連邦上院の奇妙な審議の仕組み

連邦上院の奇妙な審議の仕組み

アメリカの上院では、審議をどのように進めるかについては議員一人ひとりに強い権限が認められており、実際の議事運営では議員100人の「全会一致合意」が重要な役割を果たしている。なぜそんな仕組みになっているのか、全会一致合意が得られないときはどうなるのか、そしてなぜ上院では「60票」が重要なのかを解説していく。

そもそも、上院ってどういう議会なの?

アメリカの上院議員は100人しかいない。アメリカ連邦憲法上、各州に2人ずつ議席が割り当てられることになっており、この規定は憲法の改正手続きに則って改正できないほど、アメリカ連邦政府の根本的な要素をなしている。

最も人口が少ないワイオミング州も68倍の人口であるカリフォルニア州も同数の議席しかないため、”一票の格差”が著しい。反対に、アメリカの人口を踏まえると連邦上院は極端に議員の数が少ないと言え、435人の連邦下院と比べて議員一人ひとりに強い権限が認められている。この特徴は、後述する全会一致合意やフィリバスターなど、上院独特の審議の仕組みにも表れている。

上院の議長はどうやって選ばれるの?

アメリカ連邦憲法上、議長の立場にいるのはアメリカの副大統領で、上院の採決が同数になった際に決定票を投じる権利を有している。

行政のナンバー2である副大統領が議長の立場にいるのは、アメリカの上院の特色の一つだ。ただ、近年では副大統領が議事運営を実質的に取り仕切ることはほとんどない。この点で、上院における副大統領は、審議の進行について強大な権限を有している下院議長とは大きく異なる。

実質的に議長がいないなら、上院では誰が最も権限を持ってるの?

上院で議事運営について最も大きな影響力を持つのは、多数党(議席数が同数である場合は、副大統領の政党)のトップである多数党院内総務(majority leader)である。多数党院内総務は、どの法案をいつ審議するかなど、上院本会議の日程を主導できる立場にいる。

では、上院の審議の進行は多数政党の院内総務が決めるの?

多数党院内総務が上院の議事日程を主導するが、下院議長のように多数派の力だけで審議を自由に進められるわけではない。

大きな理由は、原則として、上院では議員一人に与えられる討論時間に上限がないことである。これは「議員が少ないので、全議員で徹底的に議論しよう」という考えである。議員一人ひとりに審議について強い権限が認められているので、多数派が法案の採決を望んでいても、少数派の議員一人が審議を引き延ばすことができる。

このため、上院では多数党と少数党が事前に合意し、「全会一致合意(unanimous consent agreement)」によって審議を進めることが多い。

全会一致合意って、具体的にはどういうこと?

多数党院内総務などが議事の進め方を提案し、どの議員から異議がなければ、その内容で審議を進める仕組みである。全会一致合意を通して、本来必要となる議事手続を省略したり、法案の討論時間を制限したり、採決の日時を決めたりする。

名前のとおり、一人でも異議を唱えれば全会一致合意は成立しない。全会一致合意が成立しないと、簡略化しようとしていた手続を通常の議事手続に従って進める必要が生じる。

全会一致合意が得られないとどうなるの?

上院では原則として討論時間に上限がないため、法案に反対する議員は議事手続を利用して審議を長引かせ、採決を阻止することができる。これを「フィリバスター(filibuster)」という。

歴史的には、議員が長時間にわたって演説を続けることで採決を阻止する方法が使われてきた。演説は法案の内容と関連してる必要はないので、たとえば小説を読み続ける、みたいなことも認められる。1957年にはストロム・サーモンド(Strom Thurmond)上院議員が公民権法案に反対して24時間18分にわたってフィリバスターを行った。

ただし、現代のフィリバスターでは、議員が何時間も演説を続ける必要はない。41人以上の議員がフィリバスターを支持すると、下記にて説明しているクローチャーに必要な60票を確保できなくなるので、その法案を採決まで進めないことが多い。このように、実際に長時間の演説をしなくても採決を事実上阻止できる方法は「サイレント・フィリバスター(silent filibuster)」と呼ばれる。

現実問題として、全会一致合意は難しいのでは?

全会一致合意が得られず、少数派がフィリバスターによって採決を阻止しようとしても、上院には討論を強制的に終了させる「クローチャー(cloture)」という手続がある。通常の法案についてクローチャーを成立させるには、上院議員の5分の3、欠員がない100議席では60人の賛成が必要になる。

厳密に言えば、法案そのものを可決するためには60票は必要ではない。しかし、少数派がフィリバスターによって審議を停滞させると採決が阻止されるので、可決するための採決まで進めるために60票が必要となる。アメリカの上院においては、法案を通すには60票必要と言われるのは、このためである。

一人の議員が法案の審議入りを止めることもできるの?

上院議員は、特定の法案や人事について全会一致合意によって審議を進めることに異議を唱える意向を院内総務に伝えることがある。これは「ホールド(hold)」と呼ばれる。

ホールド自体に法案の審議を法的に禁止する効力があるわけではない。多数党院内総務はホールドを無視して審議を進めることもできる。しかし、その場合にはフィリバスターなどによって多くの議事時間を費やす可能性があるため、実務上、院内総務がホールドを考慮することが多い。

このような仕組みで、上院はどのように機能してるの?

フィリバスターを乗り越える方法は、60票を集めることだけではない。クローチャー以外にも、一定の歳入・歳出などに関する法案であれば予算調整法案(budget reconciliation bill)という特別な手続を利用することでフィリバスターを回避し、単純な過半数で採決まで進むことが可能である。また、大統領が指名した閣僚や連邦裁判官の人事についても、過半数で承認の採決まで進むことができる。

もっとも、こういったプロセスはあくまで例外。よって、フィリバスターがある連邦上院は実質機能していない、というのがよく耳にする批判だ。

一方、この仕組みには、多数派だけで政策を決定するのではなく、少数派との交渉や妥協を促すという側面もある。小選挙区制度で過激派の議員が当選しやすい下院と異なり、上院は選挙区が州単位であることから、上院議員はより中道的になる傾向がある。よって、一般的に、上院議員の方が下院議員より妥協について前向きであるとみられている。

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