2024年1月にアイオワ州で共和党の党員集会が開催され、正式に大統領選の幕が開かれる。ここでは、共和党の指名争いを解説を兼ねて予測してみる。なお、この記事はこちらの指名プロセスに関する解説に目を通してから読むことをお勧めする。また、民主党の指名候補に関する考察は、こちらを参照。
誰が出馬してるの?
現在、次の5人が指名争いに残っている。
- ドナルド・トランプ前大統領(Donald J. Trump)〜大統領退任後も共和党内での影響力は衰えていないが、多数の刑事事件で被告となっていることから、世間からは「問題が多い候補」とされている
- ロン・デサンティス現フロリダ州知事(Ron Desantis)〜2年前の知事選で圧勝して以来トランプの代わりとなり得る「賢いトランプ」と期待されたものの、カリスマ性に欠けており、討論会でも存在感を示せず、失速気味
- ニッキー・ヘイリー元国連大使・サウスカロライナ州元知事(Nikki Haley)〜トランプ政権の閣僚の一員でありながらトランプへの対抗馬として出馬。討論会で外交経験や保守さをアピールすることができて、勢いづく
- ヴィベク・ラマスワミ(Vivek Ramaswamy)〜政治経験のない実業家。当初は討論会で「トランプのような振る舞い」により存在感を示せたものの、あまりに強烈すぎて、最近は有権者から忌避されている模様
- クリス・クリスティ元ニュージャージー州知事(Chris Christie)〜2016年も出馬したが、今回はトランプ大統領の再任を阻止することが目的であると明言。党員を貶してでもトランプを批判することから、党員の間で支持率が20%台と絶望的
現状はどのような感じなの?
今回の指名争いでは、トランプの存在が格別。前大統領が再出馬するということ自体が珍しいが、その上刑事事件の被告という身分での出馬は前代未聞である。にもかかわらず党員の間での支持率は50%前後と圧倒的なので、何も得るものがない討論会には一切参加していない。もはや他の共和党候補は相手にせず、本選挙の相手となるバイデン大統領しか眼中にない。
最初から、トランプ以外の候補が指名されるには、誰か1人がトランプとの一騎討ちの戦いに持ち込み、反トランプ票を総取りする必要があると言われていた。当初はその候補としてデサンティスが期待されていたものの、勢いがつけられないまま反対にヘイリーの浮上を許してしまった。
こんな経緯から、指名争いはもっぱら「2位の争い」と揶揄されている。
では、共和党の指名候補はトランプで決まりなの?
その可能性が高いが、確実とまでは言えない。
トランプ以外の候補の1人が「初期の予備選」であるアイオワ州(Iowa)(現地時間の1月15日(月)実施)、ニューハンプシャー州(New Hampshire)(同1月23日(火))、サウスカロライナ州(South Carolina)(同2月24日(土))で健闘すれば、他の候補をスーパー・チューズデー(Super Tuesday)(同3月5日(火))の前に撤退させ、スーパー・チューズデーにトランプとの一騎打ちに持ち込める。(ネバダ州は2月上旬に党員集会・予備選を実施するが、影響力が小さいので、ここでは考慮しない)
それができる候補は現実的には、デサンティスとヘイリーの2人しかいない。
一騎打ちが実現する可能性はどれくらいあるの?
アイオワ州とニューハンプシャー州の世論調査によると、デサンティスとヘイリーのリードが逆転していて、あまり可能性は高くなさそうである。
アイオワ州では、州を満遍なく回っているデサンティスが最近の世論調査で15%〜22%の支持を維持しており、ヘイリーが13%〜19%と僅差で追う。(トランプは50%前後)
他方で、ニューハンプシャー州では、ヘイリーが最近の世論調査で22%〜30%の支持を受け急上昇しており、クリスティーが6%〜14%で追う。デサンティスは6%〜11%で2位にさえ食い込めてない状態だ。(トランプは50%弱)
サウスカロライナ州の世論調査は乏しいが、ヘイリーが知事を務めていたことを鑑みると、ヘイリーがデサンティスをリードしていると考えて間違いないだろう。(トランプは1位)
こうして見ると、一騎打ちが実現できるとしたらヘイリーであり、それはアイオワでの結果にかかってそうだ。アイオワで2位になれれば、トランプを阻止することが目的のクリスティーの撤退と推薦に期待できる。ニューハンプシャー州で2位のポジションを確実なものとした後、サウスカロライナ州でデサンティスに止めを刺すことは可能だろう。
もし一騎打ちになったらどうなるの?
評論家も下馬評も世論調査も「トランプ独走」を想定しているので、もしサウスカロライナ州の予備選後にヘイリーとトランプの一騎打ちが実現したら、先が読みにくくなる。
ただ、忘れてはならないのは、上述の「一騎討ちシナリオ」であっても、トランプがアイオワ州、ニューハンプシャー州、サウスカロライナ州で勝利を収めていることには違いないということである。史上、共和党どころか民主党の指名争いでも、この3つの州すべてで勝利した候補が指名されなかったことはない。
よって、「一騎討ちシナリオ」が実現した場合、注目すべきは「トランプ以外の有望な候補が出てくるのを待ってた」と考える有権者がどれほどいるか、という点である。
2020年の民主党の指名争いの時、バイデンがサウスカロライナ州で圧勝したら雪崩のようにバイデンに勢いがついたのは、「本命を待っていました」と考えてた有権者がだいぶいたから。現在の共和党には、「反トランプの本命」を待っている党員がどれほどいるのだろうか。そして、彼らはヘイリーの支持者となれるのだろうか。
で、最終的にはどうなるの?
トランプが共和党の指名候補になる可能性が高い。
トランプ以外の候補が指名されるとしたら、それはヘイリー以外に考えられない。そして、彼女であっても
- アイオワ州、ニューハンプシャー州、サウスカロライナ州で健闘する
- スーパー・チューズデーまでに他の候補が全員撤退する
- 「トランプ以外の有望な候補が出てくるのを待ってる」有権者が多くいる
- 反トランプの票をまとめられる
の条件がすべて揃わないと、勝ち目はない。それが起こったら奇跡といえるだろう。