連邦制であるアメリカを理解する上では、50州すべてが制定している州憲法の理解が欠かせない。ここでは、州憲法の特徴について、アメリカ連邦憲法と比較する形で解説していく。なお、連邦憲法の特徴の解説はこちらから参照。
州憲法にはどのような特徴があるの?
- 州憲法はすべての州が制定しており、連邦憲法より古いものが存在する
- 統治の仕組みは、連邦憲法と州憲法で大きく異なる場合がある
- 州憲法は、アメリカ連邦憲法や連邦法と矛盾しない限り、何でも規定していい
- 連邦憲法にはない権利や事項が、州憲法には規定されている
- 連邦憲法と同じ文言の条文でも、州憲法は異なる基準で解釈され得る
- 州憲法を解釈する権限は州裁判所に専属し、連邦裁判所は関与できない
- 州憲法は住民投票などによって改正できるため、連邦憲法より改正しやすい
以下、1つずつ解説していくが、いずれの違いも、アメリカでは州憲法やそれを解釈する州最高裁が極めて重要であることを意味する。
なぜすべての州が州憲法を制定しているの?
連邦憲法はアメリカの各州が共和政体(republican form of government)であることを求めており、これは各州が州憲法を制定する必要があると解釈されている。
州憲法の中には、連邦憲法より歴史が古いものが存在する。代表例がマサチューセッツ州(Massachusetts)の憲法であり、この憲法は、連邦憲法が批准された1788年より前の1780年に制定されたため、「世界で最も古い成文憲法」とされている。マサチューセッツ州憲法が連邦憲法のモデルとなった。
統治の仕組みは連邦憲法と州憲法でどう異なるの?
連邦憲法がアメリカ合衆国の統治の仕組みを定めているのと同じように、州憲法は州の統治の仕組みを定めている。そして、州によっては、統治機構の設計がアメリカ合衆国と大きく異なることがある。
たとえば、連邦憲法は連邦議会について上院・下院の二院制を採用しているが、ネブラスカ州(Nebraska)の憲法は州議会を一院制にしている。また、多くの州憲法では、州裁判所の裁判官は選挙で選ばれるものとしている。さらに、連邦憲法は連邦裁判所が具体的な事件とは関係ない意見、いわゆる勧告的意見(advisory opinion)を表明することを禁止していると解釈されるが、州憲法の中には、州裁判所に勧告的意見を出す権限を明示的に与えているものがある。
州憲法は基本何でも規定していいとは、どういうこと?
アメリカ連邦憲法上、連邦議会の立法権は明示的に列挙されている事項に限定されており、それ以外の一般的な立法権は州にある。これはアメリカの連邦制の根本構造であり、その帰結として、連邦最高裁が認めていない権利を州最高裁が州憲法に基づいて認めるという現象が起こる。
このため、州憲法と連邦憲法の関係を単純に「連邦が上、州が下」と理解するのは適切ではない。どちらも並立しており、唯一の上下関係は、州憲法が連邦憲法や連邦法に反すると、連邦憲法の優越条項(Supremacy Clause)に基づいてその部分が無効となる場合である。
言い方を変えると、連邦憲法は最低限の基準を定めており、州はこれを下回ることはできないが、州がその最低基準を上回る形で独自により強い権利保障を行うことは問題がない。
州憲法には連邦憲法にはないどのような権利や事項が規定されているの?
多くの州憲法には、連邦憲法には存在しない基本的人権が規定されている。代表的な例が教育を受ける権利で、連邦最高裁は連邦憲法において教育の権利はないという判決を下しているが、すべての州憲法は公教育について明記している。
また、州憲法は人権以外にも、連邦憲法よりはるか多くの事項について定めている。たとえば、コロラド州(Colorado)の憲法は州の課税権を制約しており、モンタナ州(Montana)の憲法は環境保護について規定している。
州憲法はなぜ連邦憲法と異なる基準で解釈されるの?
州憲法と連邦憲法で条文がほぼ同一であっても、解釈基準が異なる場合がある。これは、州憲法の解釈において、州最高裁は原則として連邦最高裁による連邦憲法の解釈に拘束されず、自由に解釈できるからである。
たとえば、「法の下の平等」の基本原則は連邦憲法にも州憲法にもあるが、2015年に連邦最高裁が連邦憲法に基づいて同性結婚を全国的に認めた以前から、複数の州最高裁が州憲法に基づいて同性結婚を州内において認めていた。
したがって、連邦最高裁が「合憲」とした法律や制度が、州憲法の下では「違憲」と判断されることも決して珍しくない。
なぜ連邦裁判所は州裁判所による州憲法の解釈に関与できないの?
州憲法の解釈は最終的に州最高裁が行うこととなっており、たとえ連邦最高裁であってもその判断を覆すことはできない。これは、連邦裁判所が判断できるのは、原則として、連邦憲法や連邦法に関する問題に限られるからである。
連邦最高裁は州憲法を連邦憲法違反として無効にすることができるが、それは連邦憲法を解釈する権限であって、州憲法を解釈する権限ではない。
州憲法はどのように連邦憲法より改正しやすいの?
住民発案と住民投票による憲法改正を認めている州が多いなど、州憲法は連邦憲法と比べてはるかに改正しやすい。
これは、民主主義的に重要な意味を持つ。他方、州最高裁の判決が住民の意思による憲法改正によって容易に覆されたり、特定の利益団体を守るための「法律レベル」の内容が憲法に書き込まれるといった課題が生じる。
これに対し、州最高裁はしばしば、改正の手続きを厳格に審査したりするなどで対抗する。ここには、基本秩序を形成する憲法を、多数決政治からどのようにどこまで守るべきかという法的論点がある。