金じゃぶじゃぶのアメリカの選挙

金じゃぶじゃぶのアメリカの選挙

アメリカでは選挙活動に膨大な額の資金が投入される。なぜそうなるのかについて、主に「金は言論」の法則の下規制できない選挙活動への支出の観点で解説していく。

アメリカの選挙と金の関係で最も重要な概念は?

アメリカの選挙資金の規制では、献金(contribution)と支出(expenditure)が大きく区別されており、原則として、前者は規制されて、後者は規制されない。

背景には「金は言論(money equals speech)」という概念があり、選挙で金を使うことを制限するのは言論の自由を制約することと同等であると見做されていることがある。

「金は言論」ってどういうこと?

アメリカ連邦憲法は言論の自由を保証しており、この保証は選挙において特に重要な役割を果たすと考えられている。

アメリカの連邦最高裁は言論の自由と選挙資金の規制の関係について1976年のBuckley事件で判決を下しており、裁判所はその判決の中において、現代社会ではどのような言論にも金の支出が必要となるので、金を使うことを制限するのは言論の自由を妨げるものであると判断した。

これが「金は言論」の法則が生まれたきっかけである。

献金はどのように規制されるの?

候補者等への献金には上限が設けられている。

具体的には、候補者陣営、政党および政治資金団体(Political Action Committee、通称”PAC”)への献金が選挙ごとに数千ドル〜数万ドルに制限され、その制約は個人だけでなく政党や政治資金団体といった組織による献金にも適用される予備選、本選挙、決選投票等はそれぞれ別の選挙として扱われる。また、法人や労働組合は、政治資金団体を設立しないと献金できない。

なお、$50を超えた献金は匿名で行うことができず、$200を超えた献金は献金者の名前を含め公開される。州によっては、より厳しい情報公開を求めているところもある。

支出は規制されないというのは、どういうこと?

言葉どおりで、候補者本人、政治資金団体、政党等による選挙活動のための支出には制限がない。

極端な話、選挙に立候補している億万長者はテレビのCMを流すためやネット上でSNSを掲載するためにいくらでも金をかけることができるし、政党や政治団体も献金さえ集められれば同様だ。

なお、政治資金団体の中で献金は行わず支出しか行わない団体はSuper PACと呼ばれるが、Super PACへの献金は上述の献金に関する規制を受けない。

なんで献金と支出が別の扱いを受けるの?

「金は言論」の法則の下、候補者への献金も政治活動への支出も”言論”と見做されるが、アメリカ連邦最高裁は、献金への規制は政治的腐敗を防止するという重要な目的を達成するために認められるとしている。

ここでの”政治的腐敗”とは、献金者による大規模な金額の支援に対して政治家からの見返りが期待されることを意味する。個人や団体が支出を行ってもこの意味での”政治的腐敗”が起こりにくいため、アメリカ連邦最高裁は、候補者陣営から独立して行われる支出を制限することは憲法上認められないとしている。

また、候補者の自己資金による支出を制限することについても、候補者本人の言論の自由を侵害するものであるため違憲であるとアメリカ連邦最高裁は判断している。

この制度だとアメリカの選挙は金じゃぶじゃぶになってしまうのでは?

実際そうなっており、大統領選では、候補者の陣営や政党、そして政治資金団体による支出が数千億円規模になっている

また、億万長者が何億円もの自己資金を選挙活動に投入する例が多くある。最も有名なのが、2002年のニューヨーク市長選で7600万ドル(100億円超)もの自己資金を費やして3度目の当選を果たしたマイケル・ブルームバーグ市長である

これでは、金があるかないかで選挙が決まってしまうのでは?

金は選挙で勝つための必要条件であるが、十分条件ではないと言えるだろう。

確かに、アメリカの選挙は金がかかるので、資金がなくては選挙に勝てない。

だが、金が潤沢にあれば当選できるかというとそうでもなく、「選挙は金で買えない」ことを示したのが、前述したマイケル・ブルームバーグである。彼は、2020年の大統領選に出馬し9億ドル(1000億円超)もの自己資金を投入したものの、民主党の予備選で惨敗した。

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