ハリスの勝利への道〜ラストベルト制覇以外にも複数〜

ハリスの勝利への道〜ラストベルト制覇以外にも複数〜

現地時間の11月5日(火)の投票日まで1週間。世論調査がドナルド・トランプの勢いを示している中、ここでは、カマラ・ハリスの複数の勝利への道について、最有力であるラストベルト制覇の道を軸に解説していく。

大統領選の仕組みのおさらい

アメリカ大統領選の仕組みは複雑だが、要点を簡潔にまとめると次のようになる。

  • アメリカの大統領は「選挙人(electors)」と呼ばれる人たちに選ばれる
  • 「選挙人」は538人いて、その過半数(つまり270人)の支持を得た大統領候補が次期大統領になる
  • 通常「大統領選」と呼ばれる選挙は、各州の投票者が「選挙人」を選ぶ選挙である
  • 「選挙人」は50州および首都(ワシントンD.C.)毎に割り当てられる
  • 大半の州では、州単位で得票数が最も多い大統領候補がその州に割り当てられる「選挙人」全員を獲得する(つまり、”州を勝利した”大統領候補への支持を表明している「選挙人」のみがその州を代表する「選挙人」に選ばれる)

大統領選は要は、州の「選挙人」の奪い合いである。

今年の大統領選のスターティング・ポイント

大半の州では共和党または民主党の優位が確定しており、それら州の「選挙人」をどの候補が獲得するのか既に決まっていると言える。

トランプの勝利が想定されている州を赤、ハリスの勝利が想定されている州を青、どちらが勝利するか分からない州を灰色で示した地図が下記である。

これが今年の大統領選のスターティング・ポイントと言え、選挙人を統計すると、ハリスが226人、トランプが219人を既に獲得している。

(カッコ内の数字は当該州に割り当てられている「選挙人」の数。また、メイン州(Maine)とネブラスカ州(Nebraska)は選挙人を連邦下院議員選挙区ごとに割り当てており、メイン州ではハリスが3人とトランプが1人、ネブラスカ州ではトランプが4人とハリスが1人獲得することが想定されていることから、ピンク色にした)

7つある激戦州のおさらい

上記の地図で灰色なのが今回の大統領選の勝敗を決める「激戦州」である。

「激戦州」は下記の地図で水色の7州であり、合計93人の選挙人が割り当てられている。勝利ラインである270人に達するためには、この93人のうち、ハリスは44人、トランプは51人獲得する必要がある。

なお、以前はもう6つの州を「注目の州」として挙げていたが、世論調査によるとこれら州は接戦となっていない。開票が進むにつれてこれら州が接戦になっているようであれば、大統領選は思いの外大きな差がつくことになるだろう。

ハリスの最も有力な勝利への道はラストベルトの制覇

いわゆるラストベルトを構成するペンシルベニア州(Pennsylvania)(選挙人19人)、ミシガン州(Michigan)(同15人)、ウィスコンシン州(Wisconsin)(同10人)では、2016年を除く1992年以降の大統領選すべてで民主党候補が勝利していることから、ハリスにとってラストベルトを制することが最も有力な勝利の道である。

ハリスがこれら3州で勝利すると、必要な選挙人44人をちょうど獲得できる。

なお、このシナリオではハリスが獲得する選挙人が270人ぴったりになるため、下院議員選挙区ごとに選挙人を割り当てるネブラスカ州の第2選挙区が重要になる。世論調査上では当該選挙区でハリスが勝利することが想定されているが、ネブラスカ州自体は共和党の牙城であるため、この選挙区の行方を注視しておく必要がある。

ハリスがラストベルトを制覇できなかった場合の勝利への道は?

1992年以降、ラストベルトの3州はいつも同じ大統領候補が勝利してきたが、今回その傾向が破られる可能性があるため、ハリスがラストベルトの一部を落とした場合のシナリオを1つずつ見ていこう。

  1. ウィスコンシン州のみを落とした場合
  2. ミシガン州のみを落とした場合
  3. ペンシルベニア州のみを落とした場合
  4. ミシガン州とウィスコンシン州を落とした場合
  5. ペンシルベニア州とウィスコンシン州を落とした場合
  6. ペンシルベニア州とミシガン州を落とした場合

最後に、ハリスが3つすべて落とした場合も見ていく

ハリスがウィスコンシン州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうちウィスコンシン州(選挙人10人)だけを落としても、ハリスにはまだ多くの勝利への道が残されている。

具体的には、次の3つのうちどれか1つで勝てる。

  • ジョージア州(Georgia)(同16人)で勝利
  • ノースカロライナ州(North Carolina)(同16人)で勝利
  • アリゾナ州(Arizona)(同11人)で勝利

ネバダ州(Nevada)(同6人)は勝っても負けても大統領選の行方に影響を及ぼさない。

たとえばアリゾナ州で勝利するだけで、ペンシルベニア州(同19人)とミシガン州(同15人)を加えて選挙人45人を獲得し必要な44人を超える。

ハリスがミシガン州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうちミシガン州(選挙人15人)だけを落とした場合、ハリスの勝利への道は若干狭まる。

