大統領の武力行使権限の概要

大統領の武力行使権限の概要

アメリカの大統領は頻繁に軍事行動を起こす。ここでは、戦争に関する権限について大統領と連邦議会の役割を整理した上で、拡大し続ける大統領の権限を議会が実効的に制約できていない理由を解説していく。

憲法は戦争に関する権限についてどのように定めているの?

アメリカでは、三権分立の考えに基づき、戦争に関する権限を連邦議会と大統領の間で分担しており、アメリカ連邦憲法は議会に「戦争を宣言する権限」を与え、大統領に軍の最高司令官としての地位を与えている。つまり、統治の仕組みとしては、連邦議会が戦争開始の政治判断を行い、それを大統領が遂行するために軍事指揮を執る、という形になっている。 

この棲み分けは、法律の立法と執行の関係について、憲法上は、立法府が法律を策定した後に大統領がそれを執行するよう役割分担されているのと似ている。現代ではこの棲み分けが曖昧になり、執行側である大統領の権限が拡大している。同じ傾向は戦争に関する権限にも見られ、軍事行動の判断において大統領の裁量が大きくなっている。

なぜ戦争に関する権限は憲法通りになっていないの?

最大の理由は、憲法が21世紀の戦闘方法とアメリカの武力を想定していなかったからである。

アメリカ連邦憲法は1788年に批准されており、当時の戦闘はマスケット銃や大砲を撃つのが中心であった。だが、現代では飛行機による爆撃やミサイルによる遠距離攻撃が可能になり、最高司令官として武力を行使しやすくなった。

また、憲法批准当時のアメリカはイギリスから独立したばかりであり、大した軍事力を有していなかった。現代のアメリカは世界最強の軍事力を有するため、最高司令官としての権限は18世紀とは比べ物にならないほど強力になっている。

こうした現代社会の要素によって戦争における連邦議会の立場は極めて弱いものになっているが、憲法自体にも一定の曖昧さがある。侵略や反乱のような場合、大統領が抵抗する義務を負っていることは明記されていないものの、軍隊の最高司令官の権限に当然として含まれているものと解釈されている。大統領の側に即応的な防衛権限があることは、軍事活動において必ずしも議会の関与が必要ないことを示している。

連邦議会は大統領による武力行使を制約できていないの?

1973年、連邦議会は戦争権限法(War Powers Resolution)を制定し、大統領の軍事行動を制約しようとしたが、その効果は限定的である。

戦争権限法上、大統領がアメリカの軍隊を展開できるのは、連邦議会による宣戦布告があった場合、連邦議会が特定の法律で軍事行動を認めた場合、あるいはアメリカやその軍への攻撃による国家的緊急事態の場合に限定されている。

宣戦布告がない状態で大統領が軍隊を戦闘に投入した場合、大統領は48時間以内に、軍事行動が必要となった事情、その法的根拠、そして予想される作戦の範囲と期間について連邦議会へ報告する必要がある。その後、大統領による報告の60日以内に、議会が宣戦布告するか、軍事行動を承認するか、軍事行動の60日間の延長を認めない限り、大統領は軍を撤退させなければならないと規定されており、安全な撤退のためなら、30日間だけの延長が認められている。

つまり法律の構造としては、大統領は緊急時には先に軍事行動を開始できるが、長期の戦争は議会の承認が必要となっている。だが、この戦争権限法の実効性は乏しい。歴代大統領は共和党・民主党所属であるかに関わらず、報告はしても議会による拘束までは認めないという姿勢を貫いている。

連邦議会が軍事行動を承認したことはあるの?

連邦議会が最後に宣戦布告をしたのは1941年に日本に対してであるが、それ以降の「戦争」においては、軍事行使権限承認(Authorization for Use of Military Force、通称AUMF)を大統領に与えている。

最近のアメリカ軍事行動の法的基盤として特に重要なのは、2001年のAUMFである。このAUMFは9月11日の同時多発テロの直後に成立しており、テロ攻撃を計画・実行・支援した勢力、およびそれをかくまった主体に対する武力行使を大統領に認めた。立法趣旨としてはアフガニスタンが対象だったが、その後、このAUMFはシリア、イエメン、ソマリアなどで「対テロ作戦」を行う法的根拠として使われてきた

宣戦布告は国家間戦争を前提とするが、AUMFは必ずしも国家を相手とする必要がなく、軍事行動の対象や範囲を柔軟に設定できる。また、AUMFに基づいてどのような軍事行動が行われているのかは多くの場合機密情報として扱われ、一度成立したAUMFが廃止されることはほとんどない。さらに、朝鮮戦争の際のハリー・S・トルーマンのように、軍事行動を起こすためにAUMFは不要であるとする大統領もいる。したがって、AUMFの実効性についても疑義がある。

連邦議会は大統領による武力行使に対して無力なの?

議会の実務上の切り札は、戦争を承認する権限ではなく、むしろ予算であると言える。軍隊の設置・維持や海外への派遣に伴う支出には予算が必要であり、予算権は連邦議会が握っている。議会が戦争を止める最も実効的な方法は、戦争権限決議の遵守やAUMFの廃止ではなく、資金を認めないことである。 

もっとも、予算権を通じて大統領による軍事行動を現実的に止められるかは疑わしい。一旦大統領が軍隊を展開すると、戦闘状態に置かれている兵士の生命が危険にさらされるので、予算を割り当てることを拒否することは政治的に極めて難しくなる。

司法は大統領に対する武力行使について制約しないの?

理論上は、連邦最高裁が大統領の軍事行動を違憲と判断することができるが、現実的には起こり得ない。そのような判決は大統領に無視される可能性が高く、裁判所としてはこの種の争いを司法判断になじまないものとして扱うためである。

大統領が武力行使について自ら制約していることはあるの?

大統領は、過去の大統領令により、外国の指導者を暗殺することが禁止されている。

背景にあるのは、1970年代に、アメリカ政府が外国指導者の暗殺計画に関与していたことが議会調査で明らかになったことである。1976年にジェラルド・フォード(Gerald Ford)大統領が政治的な暗殺を禁止する大統領令を発令し、1978年にはジミー・カーター(Jimmy Carter)大統領が「政治的な」暗殺に限らず暗殺を禁止する大統領令を発令した。1981年にロナルド・レーガン(Ronald Reagan)大統領もこれを踏襲し、現在有効なのは、レーガン大統領が発令した大統領令である。

大統領令では、「アメリカ政府の職員は、暗殺に関与してはならない」と定められている。ただし、この規定は法律ではなく大統領令であるため、理論上は大統領が新たな大統領令によって変更することが可能である。また、軍事作戦の一環として外国指導者が標的とされ死亡することがこの禁止に該当するかについては明確ではない。

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