連邦制であるアメリカでは、連邦裁判所に加えて、50ある各州において州裁判所が並存している。ここでは州裁判所の仕組みについて一般論を解説していく。連邦裁判所に関する解説はこちらを参照。
州裁判所と連邦裁判所は何が違うの?
最も重要な違いは管轄権の範囲。
基本的に州裁判所は州に関連性があるすべての案件について管轄権を有する。
他方で、連邦裁判所の管轄権は限定的。連邦裁判所は以下のような案件においてしか管轄権を有しない。
- アメリカ連邦憲法または連邦法(合衆国の法律)に関する事件・訴訟
- 当事者が居住する州が異なる訴訟
- 連邦政府が当事者である事件・訴訟
- 州同士の訴訟
- 外国または外国人が当事者である事件・訴訟
州裁判所の方が連邦裁判所より管轄権が広いため、一般論として、連邦裁判所で提訴できる訴訟は州裁判所でも提訴できるが、州裁判所で提訴できる訴訟は必ずしも連邦州裁判所で提訴できるわけではない。
具体的に、どういった案件において州裁判所にしか管轄権がないの?
原告が同じ州に居住する被告を州の法律に基づいて訴えた場合、州裁判所にしか管轄権がない。
連邦制であるアメリカでは、婚姻、教育、遺産相続、地権等生活に密着した事項の多くが連邦法ではなく州法によって規定されている。よって、たとえば同じ州に住む原告と被告の間で起こった交通事故の損害賠償責任に関する民事裁判の管轄権は州裁判所にしかない。
州裁判所と連邦裁判所はどういう関係なの?
連邦裁判所と州裁判所は横並びに並存し、上下関係にあるわけではない。図で示すと以下のような関係になる。
図では連邦最高裁が州最高裁の「上」にあるように見えるが、州最高裁の判決を連邦最高裁に控訴できるのは連邦裁判所に管轄権がある案件の場合のみである。連邦裁判所に管轄権がない案件においては、州最高裁が最終の判決を下す権限を有し、連邦最高裁に控訴することはできない。
なお、原告が連邦裁判所に管轄権がある訴訟を州裁判所で起こした場合、被告は訴訟を連邦裁判所に”横滑り”させるremovalと呼ばれる権利を持つ。日本人または日本企業が当事者である訴訟において連邦裁判所は管轄権を有するので、日本人または日本企業が州裁判所で提訴されたら、必ず訴訟を連邦裁判所に移動させることができる。
州裁判所なのか連邦裁判所なのかはどのようにわかるの?
裁判所の名称でわかる。
連邦裁判所の名称は必ず”United States…”から始まる。
- 連邦第一審裁判所は”United States District Court…”
- 連邦控訴裁判所は”United States Court of Appeals…”
- 連邦最高裁は”United States Supreme Court”
それ以外の名称の裁判所はすべて州裁判所。たとえば、州第一審裁判所には次のような名称がある。
- Superior Court
- District Court
- Circuit Court
- Court of Common Pleas (ペンシルベニア州)
- Supreme Court(ニューヨーク州)(”Supreme”という名称にも関わらず最高裁でないことに注意)
州裁判官はどうやって選ばれるの?
州によって大きく異なるが、主に3つのパターンがある。
- 公選
- 知事による任命
- 知事による任命+住民審査
州議会が州裁判官を任命する州も少数ある。
特に第一審裁判所においては1の方法が最も多く、その中でも、党派性のない選挙と所属している党を全面的に出す選挙の2つのパターンがある。後者の場合は政治家の選挙と変わらない選挙になるが、前者の方が多い。
控訴裁判所や最高裁判所においては2、3の方が多く、その中でも、知事が指名委員会が提出した名簿から任命する必要があったり、州議会の承認を得る必要がある場合が多い。もっとも、半数弱の州では、最高裁の裁判官を1.公選の方法で選定している。
裁判官を公選を通して選ぶことは日本でも連邦レベルでも違和感があるが、この選定方法が浸透した背景には、裁判所が頻繁に法律を違憲と判断したり、新たな人権を確立させるようになり、司法府が立法府のように振る舞うのであれば、司法府にも民意が反映されるべきであると考えられるようになったためである。
州裁判官に任期はあるの?
多くの州は任期を設けているが、設けていない州でも定年を設けているので、連邦裁判官のように終身制を用いている州はない。
また、公選制の州では、改選までが任期と考えられる。
どういう人が州裁判官に選ばれるの?
州によって大きく異なる。
経歴的には地元の弁護士や検事が多いが、特に公選制の州では政治力が求められるといえる。
州裁判所にはどのような権限が与えられているの?
州の憲法や州法による。
たとえば、州によっては、具体的な事件や訴訟案件がなくても、法律的な問題に関して助言的意見を提供することが認められており、これは連邦裁判所にはない権限である。
州裁判所は連邦法やアメリカ連邦憲法について判決を下す権限を有するが、この場合、最終判決を下す権限を有するのは連邦最高裁となるので、州最高裁の判決を連邦最高裁に控訴することが可能となる。