ハリスの主要な敗因は、特に人種的マイノリティーと若者を中心に男性の票がトランプに流れたことだった。この現象について出口調査のデータをベースに解説していく。
男性と女性の投票先は全体的にどれほど異なったの?
ケーブルニュースチャンネルCNNの出口調査によると、今回の大統領選における男女の投票先は次の通り。男性が12%トランプ寄り、女性が8%ハリス寄りで、20%のジェンダーギャップ(gender gap)があった。
男性 | 女性 | |
ハリス | 43% | 53% |
トランプ | 55% | 45% |
人種的マイノリティーの男性と女性の投票先にはどれほどの違いがあったの?
男女によって投票先が異なる傾向は特に人種的マイノリティーの間で見られた。
たとえば、黒人の男女の投票先は次の通り。男性が56%ハリス寄り、女性が84%ハリス寄りで、28%のジェンダーギャップがあった。
男性 | 女性 | |
ハリス | 77% | 91% |
トランプ | 21% | 7% |
ヒスパニック系ではこの差はもっと顕著だった。ヒスパニック系男女の投票先は次の通り。男性が12%トランプ寄り、女性が22%女性寄りで、ジェンダーギャップは34%だった。
男性 | 女性 | |
ハリス | 43% | 60% |
トランプ | 55% | 38% |
ちなみに、2020年大統領選でのヒスパニック系男女の投票先は次の通りだった。今回男性が大きくトランプ寄りに振れたことで、バイデンの下では16%だったジェンダーギャップ(男性が23%バイデン寄り、女性が39%バイデン寄り)がハリスの下では2倍以上に拡大した。
男性 | 女性 | |
バイデン | 59% | 69% |
トランプ | 36% | 30% |
今回の大統領選の白人の男女の投票先は次の通りで、ジェンダーギャップは15%だった(男性が23%トランプ寄り、女性が8%トランプ寄り)。全体的な20%より小さいため、ジェンダーギャップは特に人種的マイノリティの間での課題だったことがわかる。
男性 | 女性 | |
ハリス | 37% | 45% |
トランプ | 60% | 53% |
年齢別に見て、男性と女性の投票先で一番大きな差があったのはどの年齢層だったの?
どの年齢層にも20%以上のジェンダーギャップがあったが、一番大きな差があったのは最も若い18歳〜29歳だった。この年齢層では、男性が2%トランプ寄りで女性が24%ハリス寄りだったので、26%のジェンダーギャップがあった。
男性 | 女性 | |
ハリス | 47% | 61% |
トランプ | 49% | 37% |
背景には何があるの?
男性がトランプを好んだ理由に女性差別があることは否定できないが、女性差別以外の説明としてあるのが、現在アメリカ若い男性が置かれている窮状である。
ニューヨーク大学の教授であるスコット・ギャロウェー(Scott Galloway)は、若い男性が女性より苦労している証拠として次のデータを挙げている。
- 大学生の構成比は58%が女性で42%が男性
- 大学卒業率は、女性が54%で男性が43%
- 若い男性の自殺率は女性の4倍
- 若い男性のアルコールまたは麻薬中毒率は女性の3倍
- 持家率は独身の男性より女性の方が高い
- 25歳〜34歳の男性のうち300万人が無職で職を探してすらいない
- 30歳未満の女性のうち2/3が付き合っている相手がいるものの、男性は1/3しか相手がいない(若い女性は年上の男性と付き合う傾向にあるため)
トランプ現象がマグマのように溜まってた社会に対する不満が爆発した結果なのであれば、若い男性はアメリカの現社会で不満を抱えてる人たちの代表例と言える。
なぜ若い男性の票がトランプに流れたの?
トランプは若い男性への魅力を意識した選挙を展開していた。
それを象徴するのが「ジョー・ローガン・エクスペリエンス(The Joe Rogan Experience)」ポッドキャストへの出演だ。
このポッドキャストはSpotifyで1450万人のフォロワー、Youtubeで1750万人の登録者がいて、視聴者のうち8割が男性かつ過半数が18歳〜34歳。まさに若い男性向けの媒体である。
トランプは10月下旬にここに出演し、司会者のジョウ・ローガン(Joe Rogan)と3時間近く談話した。このインタビューはYouTubeに載っており、今現在、5000万人以上もの人が見ている。
ハリスも「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」に招待されたが、条件で折り合いがつかず結局実現しなかった。出演しなかったことがハリスの敗因だったとは思えないが、若い男性の間で支持を広げる機会を逃したことは間違いない。
ハリスよりトランプを支持した女性はいなかったの?
女性の年齢層で投票先としてトランプがハリスを上回ったのが1つだけあり、それは40歳〜65歳だった。50%がトランプを支持したこの年齢層は、年齢的に18歳〜29歳の男性の母親が含まれている。
彼女らからすると、娘は大学を卒業し安定した職に就けたのに、息子は無職のまま実家に住み終日ゲームに明け暮れる生活をしていたら、女性というより母親として、息子に関心を示してくれるトランプに投票していても不思議ではない。
若い男性の現状が女性の票にも影響を及ぼした可能性がある。