カマラ・ハリス副大統領がドナルド・トランプ次期大統領に完敗してから1ヶ月経つが、彼女の責任を問う声は民主党内でも少ない。ここでは、なぜバイデンが民主党内でA級戦犯扱いされているのかについて解説していく。
簡潔に言うと、バイデン大統領が責任を問われている理由はなぜなの?
もちろん、バイデンの支持率が40%前半台と低迷し、ハリスにとって極めて厳しい環境を作ったことがある。
だが、バイデンはそもそも1年半前に再選に出馬する決断をしたことについて責任を問われている。さらには、その決断のせいで民主党の大統領選予備選に泡沫候補しか出馬せず、致命的な討論会後、本選挙まで時間がないタイミングでやっと撤退したことが問題視されている。
バイデンの責任について時系列で見ていこう。
なぜバイデンが再選に出馬したことが問題となっているの?
事は2020年の大統領選に遡る。
当時のバイデンはすでに77歳で、当選すれば史上最高齢での就任となることが物議を醸していた。4年後の再選挙に出馬するのか否かが早くも話題となっており、それを払拭するかのように、バイデンは自分が”次世代への懸け橋”となることを約束し、(明言はしなかったものの)2期目の出馬はしないことを示唆していた。
ところが、2023年4月にバイデンは再選に出馬することを表明する。これは、2022年11月に行われた中間選挙で民主党が思いの外健闘したことが彼を勢いづけたからではないかと言われている。
当時から、民主党内で彼の出馬を希望する声は過半数に達していなかった。最初からバイデンの再選出馬は疑問視されていたのだ。
バイデンが2期目に出馬したことで、民主党の予備選はどのように進んだの?
現職大統領が出馬してる以上、他の有力候補は出馬を見送らざるを得ない状況となった。
結果、2024年1月に始まった民主党の予備選には(バイデン以外)泡沫候補しか参入しなかった。望まれない候補者が予備選を勝ち抜く出来レースが最初から決まっており、強くなり得た候補者は登壇する機会さえ与えられなかったのだ。
トランプとの討論会前後、民主党内はどのような雰囲気だったの?
2024年の夏頃には、世論調査においてバイデンがトランプを下回っている傾向が明確となり、民主党内では危機感が高まる。
そのような中、現地時間の2024年6月27日にバイデンにとっては致命的となる討論会が実施される。そして、アメリカ全国民に晒されたバイデンの急激な老いが大統領選での敗北を確実なものにすると確信した民主党の重鎮は、バイデンおろしに取り掛かった。
そこからバイデンは必死にしがみつこうとするが、増すばかりの圧力に耐えられなくなり、現地時間の7月21日に撤退を決断。この時すでに本選挙まで100日しかなく、民主党の代替策は限られていた。
バイデンからハリスへの引き継ぎはどのような感じだったの?
限られた時間の中、現実問題としてバイデンの代わりとなる候補者はハリスしかあり得なかった。
外見的には円滑に進んでいたように見えたバイデンからハリスへの引き継ぎだが、実際は様々な問題があったことが選挙後の報道で明確になっている。
課題は実はバイデン撤退前に遡る。バイデンの不人気は思われていた以上に深刻で、バイデン陣営は有能な人を集める事ができず、選対本部の経験不足は明白だった。
皮肉にも、候補者がハリスに代わって民主党内の熱意が高まると、課題は悪化した。バイデンは人も金もない選挙活動を展開していたため、候補者がハリスになって寄付が押し寄せるようになると、今度はそれを消化できる組織が存在しなかった。実際、ハリス陣営は10億ドル(1500億円)もの献金を集めにもかかわらず、選挙が終わった頃には借金を抱えていた。
バイデンが異なる判断をしていたら民主党は勝てたの?
バイデン大統領の支持率が低迷している中、誰がどのようにしても民主党は困難な戦いを強いられただろう。だが、1年半の期間におけるバイデンの判断が民主党の状況を悪化させたことは間違いない。
そもそも、バイデンが再選に出馬していなければ、ハリス以外の有力候補者、例えばカリフォルニア知事のギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)やミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマー(Gretchen Whitmer)が出馬し、予備選を勝ち抜けていた可能性がある。結果論となってしまうが、4年前の大統領選で撃沈していたハリスよりニューサムやホイットマーの方がより強い候補者になっていたかもしれない。
さらには、バイデンが本選挙100日前まで撤退を渋ったことで、ハリス以外の候補者を選ぶ時間も脆弱な選対本部を強化する余裕もなくなってしまった。
こういった理由から、ハリスは貧乏くじを引かされただけで、悪いのはバイデンという見方が大勢を占めている。