具体的には、次の3つのうちどれか1つで勝てる。

  • ジョージア州(同16人)で勝利
  • ノースカロライナ州(同16人)で勝利
  • アリゾナ州(同11人)及びネバダ州(同6人)で勝利

ウィスコンシン州を落とす時と異なるのは、アリゾナ州のみでは勝てなくなることだ。

よって、たとえば、アリゾナ州及びネバダ州で勝利すれば、ペンシルベニア州(同19人)とウィスコンシン州(同10人)を加えて選挙人46人を獲得し必要な44人を超える。

または、ジョージア州で勝利するだけでも、ペンシルベニア州とウィスコンシン州を加えて選挙人45人を獲得し必要な44人を超える。

ハリスがペンシルベニア州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうち最も肝心なペンシルベニア州(選挙人19人)を落とすと、ハリスの勝利への道はだいぶ狭まる。

具体的には、次の2つのうちどちらかが必要になる。

  • ジョージア州(同16人)及びノースカロライナ州(同16人)で勝利
  • ジョージア州又はノースカロライナ州で勝利、かつアリゾナ州(同11人)又はネバダ州(同6人)で勝利

ジョージア州かノースカロライナ州のどちらかが必須であることが、ウィスコンシン州またはミシガン州を落とした時と異なる。

たとえば、ジョージア州とネバダ州で勝利すれば、ミシガン州(同15人)とウィスコンシン州(同10人)を加えて選挙人47人を獲得し必要な44人を超える。

または、ノースカロライナ州とアリゾナ州で勝利すれば、ミシガン州とウィスコンシン州を加えて選挙人52人を獲得し必要な44人を超える。

ノースカロライナ州とジョージア州双方で勝利すれば、ミシガン州とウィスコンシン州を加えて選挙人57人を獲得し必要な44人を楽に超える。

ハリスがミシガン州とウィスコンシン州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうちミシガン州(選挙人15人)とウィスコンシン州(同10人)の2つを落とした場合、ハリスの勝利への道は更に狭まる。

具体的には、次の2つのうちどちらかが必要になる。

  • ジョージア州(同16人)及びノースカロライナ州(同16人)で勝利
  • ジョージア州又はノースカロライナ州で勝利、かつアリゾナ州(同11人)で勝利

ネバダ州(同6人)は勝っても負けても大統領選の行方に影響を及ぼさない。

たとえば、ジョージア州とノースカロライナ州で勝利すれば、ペンシルベニア州(同19人)を加えて選挙人51人を獲得し必要な44人を超える。

または、ジョージア州とアリゾナ州で勝利すれば、ペンシルベニア州を加えて選挙人46人を獲得し必要な44人を超える。

ハリスがペンシルベニア州とウィスコンシン州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうちペンシルベニア州(選挙人19人)とウィスコンシン州(同10人)の2つを落とした場合、ハリスの勝利への道は極めて狭くなる。

具体的には、次の3つのうち2つが必要になる。

  • ジョージア州(同16人)で勝利
  • ノースカロライナ州(同16人)で勝利
  • アリゾナ州(同11人)及びネバダ州(同6人)で勝利

たとえば、ジョージア州とノースカロライナ州で勝利すれば、ミシガン州(同15人)を加えて選挙人47人を獲得し必要な44人を超える。

または、ノースカロライナ州、アリゾナ州及びネバダ州で勝利すれば、ミシガン州を加えて選挙人48人を獲得し必要な44人を超える。

ハリスがペンシルベニア州とミシガン州で負けた場合の勝利への道は?

ラストベルトの3州のうち、ペンシルベニア(選挙人19人)とミシガン(同15人)を落とした場合、ハリスの勝利への道はほぼ1つしかなくなる。

具体的には、ジョージア州(同16人)及びノースカロライナ州(同16人)で勝利し、かつアリゾナ州(同11人)又はネバダ州(同6人)での勝利も必要になる。ジョージア州とノースカロライナ州を両方とも落とせないことに注意されたい。

ジョージア州及びノースカロライナ州、そしてネバダ州で勝利すれば、ウィスコンシン州(同10人)を加えて選挙人48人を獲得し必要な44人を超える。

ハリスがラストベルトで全敗した場合の勝利への道は?

ハリスがラストベルトの3州すべてを落とした場合、ハリスの勝利への道は残りのノースカロライナ州(選挙人16人)、ジョージア州(同16人)、アリゾナ州(同11人)、ネバダ州(同6人)すべてで勝利し49人の選挙人を獲得する以外にない。

この場合、ハリスはネバダ州を落とすわけにはいかないことに注意が必要だ。ネバダで負けてしまうと、選挙人の数がトランプ共に269人となり、次期大統領は連邦下院が(各議員1票ではなく)各州1票による採決で決める。

大統領選と同時に実施される連邦下院選挙において民主党が過半数を獲得できても、50州のうち半数以上で共和党所属の下院議員が過半数を占めることがほぼ確実であるため、州単位での採決ではトランプが極めて有利である。

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