二大政党制であるアメリカでは、共和党と民主党の違いを対極的に理解しやすい。ここでは、アメリカの南部地域での共和党と民主党の違いを解説して行く。なお、東北の解説はこちら、中西部の解説はこちら、西部の解説はこちらを参照されたい。また、政治的思想に基づく両党の違いの解説はこちらを、投票者の属性に基づく違いの解説はこちらを参照。
「南部」はどの州により構成されるの?
アメリカの国勢調査局が採用している区分を引用し、「南部(South)」は以下の州から構成されるものとする。各州の人口のイメージがつきやすくなるよう、下院の議席数を括弧内で記載している。
- デラウェア州(Delaware)(1)
- メリーランド州(Maryland)(8)
- ウエストバージニア州(West Virginia)(2)
- バージニア州(Virginia)(11)
- ノースカロライナ州(North Carolina)(14)
- サウスカロライナ州(South Carolina)(7)
- ジョージア州(Georgia)(14)
- フロリダ州(Florida)(28)
- ケンタッキー州(Kentucky)(6)
- テネシー州(Tennessee)(9)
- アラバマ州(Alabama)(7)
- ミシシッピ州(Mississippi)(4)
- アーカンソー州(Arkansas)(4)
- ルイジアナ州(Louisiana)(6)
- オクラホマ州(Oklahoma)(5)
- テキサス州(Texas)(38)
上記1~8は合わせて「サウス・アトランティック(South Atlantic)」、9~12は合わせて「イースト・サウス・セントラル(East South Central)」、13~16は合わせて「ウエスト・サウス・セントラル(West South Central)」とも表現される。
南部では共和党・民主党のどちらが強いの?
南部は共和党の牙城と言えるが、以下で説明するとおり、一部は民主党の牙城だったり、民主党も勝利できる州がある。
なお、共和党または民主党の牙城であっても、連邦政府の選挙(すなわち大統領、連邦上院および連邦下院)と州の選挙(すなわち知事)を区別して考える必要がある。民主党の候補は共和党の牙城の州でもリベラル性を軟化させれば知事選で当選できるし、共和党の候補は民主党の牙城の州でも保守性を軟化させれば知事選で当選できる。
南部の一般的な投票者の属性は?
ざっくり言うと、南部では農村部に住む投票者が多い。また、中絶に反対であるなど社会問題に対して極めて保守的な思想を持っていることから、共和党が強い。ただ、(白人が過半数を占めるものの)民主党の支持基盤である黒人も、都市部に限らず農村部でも、投票者のかなりの割合を占める。
もっとも、南部は広域であることから一概には言えないところがあるので、次の通り性質ごとに区分して詳細を解説する。
南部で東北に性質が近い州とはどこで、どういう性質なの?
デラウェア州(Delaware)とメリーランド州(Maryland)は東北のミッドアトランティック地域に接しており、政治的な性質も東北と同じであると言える。よって、この2つの州は民主党の牙城である。
南部で農村部が多くを占める州とはどこで、どういう性質なの?
- アラバマ州(Alabama)
- アーカンソー州(Arkansas)
- ケンタッキー州(Kentucky)
- ルイジアナ州(Louisiana)
- ミシシッピ州(Mississippi)
- オクラホマ州(Oklahoma)
- サウスカロライナ州(South Carolina)
- テネシー州(Tennessee)
- ウエストバージニア州(West Virginia)
ルイジアナ州のニューオーリンズ市など、これら州に都市がないわけではないが、投票者の構成比を見ると、概ね農村部の比率の方が高いと言える。農村部は共和党の支持基盤なので、これら州は共和党の牙城である。
民主党は90年代まで農村部で一定の票を獲得できたが(1992年に当選し、1996年に再選したビル・クリントン大統領はアーカンソー州の知事であった)、2000年以降、民主党は農村部でじわじわと票を減らしてきている。
その傾向を最も象徴しているのは、州全体が農村部と言えるウエストバージニア州。90年代までは大統領選、連邦議員選挙、知事選のすべてにおいて民主党が共和党を20~30ポイントの差で圧倒していたが、現在では民主党が共和党にそれ以上の差で圧倒されている。
なお、上記の州では黒人の人口が割と多い。投票者全体の過半数を占めるほどの人数ではないことから本選挙では影響力がないが、民主党側の予備選では、投票者の大半を占める黒人が鍵を握る。
南部で都市部に住む投票者が一定数いる州とはどこで、どういう性質なの?
以下5つの州には、次のとおり大都市または都市が所在する。
- フロリダ州(Florida)〜マイアミ市、ジャクソンビル市、タンパ市、オーランド市
- ジョージア州(Georgia)〜アトランタ市
- ノースカロライナ州(North Carolina)〜シャーロット市、ローリー市
- テキサス州(Texas)〜ヒューストン市、ダラス市、サンアントニオ市、オースティン市
- バージニア州(Virginia)〜ワシントン首都郊外(アーリントン郡)、ハンプトン・ローズ地域(バージニアビーチ市、チェサピーク市、ノーフォーク市等)
どの州も保守的な投票者が多く農村部も多いことから概ね共和党が優勢であると言える。だが、民主党が強い大都市(マイアミ市、アトランタ市、ヒューストン市、ダラス市、ワシントン首都郊外)や都市があり、リベラル思想の傾向が強い大学生が集中している大学キャンパスも少なからずあるため、たとえばフロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州では、追い風が吹けば民主党が勝利することもある。
また、メキシコとの国境にあるテキサス州は民主党寄りのヒスパニック系の投票者が増えていることから、民主党が共和党との差を縮めている。
近年、上記の大都市や都市の多くで人口が増加していることから、今後、これらの州で民主党と共和党と拮抗する又は民主党が共和党を逆転する可能性がある。実際、バージニア州では、この20年におけるワシントン首都郊外での人口増加により、共和党から民主党優勢の州に変わっている。