副大統領候補の討論会〜アメリカ国民が候補を知る唯一の機会〜

副大統領候補の討論会〜アメリカ国民が候補を知る唯一の機会〜

民主党副大統領候補のティム・ワルツ共和党副大統領候補のJ・D・バンスの討論会が現地時間の明日10月1日(火)に開催される。ここでは、この討論会の見どころについて副大統領候補討論会の歴史と共に解説していく。

一般論として、なんで副大統領候補の討論会は重要なの?

大統領候補の討論会と異なり副大統領候補の討論会は1回しか行われないため、討論会はアメリカ国民が副大統領候補を知る唯一の機会となる。

大統領の死去または辞任によって副大統領が大統領に就任した例は過去9回あるので、副大統領候補の討論会は、大統領に万が一何かあった時に大統領になる人物同士が討論する重要な場でもある。

討論会の視聴者は何人くらいなの?

重視されるべき副大統領候補の討論会だが、大統領候補の討論会と比較すると視聴率が著しく低い。

視聴者数でみると、2020年のカマラ・ハリス(民主党候補)とマイク・ペンス(Mike Pence)(共和党候補)の討論会は5790万人2016年のティム・ケイン(Tim Kaine)(民主党候補)とペンスの討論会は3720万人だった。それぞれの年の大統領候補の討論会の視聴者は、2020年は7310万人2016年は8400万人だったので、副大統領候補の討論会の視聴率の低さがわかる。(なお、どの数字もテレビ視聴者だけを数えているので、ストリーミング等を含めるともっと多いことに留意されたい)

唯一、副大統領候補の討論会の方が大統領候補の討論会より視聴率が高かったのは2008年である。その年の大統領選では、民主党指名候補のバラク・オバマ相手に苦戦していた共和党指名候補のジョン・マケインが苦肉の策としてアラスカ州知事のサラ・パイリンを副大統領候補に指名し、当時ほぼ無名だったペイリンが高い関心を集めたことで、討論会の視聴者数は6990万人と過去最多となった(オバマとマケインの討論会は6320万人)

今回の討論会では何が注目されるの?

副大統領候補の討論会では大統領候補の話題が多くなりがちなので、副大統領候補がどれだけ自分自身の見せどころを示せるかが肝になる。

ワルツは副大統領候補に指名される前、テレビインタビューで度々トランプとバンスを「変だ(weird)」と呼んだことで注目を集めたことから、討論会でもそのスタイルを貫くだろう。バンスは独身の女性を「猫好きの女性(”cat ladies”)」と揶揄したり、スピリングフィールド市ではハイチからの移民がペットを食べているというデマを広げたりして物議を醸しているので、ワルツがバンスを弄るネタは尽きない。

バンスとしては、ワルツの軍歴に関する疑惑を追求するだろう。陸軍州軍兵士だったワルツは戦場を経験したことがないが、過去の連邦下院選と知事選の中であたかも戦場での経験があったかのような発言をしていたことが問題視されているだけでなく、イラクへの派遣を避けるために下院選に立候補したのではないかとも疑われている。

討論会はどのような形式なの?

討論会はニューヨーク州ニューヨーク市で開催され、90分間が予定されている。ルールは次の通りである。

  • 司会者はアメリカの民間放送テレビ局CBSのニュースキャスター2名
  • ワルツ、バンスそれぞれが演壇の後ろに立つ(ワルツが視聴者から見た右)
  • 司会者からの質問に対して各候補者が2分以内に回答する
  • 2分以内の反論が認められる
  • 更なるやりとりは1人1分以内で認められる
  • マイクはミュートされないが、司会者の裁量でミュートすることができる
  • メモを取ることは認められるが、メモを持ち込むことは認められない
  • 質問は事前に共有されない
  • 観客はいない
  • 2回のCMが入る

主な注目点は、大統領候補の討論会と異なりマイクがミュートされないことだ。

なお、最近の副大統領の討論会では司会者を囲む形で同じテーブルに座る対談スタイルが多くなっていたが、今回は最も伝統的な演壇の後ろに立つ設定が採用された。

過去の討論会の有名な瞬間は?

1976年の大統領選で初めて開催されて以降、副大統領候補の討論会は合計11回行われているが、「有名な瞬間」は1つしかなく、それは1988年にダン・クエール(Dan Quayle)共和党候補とロイド・ベンツェン(Lloyd Bentsen)民主党候補の討論会で起こった。

クエールは当時41歳で未経験さが懸念されていた。司会者が経験不足に関して繰り返し質問すると、クエールは愚かにも伝説的な大統領ジョン・F・ケネディと自分を比較し、「私はケネディが大統領選に出馬した時と同等の連邦議員としての経歴がある」と回答してしまった。するとベンツェンは、待ってましたとばかりに、「私はケネディと共に仕事をした。私はケネディを個人的に知っていた。彼は私の友人だった。あなたはケネディとは違う(Senator, I served with Jack Kennedy. I knew Jack Kennedy. Jack Kennedy was a friend of mine. Senator, you’re no Jack Kennedy)」と反論し、クエールをバッサリ切り捨てた。

あえてもう1つ有名な瞬間を挙げるとすると、アメリカの有名なコメディバラエティ番組サタデー・ナイト・ライブによるパイリンとバイデンの討論会のパロディーは今でも伝説として語り継がれている

副大統領の討論会は大統領選にどれほどの影響を及ぼすの?

まったく影響がないと言っても大げさではないだろう。

ちょっとした政治好きならクエール・ベンツェン討論会の「有名な瞬間」を知らない人はいないが、クエールの撃沈にもかかわらず、大統領選は共和党候補のジョージ・H・W・ブッシュが快勝した。このことほど副大統領候補の討論会が大統領選に影響を及ぼさない証はない。

今回の討論会でその歴史が変わる可能性は皆無だ。

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