連邦最高裁が判決に至るまでの流れ

連邦最高裁が判決に至るまでの流れ

アメリカ連邦最高裁が判決に至るまでの流れは概ねどの案件でも同じである。ここでは、①サーティオラリ令状(writ of certiorari)の申立て → ②当事者双方による書面提出と裁判官の前で行われる口頭弁論 → ③裁判官による秘密投票と意見書の執筆割当 → ④意見書草稿の回覧と裁判官の票の変動 → ⑤予告ない公表、という流れを解説する。また、近年重要性が増している「シャドウ・ドケット(shadow docket)」という別系統の意思決定ルートについても触れる。

連邦最高裁に審理を求めるためのサーティオラリとはなに?

連邦最高裁が審理する大半の案件は、連邦控訴裁判所(United States Courts of Appeals)で敗訴した側、または州の最高裁で敗訴した側が、連邦最高裁に対して「審理してください」と求めるところから始まる。この申請は、サーティオラリ令状と呼ばれる申立てを提出することで行われる。

ここで重要なのは、連邦最高裁が自動的に案件を審理するわけではないという点である。連邦最高裁は、年間数千件のサーティオラリ令状申立てを受け取るが、実際に受理されるのはそのうちのごくわずかだ。連邦最高裁にとっては、「どう判断するか」以前に、「どの案件を選ぶか」が極めて重要な判断であると言える。

最高裁は、「この案件を扱う価値がある」と判断した案件についてのみサーティオラリを受理(grant of certiorari)する。受理に必要なのは、過半数の5票ではなく4票であることに注意が必要だ。

受理する主な理由としては、連邦控訴裁判所間で判断が割れており全国的に法解釈を統一する必要がある場合や、憲法・連邦法の重要論点がある場合などが挙げられる。よって、近年の連邦最高裁は政治的だと言われるものの、この段階での連邦最高裁の判断については政治的な解釈だけでは読み解けない。

サーティオラリが受理されると、当事者は連邦最高裁に対してどのように主張を展開するの?

まずは、当事者双方の代理人が案件についての主張を体系的に書面で提出する。また、当事者以外の第三者が、裁判所による判断の助けとなるよう、いわゆる第三者意見書(amicus curiae briefs)を提出することも認められる。第三者意見書は、案件を取り巻く社会の状況を裁判官に説明したり、判決がどのような波及をもたらすかを裁判官に意識させるなどの役割を果たす。

書面のやり取りが終わると、口頭弁論に進む。口頭弁論では、当事者の代理人が限られた時間の中で主張を述べ、それに対して裁判官が鋭い質問を次々に投げかける。裁判官は事前に書面を通じて相当程度の心証を形成しているので、口頭弁論は裁判官が自分の理解を確認したり、他の裁判官の関心点を探ったりする場として機能する。

連邦最高裁に提出される書面も口頭弁論も公開の対象となる。特に口頭弁論が注目される理由は、各裁判官がどのような質問をしたか、当事者双方の代理人の主張に対してどう反応したかなどによって、その裁判官がどう判断するのかが見えてくるためである。

口頭弁論後、裁判官はどのように”投票”し、意見書の執筆担当はどのように割り当てられるの?

口頭弁論が終わると、裁判官だけの秘密会議が開かれ、議論と投票が行われる。順番は、裁判長が最初に見解を述べ、その後、在籍年数が長い裁判官から意見を述べていくとされている。この段階で多数派と少数派の構図が見えるが、まだ確定ではない。

多数派が形成されると、次に誰が法廷意見(opinion of the Court)を書くかの決定に移る。裁判長が多数派にいる場合は、裁判長が法廷意見を自分で執筆するか、担当する裁判官を指名する。裁判長が少数派にいる場合は、多数派の中で在籍年数が最長の裁判官がこの役割を担う。少数派の間でも同様に、反対意見(dissenting opinion)の執筆担当を裁判長か在籍年数が最長の裁判官が決める。

執筆担当の割当は単なる事務作業ではなく、極めて戦略的に行われる。理由は、誰が法廷意見を書くかによって、判決の射程や使われる理屈が変わるためである。たとえば、多数派を5人以上で維持するために妥協的な裁判官に書かせることがあれば、法理を明確に打ち出すために主張が強い裁判官に任せることもある。

意見書の回覧によってどう”票”が動くの?

