データで見るハリスの敗北①〜「オバマ連立」の崩壊〜

データで見るハリスの敗北①〜「オバマ連立」の崩壊〜

今回の大統領選におけるハリスの敗因は、2008年と2012年のバラク・オバマ(Barack Obama)の勝利の基盤となった「オバマ連立(Obama Coalition)」が崩壊してしまったことである。ここでは、「オバマ連立」とはどういうものなのかを説明した上で、今回どのように崩壊したのかを出口調査のデータをベースに解説していく。

そもそも「オバマ連立」とは何なの?

オバマが2008年に人種的マイノリティー、若者、そして未婚女性を軸に支持を固めて当選し、2012年も概ね同様に再選したことから、この3つの支持層が「オバマ連立」と呼ばれるようになった。

「オバマ連立」の由来は2002年にライ・ティシェラ(Ruy Teixeira)とジョン・B・ジュディス(John B. Judis)が共同執筆した書籍「新たなる民主党の支配(The Emerging Democratic Majority)」にある。この中でティシェラとジュディスは、民主党への支持が強く人口が増加している人種的マイノリティーと、民主党への支持が高まっている高等学歴の専門家と、弱まっているものの民主党への支持が続いている白人労働層の連立が中長期的に民主党の支配をもたらすと主張した。

この本は政治・選挙の世界に大きな反響をもたらしたものの誤解されることが多く、典型的な誤解釈が、「アメリカでは人種的マイノリティーの人口が当面増え続けるので、彼らから圧倒的な支持を得る民主党による支配がいずれは定着する」といったものであった。

2008年の「オバマ連立」は2002年にティシェラとジュディスが解説した連立に類似していたため、「オバマ連立」こそが将来の民主党の支配につながると広く考えられるようになった。

今回の大統領選では「オバマ連立」はどのように崩壊したの?

「オバマ連立」の中でも、中長期的な民主党の支配の鍵となるのは人種的マイノリティー、特にヒスパニック系投票者からの強い支持になるはずだった。ところが、今回の選挙においてハリスはマイノリティー層で票を大きく減らし、その苦戦はヒスパニック系の投票者に限定されずアジア人の間にも広がった。

さらには、「オバマ連立」のもう1つの重要な支持層である若手の間でも民主党への支持が暴落した。

それぞれの支持層の投票動向を出口調査で見ていく。

人種的マイノリティーの民主党への支持はどれほど下落したの?

オバマが初当選した2008年の大統領選では、オバマがヒスパニック系投票者の票の67%を獲得し、共和党候補のジョン・マケイン(John McCain)が31%を獲得した。次の表の通り、2016年の民主党候補だったヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)も2020年のジョウ・バイデンもヒスパニック系投票者の間で30%以上のリードを維持できたが、今回の選挙ではハリスのリードが6%に縮小し、ほぼ壊滅した。

2024年2020年2016年
民主党候補52%65%66%
トランプ46%32%28%

ヒスパニック系投票者ほどではないものの、アジア人の間でも民主党のリードが大幅に縮小している。2008年の大統領選では、オバマがアジア人の票の62%を獲得し、マケインが35%を獲得した。次の表の通り2016年のクリントンも2020年のバイデンもアジア人の間で25%以上のリードを維持できたが、今回の選挙ではハリスのリードが15%に縮まった。

2024年2020年2016年
民主党候補54%61%65%
トランプ39%34%27%

若者の民主党への支持はどれほど下落したの?

2008年の大統領選では、オバマが18歳〜29歳の若者の票の66%を獲得し、マケインが32%を獲得した。次の表の通り2016年のクリントンと2020年のバイデンは若者の間で20%前後のリードを維持したが、今回の選挙ではハリスのリードが11%に縮まった。

2024年2020年2016年
民主党候補54%60%55%
トランプ43%36%36%

人種的マイノリティーの若者の民主党への支持はどれほど下がったの?

上述した通りハリスは人種的マイノリティーと若者の間でだいぶ票を減らしたが、これがどれほど深刻だったかはヒスパニック系の18歳〜29歳の若者の投票先を見ると一目瞭然だ。次の表の通り、2016年のクリントンと2020年のバイデンはヒスパニック系の若者の間で40%以上のリードを維持していたが、今回の選挙ではハリスは2%しかリードしていない。

2024年2020年2016年
民主党候補49%69%68%
トランプ47%28%26%

ハリスが人種的マイノリティーと若者の間で苦戦した理由はなぜ?

後日解説するが、ハリスは男性の間で大きく票を減らし、その傾向が特に若者と人種的マイノリティーの間で顕著だったからだ。

「オバマ連立」が崩壊した民主党は今後どうするの?

民主党は次の大統領選に向けて体制を立て直す必要があることは間違いないが、方向性は2つある。

1つは、「オバマ連立」と異なる支持基盤を築き上げることだ。今回の選挙では、2002年にティシェラとジュディスが予測していた高等学歴の専門家による民主党への支持がとうとう確立した。(この点については学歴と収入で内訳した出口調査のデータを確認されたい)。高等学歴の専門家が今後の民主党の支持層の主な軸となり得る。

2つめは、今回の選挙に過剰反応せず「オバマ連立」の再建を試みることだ。ハリスの最大の課題はヒスパニック系の投票者の間で大きく票を減らしたことだが、これは一時的な現象だった可能性が十分にある。ヒスパニック系投票者の民主党の支持を直近の水準に戻せられれば、民主党は「オバマ連立」に近い支持基盤を再現できるかもしれない。

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