ジョウ・バイデンにとって散々だった討論会から1週間経った今も「バイデン交代論」は鎮火されていない。バイデンの撤退が現実味を帯びてきていることから、ここではその背景を解説する。バイデンが撤退するとどうなるかについては、こちらの解説を参照。
簡潔にいうと、討論会から1週間経った今、どんな感じなの?
バイデン交代論は収まるどころか拡大する一方であり、バイデンが持ち堪えられるか極めて微妙になってきている。
バイデン陣営による火消しは、どんな感じなの?
討論会でのバイデンの出来の悪さに対する釈明は迷走している。
当日はバイデンが風邪を引いていたという説明があり、数日後には討論会前に欧米を行き来した外交日程がよくなかったと説明され、さらに数日後には最近のバイデンは睡眠が足らないので今後は20時以降の予定は入れないようにするという説明があった。
どれも突っ込み満載であり、アメリカの大統領は深夜であっても風邪を引いてても業務を執行する必要があるし、バイデンが欧州から戻ってきたのは討論会の2週間前であった。
討論会後、バイデンは公の場に出てきているの?
討論会で増長した年齢、健康、そして認知能力に対する懸念を払拭させるため、バイデンは公の場でのイベントを増やしている。
まず、支援者に囲まれた選挙集会を実施している。ここでのバイデンは活力があり発言も理路整然としているが、テレプロンプター(スピーチの文章が電子的に表示する装置)を利用しているので、バイデン陣営が期待する懸念払拭効果をもたらしているとは言い難い。
バイデンは生のインタビューも行っているが、7月5日(金)に報道された地上放送局ABCによるインタビューは、バイデンの高齢を改めて感じさせ、(討論会よりマシだったものの)討論会が植え付けた印象をなんら変えるものではなかった。
また、バイデンはラジオのインタビューにも応じているが、バイデン陣営が事前に司会者と質問内容について調整していたことが発覚し、火消しどころか炎上している。
民主党所属の現職議員の反応はどうなの?
現地時間の7月3日(水)にテキサス州選出の民主党所属連邦下院議員がバイデンに撤退を求めたのを皮切りに、現地時間の7月6日(土)時点で合計5人が公然と撤退を求めている。また、連邦上院議員の間でもバイデンに撤退を求める声明への賛同者を募る動きがある。
7月4日(木)はアメリカの独立記念日であることから、4日から7日は実質連休だった。地元に戻って有権者の声を聞いてきた民主党議員の一部が、週明けにバイデンの撤退を求める可能性がある。
こちらで解説した通り、ナンシー・ペロシ(Nancy Palosi)前連邦下院議長は党の重鎮としてバイデンに引導を渡せる立場にいる。そのペロシは現地時間3日のインタビューで「バイデンの認知能力について問うことは妥当だ」と発言し、バイデンを全面的に支持しなかった。
世論調査はどんな感じなの?
世論調査の平均の推移を追っているリアル・クリア・ポリティクス(Real Clear Politics(RCP))によると、討論会の前と後ではトランプのリードが2ポイントほど広がっている。(これは誤差の範囲内なので、必ずしも有意な拡大でないことに注意)。
より注目されているのが、接戦である5つの連邦上院選の世論調査だ。これらの選挙の世論調査すべてにおいて、上院選の民主党指名候補の支持率がバイデンの支持率を上回っている。これはバイデンの問題が本人にあり民主党のブランドにあるわけではないことを明示している。
賭博市場は何を示しているの?
賭博が盛んなアメリカでは、大統領選の行方に関して賭けることが可能である。
賭博市場の推移もRCPが追っており、バイデンが民主党指名候補になる確率は60%超から30%台に暴落し、次期大統領になる確率も35%台から10%台に急落している。いずれにおいてもバイデンはカマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領に抜かれている。
で、最終的にバイデンは撤退するの?
アメリカの政界の空気は「バイデン交代論」が既定事実になりつつあり、にわかにバイデン撤退の可能性が高まっている。
討論会後の1週間、大統領選に関する報道はバイデンの健康に関する話ばかりだった。民主党にとって、本選挙の11月までずっとトランプではなくこの話題が注目を集めることは大きな問題であり、候補を交代させる以外、この議論を封印する方法はない。
予備選で圧勝した候補が撤退に追い込まれるというのは前代未聞だが、ある程度撤退論が広がってしまうと、もはや引き戻せない。実際、民主党に大金を献金している支持者の多くはバイデンに見切りをつけており、評論家の一部ではハリスが指名候補になった場合誰が副大統領候補に指名されるのかに関心が移っている。
バイデンは断固に撤退を否定していることから、撤退する可能性はまだ30%くらいだろう。だが、日本の衆議院解散風と同様、政界で一旦吹き始めた風は暴風になりやすく止めにくい。代わりの候補を早期に指名しなければならないことを鑑みると、この1週間以内に撤退の確率が30%から50%、そして一気に100%になっても不思議ではない。