名の撤回について、トランプは僅差で共和党が過半数を占める連邦下院での共和党の支配を維持するためだと説明した。現在の下院の構成は、共和党218議席、民主党213議席。辞職や死亡による空席が4議席あり、そのうち2議席について現地時間の4月2日にフロリダ州で補選が行われることになっており、最近の世論調査によると共和党が1議席失う恐れが出てきた。

ステファニクが国連大使に就任すると連邦下院議員を辞任する必要があり、補選が実施される。トランプは下院での現状を踏まえ、ステファニクの議席を失うリスクは取れないと判断したようだ。

ステファニク1人に辞任されると困るほど、共和党の下院の支配は微妙なの?

議席数だけを見れば、共和党はステファニクの議席を失う余裕があった。

昨年の大統領選と同時に実施された連邦下院選で、共和党は220議席、民主党は215議席獲得した。その後、トランプ政権のポストに指名された共和党の議員2名が辞任し、民主党の議員2名が死去したので、現在の構成に至っている。4議席ともそれぞれの党の牙城であることから、補選によって党勢が変わることは想定されていなかった。

ところが、フロリダ州で行われる補選の1つで、共和党の候補が民主党の候補を5%しかリードしていない世論調査が公表される。11月の選挙で共和党が33%の差で圧勝していた選挙区だったことから、選挙の1週間前に党内で激震が走った。

ステファニクはニューヨーク州北部の選挙区選出。ニューヨーク州での共和党の勢力はフロリダ州ほど強くなく、11月の選挙におけるステファニクの勝利の差は24%だった。共和党が牙城であるフロリダ州の補選で追い上げられれば、ステファニク辞任後の補選で議席を失いかねないという懸念が共和党内で広がった。

もっとも、共和党がフロリダ州の1議席とステファニクの議席を失っても、下院の構成は共和党218議席、民主党217議席となり、共和党はギリギリで過半数を維持できる。だが、昨年末のつなぎ予算のドタバタ年明けの議長選びで明確になった通り、連邦下院の共和党は常に10人程度の「造反待機組」を抱えている。

トランプによるステファニクの国連大使指名の撤回は、議席数を超えての共和党の下院運営の厳しさを語っている。

ステファニックへのインパクトは?

ステファニクは今週中にも辞任する予定だったので、スタッフがおらず議員として活動しにくい状態である。

さらに重要なことに、ステファニクは昨年まで連邦下院における共和党ナンバー4の党会議議長(Party Conference Chair)を務めていた。国連大使の指名を受けたことでこのポストを離れたが、マイク・ジョンソン議長(Speaker Mike Johnson)は指名撤回を踏まえステファニクが執行部に復帰すると表明した。だが、党会議議長を含め執行部のポストはすべて埋まっているので、ステファニクが本当に執行部に復帰できるのか不透明である。

一般的に、執行部を離れた連邦下院議員は、一兵卒の議員として残るのではなく、次の選挙を待たず議員辞職する傾向がある。大統領が議会運営を理由に閣僚や大使の指名を撤回すること自体が稀だが、執行部まで上り詰めた議員が無役で議会に残るのも珍しい。

こうした事情から、ステファニクが国連大使指名の撤回を受け入れたことは、トランプへの忠誠心の強さの証とも言える。

この出来事から、今後のトランプ政権運営について何を予測できるの?

これまでのトランプは大統領令を連発することで政策を実行してきたが、アメリカの立法プロセス大統領令の限界を踏まえるといずれは連邦議会の協力が必要となり、思われていた以上に共和党の議会運営が厳しくなりそうだ。

昨年末のドタバタ劇で懸念されていたつなぎ予算の延長は、民主党執行部の一部が共和党と歩調を合わせたため、現地時間の3月17日に思いの外あっさりと可決された。したがって、世間的には民主党が結束力を欠かしており、共和党の議会運営は当面なんとかなりそうだという空気になりつつあった。

だが、トランプや共和党の連邦下院執行部の見通しは違ったのだろう。まったく油断を許さない状態だと判断したからこそ、ステファニクに対して無理を通したと思われる。

したがって、この先、共和党の連邦下院議員のスキャンダルや死去が政局につながる可能性がある。連邦下院議員は全員が2年ごとに改選を迎えるため、大統領は就任後、議会が選挙モードに入る前の1年数ヶ月しか思い通りの議会運営ができないと考えられており、下院で政局が起こる余裕がトランプにはない。

ステファニクの指名撤回は、ちょとしたことでトランプ政権がぐらつきかねないことを示唆している。

 

 

1
0

コメントを残す