世論調査の読み方

世論調査の読み方

アメリカでは、注目されている選挙があると、多数の世論調査機関が生データを頻繁に公表する。ここでは、これら世論調査をどのように解釈すべきかについて解説する。

アメリカの世論調査にはどのような特徴があるの?

大統領選、知事選、連邦上院選といった大型選挙があると、(無風選挙でない限り)多くの世論調査が公表されるが、アメリカの世論調査には日本と異なる次の特徴が見られる。

  • 生データが公表されるので、各候補者の支持率が何%で、どれほどの差があるのかが数値で見られる
  • 投票日の数ヶ月前から数日前まで、頻繁に世論調査が実施される
  • 世論調査を実施する機関が全国的に300以上あり、大統領選の数週間前ともなると、ほぼ毎日どこかが新たな世論調査を公表する

これら三つの特徴があるため、アメリカは世論調査情報過多状況に陥りやすい。

アメリカの世論調査を解釈するにあたって重要な概念は?

一つは、調査の対象がRegistered Voter(”RV”、「投票登録している人」)であるか、Likely Voter(”LV”、「投票に行くであろう人」)に限定されているか、である。アメリカでは有権者になるために登録を行う必要があるが、投票登録していても投票に行かない有権者が一定数いるので、特に選挙が近いと、「投票に行くであろう人」を調査している世論調査の方が精度が高いと考えられる。

二つめは、Margin of Error (“MoE”)、統計学でいう許容誤差である。この数値が低ければ低いほど世論調査の精度が高いと考えられる。

許容誤差って何?

アメリカの世論調査を正しく解釈するためには許容誤差の理解が欠かせないので、具体的な例を使って解説する。

ある機関が世論調査を実施したところ、候補者Aの支持率が48%、候補者Bの支持率が45%で、許容誤差が3%であったとしよう。

このデータの意味は、同じ世論調査を100回行うと95%の確率で、候補者Aの支持率が45%〜51%の範囲内に、候補者Bの支持率が42%〜48%の範囲内に収まることを意味している。世論調査はあくまでサンプルを取って行う確率なので、「許容誤差」とは言葉どおり誤差が生じることを示している。

世論調査に関する報道の多くでは、候補者のリードが「誤差の範囲内(within the margin of error)」または「誤差の範囲外(outside the margin of error)」であると書かれる。この概念を上記の例を使って説明すると、誤差の範囲は±3%、すなわち6ポイントなので、候補者Aの3ポイントのリードは「誤差の範囲内」となり、統計学的には有意でない差となる。

さらに深掘りするための例として、同じ機関が2回目の世論調査を行い、候補者Aの支持率が50%、候補者Bの支持率が45%、許容誤差が変わらず3%であったとしよう。この場合、候補者Aのリードは5ポイントに伸びたように見えるが、これも誤差の範囲内なので、統計学的には有意でない差となる。

反対に、候補者Aの支持率が51%、候補者Bの支持率が44%、許容誤差が3%であれば、候補者Aの7ポイントのリードは誤差の範囲外で有意なので、候補者Aが実際にリードしている確率は極めて高い(95%)と言える。

このように、生データが公表されるアメリカの世論調査では、候補者の支持率だけでなく、許容誤差まで意識してデータを解釈する必要がある。

ということは、誤差の範囲内の世論調査はすべて無意味なの?

そうとも言えない。

許容誤差はあくまで一つの世論調査における確率の問題である。5、10、20と多くの世論調査が同じ事を示していれば、調査の対象者が増え、世論調査が示していることが正確である確率が高まるので、多数の世論調査を参照することが重要だ。

許容誤差以外に世論調査の精度に影響を及ぼすものはあるの?

世論調査機関にも質があり、評判が高い機関とそうでない機関が存在する。たとえば、大統領の予備選で注目されがちなアイオワ州ではThe Des Moines Register新聞が実施する世論調査が常に精度が高いと評価される一方で、ミシガン州では多くの世論調査が外れると言われている。

世論調査機関の評価を知りたいマニアックな読者は、世論調査の分析で知られているサイトfivethirtyeightの評価ランキングを参考にするのがよいかもしれない。

で、結局、どのサイトのどの世論調査を見ればいいの?

上述したとおり、アメリカではまちまちの質の世論調査が乱立しているため、どの世論調査が信頼できるのか判断するのが難しい。また、許容誤差の関係から一つの世論調査のみでは状況が正確には把握できない。

結局は、「すべての世論調査の直近の平均と推移を追う」ことが最も効率いいと考えられる。

そのためには、リアル・クリア・ポリティクス(RealClearPolitics)を参考にするのがお勧めである。

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