執筆担当の裁判官は、書き上げた意見書の草稿を他の裁判官に回覧する。当初は、法廷意見は多数派だけに、反対意見は少数派だけに回される。

草稿を踏まえて、他の裁判官は、射程を狭めるよう働きかけたり、論点や表現の強度を調整するための文言修正などを求める。これが繰り返される過程で草稿に賛同が得られないと、他の補足意見(concurrence)や反対意見(dissent)が執筆されるようになる。場合によっては、当初は多数派だった裁判官が支持を撤回したり、少数派の裁判官が多数派に移ることもある。

最終的に法廷意見、補足意見、反対意見が固まると、各裁判官はどの意見のどの部分に賛同するかを表明する。過半数を得た意見が連邦最高裁の正式な「判決」となるが、意見が割れることもある。たとえば、5人の賛同を得られる意見がないと、複数の意見の組み合わせによって判決が構成される。この場合、意見の理屈が異なるので「正式な判決」が不明瞭になることがある。

判決はいつどのように公表されるの?

どの判決がどの日に公表されるのかは、事前に通知されない。ただ、判決公表日は連邦最高裁のホームページに掲載される予定表で確認できる。

連邦最高裁には「在廷期(Term)」と呼ばれる年度単位の運用があり、これは毎年10月に始まり翌年6月末か7月初旬に終了する。サーティオラリの受理から意見書の公表は、原則としてこの在廷期の枠内で進められる。

一般的に、全会一致の案件や、比較的争いの小さい案件が先に公表され、意見が割れる案件ほど在廷期の終盤まで残る傾向がある。6月後半に公表される判決が注目されがちなのは、このためである。

シャドウ・ドケットとは、どういう意思決定の方法なの?

「シャドウ・ドケット」とは、サーティオラリを経ない、口頭弁論を伴わない、緊急判断や仮処分を指す。典型的な例は、下級裁判所が出した差止命令(injunction)を連邦最高裁が解除することである。

「シャドウ・ドケット」には、以下の特徴がある。

  • 当事者からは簡素な書面しか提出されず、第三者意見書は提出されない
  • 口頭弁論は行われない
  • 判決は短い命令文だけで示されることが多く、理由や法的根拠が明記されない

このように透明性が乏しいため、この意思決定プロセスは「陰の事件の一覧表」を意味する「シャドウ・ドケット」と呼ばれる。

「シャドウ・ドケット」は緊急的な暫定措置にすぎず、その後、案件は上記で説明した通常のプロセスに基づいて進行する。通常のプロセスは、「シャドウ・ドケット」の対照として、「本質的な事件の一覧表」を意味する「メリッツ・ドケット(merits docket)」と表現されることがある。

重要なことに、「シャドウ・ドケット」で”勝利”した当事者が「メリッツ・ドケット」で勝利するとは限らない。

たとえば、アラバマ州がゲリマンダーした連邦下院選挙区割りを巡ったアレン対ミリガン事件(Allen v. Milligan)では、2021年に第一審裁判所がアラバマ州の選挙区割りを違法とし、2022年の中間選挙においてこの選挙区割りが利用されることを差し止めた。だが、連邦最高裁が「シャドウ・ドケット」においてその差止命令を解除したので、2022年中間選挙では選挙区割りの利用が認められた。その後、事件は控訴裁判所を経て上告され、2023年に連邦最高裁は「メリッツ・ドケット」で選挙区割りを違法と判断した。「シャドウ・ドケット」で勝利したアラバマ州は、「メリッツ・ドケット」で敗北したことになる。

もっとも、「シャドウ・ドケット」での判断によって、「メリッツ・ドケット」での判断が無意味なものになってしまう場合もある。たとえば、トランプ政権は連邦教育省(Department of Education)の人員を大幅に削減することで、同省を事実上解体することを目指している。2025年5月、連邦第一審裁判所は現状維持のために連邦教育省での人員削減を一時的に差し止めたが、2025年7月に連邦最高裁は「シャドウ・ドケット」においてその差止命令を解除したため、トランプ政権は人員削減を進めることができた。この訴訟は今後「メリッツ・ドケット」において進行する。ただ、連邦最高裁が「メリッツ・ドケット」においてこの案件について判断する頃には連邦教育省が骨抜きになっている可能性があり、その場合、人員削減が違法だったという判断はあまり意味を持たない。

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