投票日の約100日前に民主党候補がカマラ・ハリスに交代したことで、2024年の大統領選は前例のない短期決戦となった。ここでは、完全にリセットされた大統領選を共和党のドナルド・トランプ前大統領が勝利する理由を解説する。民主党のハリス副大統領が勝利する理由はこちらで解説している。また、「大統領候補がハリスに交代したからといって民主党が勝てるわけではない解説」も参照されたい。
ざっくりいうと、トランプが勝利する理由は?
- 現在の世論調査はトランプの勝利を示している
- 実はトランプ政権とトランプの経済対策に対する世間の評価は高い
- ハリスにはまだ投票者に浸透していない多くの弱みがある
- バイデンの支持率は低迷しており、ハリスはハイデン政権に対する連帯責任を負う
なぜ拮抗しているはずの世論調査がトランプの勝利を示していると言えるの?
確かに、最近の世論調査ではトランプは全国的にハリスに1ポイント程度リードされている。
だが、アメリカの大統領選は州レベルで競われ、勝敗を決めるのは僅差で決まるいわゆる激戦州である。民主党のハリスは人口の多いカリフォルニア州やニューヨーク州で圧勝し票を積み上げるものの、これら票は勝敗に貢献しない”死票”に近い。
たとえば、2016年の大統領選では、トランプは全国的な得票率でヒラリー・クリントンに2.1ポイントリードされたが、中西部の3つの激戦州で1ポイント未満の接戦を制したことで肝心な選挙人の戦いで勝利している。また、2020年の大統領選では、トランプは全国的な得票率でバイデンに4.5ポイントもリードされたが、敗因は4つの激戦州で1ポイント前後の接戦を落としたことだった。
さらに、世論調査ではトランプの支持が過少評価に出る傾向にある。たとえば、2016年の大統領選では最後の全国的世論調査の平均でトランプはクリントンに3.2ポイントリードされていたが、実際の差は2.1ポイントだった。また、2020年の大統領選では最後の世論調査でトランプはバイデンに7.2ポイントリードされていたが、実際の差は4.5ポイントだった。
よって、全国的世論調査でトランプがハリスに1ポイント程度リードされているということは、トランプが勝利する可能性が極めて高い。トランプは、この先投票日までの90日間の間、現状を維持できれば勝ちである。
トランプに対する世間の評価はどれほど高いの?
言動でいろいろ問題を起こしているトランプだが、7月の世論調査では51%の回答者がトランプ前政権を好意的にとらえるなど、2017年から2025年まで続いたトランプ政権の方が現バイデン政権より実はずっと評価が高い。
経済政策に関するトランプの評価はさらに高く、2月に実施された世論調査では、トランプとバイデンの間でどちらの方が経済対策について信頼できるかという質問に対し、55%がトランプ、33%がバイデンと回答していた。これはバイデン政権の問題なので、ハリスでも評価は対して変わらないだろう。
高いインフレで国民の生活が苦しくなっており、最近は世界中で株の暴落が続いている。もしこのまま景気が後退するようなことになれば、トランプへの期待がさらに高まってもおかしくない。
「経済こそが重要なのだ、愚か者(”It’s the economy, stupid”)」は、1992年の大統領選で外交の実績を強調するジョージ・H・W・ブッシュ大統領に対してビル・クリントンが使った言い回しとして有名だが、この選挙でも経済が最も重要な争点になれば、トランプは優勢である。
投票者に浸透してないハリスの弱みとはどのようなものがあるの?
ハリスは現職副大統領だが、経験や実績についてまだまだ投票者に浸透していない。
彼女は、州司法長官時代に州の検察のトップとして中道的とも言えなくない政策を打ち出し、連邦上院議員に転じると極めてリベラルな思想になり、2020年の大統領選ではそもそも何を訴えたいのか分からないまま撃沈している。
また、副大統領としての大きな実績は見当たらず、唯一バイデンから担当を任されたと広く認識されている不法移民対策については、何もせず何も実現できなかったという印象が強い。
トランプ陣営としてハリスに「異様なリベラル」のイメージを植え付けたいのであれば、上院議員時代の動画をCMにして流せばいい。または、ハリスにコロコロ主張を変える信念のない政治家のイメージを植え付けたいのであれば、上院議員時代と現在の様子の動画を繋ぎ合わせてテレビで流せばいい。そして、ハリスに無能な副大統領のイメージを植え付けたいのであれば、メキシコとアメリカの国境の視察に行ってないことを認めたインタビュー(4:13〜)を国民の間で浸透させればいい。
方針さえ決めれば空騒ぎで盛り上がっている民主党とハリス陣営を攻める方法はたくさんあり、短期決戦となれば、一旦勢いを失ったハリス陣営が態勢を立て直せないまま勝利できることが期待できる。
ハイデン大統領の低い支持率はなぜトランプの勝利を意味するの?
バイデン大統領の支持率は40%前後。現職大統領は支持率が40%台前半に落ち込むと再選できないと言われており、たとえば、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマは大統領選の年の8月時点で約47%の支持率があり再選できたが、トランプは2020年の8月時点で約43%の支持率しかなく再選できなかった。
現在の支持率を鑑みるとバイデンは出馬してても再選できない可能性が極めて高く、だからこそ民主党は彼を撤退に追い込んだ。
代わりに出馬したハリスは新鮮な候補のように振る舞っているが、彼女はそもそも現職副大統領としてバイデン政権に対する連帯責任を問われるべき立場にいる。この大統領選が実質バイデン大統領の再選選挙として位置付けられ、選挙の論点が現政権への評価になるのであれば、バイデンの支持率の低さはトランプへの勝利につながる。