2024年1月にニューハンプシャー州で民主党の予備選が実施され、民主党側でも正式にアメリカ大統領選の幕が開かれる。ここでは、民主党の指名候補がバイデン大統領にはならない可能性を歴史を解説しながら探ってみる。なお、共和党の候補指名争いについては、こちらの解説を参照。
そもそも現職大統領が指名されないなんてことはあり得るの?
21世紀に入ってから、指名されることを希望していた現職大統領が指名候補になれなかったことは一度もない。
ただ、不出馬に追い込まれた現職大統領は2人いる。
- リンドン・ジョンソン大統領は1968年の大統領選で再選を目指していたが、ベトナム戦争の泥沼化による不人気で、出馬撤退に追い込まれた
- ハリー・S・トルーマン大統領は1952年の大統領選で再選を目指していたが、朝鮮戦争の長期化による不人気で、出馬撤退に追い込まれた
この2つの過去には、数点の共通点がある。
- 予備選では、現職大統領相手に真っ当な対抗馬が出馬していた
- 戦争の影響で、現職大統領の人気が低迷していた
- 現職大統領がニューハンプシャー州の予備選で想定外に苦戦し、その後撤退表明を行った
- 現職大統領の撤退後、現職副大統領が指名候補になった
バイデン相手に誰か出馬してるの?
一応、次の2人が出馬している。
- ディーン・フィリップス(Dean Phillips)〜ミネソタ州選出の現職連邦下院議員
- マリアン・ウィリアムソン(Marianne Williamson)〜作家
いずれも、ほぼ無名候補である。
バイデンがニューハンプシャー州の予備選で苦戦することはあり得るの?
ありえない。
今回の特殊な背景を説明すると、民主党本部は以前から人口に多様性がないニューハンプシャー州が毎回どの州より先立って大統領選の予備選を実施することに疑問を示しており、今回はサウスカロライナ州の予備選を最初にするよう呼びかけていた。
ところが、州の法律上最初に予備選を実施することが求められているニューハンプシャー州は反発し、民主党本部の意向を無視して1月23日(火)に予備選を予定した。その後、バイデンは党本部の意向を尊重するため、ニューハンプシャー州の予備選には出馬しないと表明した。よって、予備選ではバイデンの名前が投票用紙には載らない。
ただ、アメリカの選挙では、列挙されていない候補以外の名前を投票用紙に記入することが可能で、世論調査によると、バイデンは「記入候補」として、フィリップスとウィリアムソンを大幅にリードしている。
よって、バイデンがニューハンプシャー州の予備選で苦戦して撤退に追い込まれるシナリオは考えられない。
なら、民主党の指名候補はバイデンで決まりなのでは?
そうとも言えない理由に、バイデンの支持が低迷していることがある。
最近のバイデンの支持率は、危険水準の40%前半台。もっと深刻なことに、共和党の指名候補になるであろうトランプ前大統領相手にリードを許していることが、最近の世論調査で明らかになっている。
バイデンは、1968年のジョンソンや1952年のトルーマンのように「勝ち目がない候補」と烙印を押されてしまう可能性がある。
でも、不人気な現職大統領でも通常は指名候補になるのでは?
確かに、1976年に再選を目指したジェラルド・R・フォードや1980年に再選を目指したジミー・カーター大統領も不人気で、その隙を狙ってロナルド・レーガンやテッド・ケネディが対抗馬として出馬したが、結局、2人とも指名候補になれている(本選挙では敗北)。
ただ、バイデン大統領の特徴的なのは、不人気の理由だ。70%もの有権者が彼の健康に関して懸念を示しており、通常なら民主党の支持層である若者の間で支持率が急落している。つまり、バイデンの高齢が彼の不支持につながっているのだ。
バイデンが撤退して、より若い候補が指名候補になるだけで、多くの問題を抱えるトランプ相手に勝てるはず、という考えが民主党内で浸透しても不思議ではない。
バイデンが撤退したらどうなるの?
バイデンが撤退したら、1968年と1952年の例からしても、予備選の結果にかかわらず、夏の党大会でカマラ・ハリス副大統領(Kamala Harris)が指名されるのは確実だろう。フィリップスやウィリアムソンが指名されることは考えられない。
また、出馬表明はしていないものの、カリフォルニア州知事であるギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)は常に指名候補になる野望があるのではと噂されているが、全国的な知名度がある副大統領を差し置いて指名候補になれる可能性は低い。そもそも、ニューサムが出馬表明したら、バイデン大統領に遠慮していた他の知事や国会議員も黙っていないだろう。
では、ハリス副大統領が指名候補になる確率はどれくらいあるの?
世間的に思われてるより高いのではないか。
健康不安説を裏付けるような出来事が1つでも起これば、党内でバイデンに勇退を促す声が広がり、バイデンにとっても撤退する口実にもなるだろう。11月の大統領本選挙まで先は長い。81歳なら、いつなにがあってもおかしくない。
ましてや、世論調査でトランプに対する苦戦が続けば、撤退を迫るプレッシャーはだいぶ強くなるだろう。
夏の党大会を過ぎてからでは遅いが、党大会前なら、”カマラ・ハリス指名候補”は十分あり得るシナリオだ。