連邦上院の奇妙な審議の仕組み

連邦上院の奇妙な審議の仕組み

アメリカの上院では、議員100人の全会一致合意が原則となっている。ここでは、なぜそんな仕組みになっているのか、そんな仕組みで機能するのか、全会一致合意が得られないときはどうなるのかを解説していく。

そもそも、上院ってどういう議会なの?

アメリカの上院議員は100人しかいない。アメリカ連邦憲法上、各州に2人ずつ議席が割り当てられることになっており、この規定は憲法の改正手続きに則って改正できないほど、アメリカ連邦政府の根本的な要素をなしている。

最も人口が少ないワイオミング州も68倍の人口であるカリフォルニア州も同数の議席しかないため、”一票の格差”が著しい。反対に、アメリカの人口を踏まえると上院は極端に議員の数が少ないと言え、この事実が上院の”全会一致合意”の原則の背景にある。

上院の議長はどうやって選ばれるの?

アメリカ連邦憲法上、議長の立場にいるのはアメリカの副大統領で、上院の採決が同数になった際に決定票を投じる権利を有している。

行政のナンバー2である副大統領が議長の立場にいるのは、アメリカの上院の特色の一つだ。副大統領は上院議員でないため、上院の規定上、副大統領には決定票を投じる以外の権限は実質与えられていない。これは、審議の進行について強大な権限を有している下院議長と大きく異なる。

実施的に議長がいないなら、上院では誰が最も権限を持ってるの?

上院での最権力者は、過半数を有している政党(議席数が同数である場合は、副大統領の政党)のナンバー1である院内総務(majority leader)。

じゃあ、上院の審議の進行は多数政党の院内総務が決めるの?

理論上はそうであるが、実態はそうはいかない。なぜなら、上院には全会一致合意の原則があるからである。

全会一致合意って、具体的にはどういうこと?

上院では、審議時間が原則として無制限となっている。「議員が少ないので、全議員で徹底に議論しよう」という考えだ。

そうなると、ある法案について1人の議員が永遠と演説を続ければ、その間、審議は停滞してしまう。この審議引き延ばしの行為はフィリバスター(filibuster)と呼ばれ、1957年にストロム・サーマンド議員が24時間18分演説し続けたのが最長の記録である。

演説は法案の内容と関連してる必要はないので、たとえば小説を読み続ける、みたいなことも認められる。また、近年は議員が実際に演説をせず「フィリバスターの権利を行使する」と発言するだけで法案の審議が放棄されることが多い。

現実問題として、全会一致合意は難しいのでは?

確かに。よって、審議打切り動議(cloture)を採択すればフィリバスターを終了させられるプロセスがある。

審議打切り動議を可決するには3/5の賛成が必要。アメリカの上院において、審議の進行の主導権を握るためには60議席が必要であると言われるのは、このためである。

審議入りは少なくとも多数政党の院内総務が決められるの?

法案の審議入りも、実質、反対する議員がいないことにかかってる。

院内総務が提案する法案の審議・進行のスケジュールに対して、どの議員も反対することができる。これはホールド(hold)と呼ばれ、院内総務は尊重する必要がないのだが、審議入りした後のフィリバスター等の”報復”が恐れられるので、通常は尊重される。

こんな仕組みで、上院はどのように機能してるの?

審議打切り動議以外にも、予算であればreconcilliationと呼ばれるプロセスでフィリバスターを回避し、単純な過半数で採決することが可能である。

もっとも、こういったプロセスはあくまで例外。よって、全会一致合意の上院は実質機能していない、というのがよく耳にする批判だ。

ただ、小選挙区制度で過激派の議員が当選しやすい下院と異なり、上院は選挙区が州単位であることから、中道的な議員が当選しやすい。よって、上院議員の方が下院議員より妥協について前向きであることも事実である。

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