2024年の大統領選は、共和党のドナルド・トランプが民主党のカマラ・ハリスを退ける結果となった。細かい分析は今後解説して行くが、ここではトランプの勝利を概説する。
大統領選の結果を簡潔にまとめると?
トランプによる快勝だが、圧勝ではない。
アメリカの大統領選は州ごとに割り当てられている538人の「選挙人(electors)」の争奪戦であるが、その戦いはトランプ312人対ハリス226人だった。
トランプが勝利した州を赤、ハリスが勝利した州を青で示した地図が下記である。
(カッコ内の数字は当該州に割り当てられている「選挙人」の数。また、メイン州とネブラスカ州は選挙人を連邦下院議員選挙区ごとに割り当てており、メイン州ではハリスが3人とトランプが1人、ネブラスカ州ではトランプが4人とハリスが1人獲得したので、ピンク色にした)
さらに、全国的な得票数でもトランプがハリスを上回ることが確実だ。
まだ開票作業が終了していない州が多くあるものの、現時点で、トランプの得票率は50.4%でハリスの得票率は47.9%。3%弱のリードであることがトランプの圧勝ではないと考えられる理由だが、下馬評では(たとえ選挙人の戦いでトランプが勝利しても)全国的な得票率ではハリスに負けることが想定されていたため、トランプが過半数の票を得られたことはトランプの快勝であると言える。
事前に注目されていた激戦州の結果は?
大統領選の勝敗を決めると言われていた激戦州は7州あったが、すべてでトランプが勝利した。
現時点での開票結果は次の通りである。
トランプ | ハリス | 開票率 | |
ペンシルベニア州 | 3,511,865 (50.5%) | 3,365,311 (48.4%) | 99% |
ミシガン州 | 2,809,330 (49.7%) | 2,731,316 (48.3%) | 99% |
ウィスコンシン州 | 1,697,769 (49.6%) | 1,668,082 (48.8%) | 99% |
ジョージア州 | 2,660,944 (50.7%) | 2,544,134 (48.5%) | 99% |
ノースカロライナ州 | 2,878,071 (51.0%) | 2,688,665 (47.7%) | 99% |
アリゾナ州 | 1,575,300 (52.6%) | 1,389,988 (46.4%) | 87% |
ネバダ州 | 728,298 (50.6%) | 682,363 (47.4%) | 99% |
2024年の大統領選では、ノースカロライナ州を除いた6州でジョウ・バイデンが勝利した。また、2016年の大統領選では、トランプはネバダ州でクリントンに負けていた。
今回、トランプは初めて7州すべてを制覇できたため、トランプが快勝したと言われている。
トランプが圧勝したと言えない理由は?
激戦州におけるトランプの勝利は概ねどこも僅差または小差だった。
具体的には、ウィスコンシン州は3万票(0.8%)、ミシガン州は8万票(1.4%)、ペンシルベニア州は15万票(2.1%)の差であり、これら州をハリスが制していたら彼女が勝利していたので、大統領選はたった26万票で決まったと言える。
トランプが勝利した理由は?
事前のトランプ勝利の予測の中で解説したとおり、やはりバイデン政権の不人気がハリスの一番の敗因だ。
出口調査によると、「アメリカの方向性についてどう思うか(Feeling about the way things are going in U.S.)」という質問に対し、73%もの投票者が「不満(dissatisfied)」または「怒り(angry)」と回答している。これは現政権の政党(ましてや現職副大統領)にとって致命的な数値であり、実際、「不満」または「怒り」と回答した投票者のうち62%がトランプに投票している。
意外だったのは?
全国得票数でトランプがハリスを上回ったことだ。
1992年以降の大統領選で共和党候補は4回(2000年、2004年、2016年、2024年)勝利しているが、全国的得票数で民主党候補を上回ったのは今回のトランプと2004年のジョージ・W・ブッシュだけなので、これは注目に値する功績である。(2000年のブッシュと2016年のトランプは選挙人の戦いを制しながらも得票数は下回った)
激戦州が小差だったにも関わらずトランプが全国的に得票率を上げられたのは、民主党の牙城で票を伸ばしたからだ。
代表的な州における今回のハリスの勝利の差と4年前のバイデンの勝利の差を比較するとこの傾向が一目瞭然である。
ハリスの勝利の差 | バイデンの勝利の差 | |
カリフォルニア州 | 19%(開票率75%) | 29% |
ニューヨーク州 | 12%(開票率94%) | 23% |
イリノイ州 | 9%(開票率93%) | 17% |
ニュージャージー州 | 5%(開票率92%) | 16% |
今回の選挙では2016年や2020年より早くに情勢が明確になったが、その理由の1つはハリスの全国的な苦戦が明らかだったからだ。
トランプの勝利は共和党の勝利と言えるの?
上院選の結果を見ると、これはトランプ個人の勝利の要素が強い。
今年は偶然にも7つの激戦州のうち5つで接戦の上院選が繰り広げられたが、すべての州でトランプの得票率が上院選の共和党の候補の得票率を1.5%超上回った。アリゾナ州ではまだ当確が出ていないが、5州のうち共和党候補が勝利できたのはペンシルベニア州だけである。
言い方を変えると、一定数の投票者が大統領選では共和党のトランプに票を投じながら上院選では民主党候補に票を投じている。これはSplit Ticket Votingと呼ばれ、最近の選挙では珍しくなってきていたが、今年は少なくとも3州で民主党候補の勝利の鍵となった。