ドナルド・トランプ大統領は2025年1月20日、アメリカ国内で生まれた子供全員に国籍を与える「出生地主義」について移民の子供に関してのみ否定する大統領令を発し、連邦最高裁は2025年6月27日(現地時間)、この大統領令の執行を当面認める判決を下した。ここでは、「出生地主義」の憲法上の根拠、トランプ政権が同主義を移民の子供に適用させない理屈とその合憲性、そして連邦最高裁の直近の判決について解説していく。
トランプ大統領はどのようにして移民の子供に国籍を与えないことにしたの?
トランプ大統領は2期目に就任した2025年1月20日、母親が不法滞在者か一時滞在者(temporary resident)であり、父親がアメリカ国籍又は永住権を有していない子供にはアメリカ国籍を与えないとする大統領令を発した。つまり、ビザでアメリカに滞在している両親に生まれた子供には国籍が与えられず、親のどちらかが永住権又はアメリカ国籍を有していれば国籍が与えられる。
この大統領令は政府の運営に関して政府内部に向けて発された命令であり、トランプはアメリカ連邦政府の各省庁に対し、大統領令の対象となる子供にアメリカ国籍保有の証拠となる書面を発行することを禁じ、州が発行した同様の書面を受理しないよう命じた。
アメリカではなぜ「出生地主義」が原則なの?
出生地主義の法的根拠は、1868年に批准されたアメリカ連邦憲法第14改正の次の規定である。
「合衆国内で生まれ、または合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である」
(All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside)
要は、「合衆国内で生まれた…者は、合衆国の市民」とあり、ここでの「市民(citizen)」とは市民権ではなく国籍のことを意味するため、アメリカ国内で生まれた子供には国籍が与えられるべきと、これまで一般的に解釈されてきた。
憲法第14改正は、1857年のドレッド・スコット事件(Dred Scott Case)において、連邦最高裁が黒人は奴隷でなくてもアメリカ国籍を取得することができないと判断した判決を覆すために批准された。この事件は1860年に勃発した南北戦争の引き金となったので、憲法第14改正は奴隷制度廃止と共に極めて重要な戦後処理の一環とされている。
なぜトランプ大統領は移民の子供に国籍を与えないことができると考えているの?
憲法第14改正の規定に「かつ、合衆国の管轄に服する者(and subject to the jurisdiction thereof)」という限定文言があるためだ。
一般論として、この文言は外交官の子供を指す。アメリカに滞在している外交官やその子供は外交特権によりアメリカの法律に基づく逮捕や拘禁から免除されるため、彼らは完全にアメリカの法律の下にないと考えられるからである。
だが、少数派ではあるものの、一時滞在者もアメリカの管轄に服していないと解釈する説がある。一時滞在者は母国に永住する意図があり、アメリカではなく母国への忠誠心があるという理由だ。
トランプ大統領はこの解釈を採用している。
トランプの解釈にはどれほどの説得力があるの?
トランプの解釈は連邦最高裁のウォン・キム・アーク事件(United States v. Wong Kim Ark)(1898年)の判決に明らかに反すると思われる。
同事件において連邦最高裁は、憲法第14改正はアメリカで生まれた子供に自動的に国籍を与えるものだと明示しており、例外となる「合衆国の管轄に服しない者」とは次の4つのカテゴリーに該当する子供だけだとしている。
- 外交官の子供
- 外国籍船舶で生まれた子供
- アメリカ国内が敵対的に占領されている時に生まれた敵の子供
- 部族に直接忠誠を誓うネイティブ・アメリカン(アメリカの先住民族)の子供
この判決の中で連邦最高裁は一時滞在者の忠誠心に関しても言及しており、アメリカに滞在していれば、たとえ一時的であっても、滞在中はアメリカに対して忠誠であるとみなすべきだと述べている。アメリカに滞在している限り、一時滞在者にはアメリカの法律が適用されアメリカへの忠誠が求められるとの説明だったので、「滞在」によって「管轄」と「忠誠」の双方が成立する、つまり必要なのは「合法な滞在」ではなく「滞在」であると推定される。
なお、1898年当時、中国国籍の者は連邦法に基づいて帰化することができなかったが、連邦最高裁は帰化によって国籍を取得できない両親の子供であっても、アメリカ生まれであれば憲法上アメリカ国籍が与えられると述べた。
トランプの大統領令について、連邦最高裁はどのような判決を下したの?
トランプが大統領令を発した直後、執行の差し止めを求める訴訟がアメリカ全国の連邦第一審裁判所で一斉に提訴され、これまで判決を下した裁判所はすべて、①大統領令は違憲であると判断し、②大統領令の執行を(原告に対してだけでなく)全国的に差し止めた。
これら判決を受け、トランプ政権は②についてのみ連邦最高裁に緊急的に控訴した。
政権側の主張には一理あり、通常、50州各州にある連邦第一審裁判所の管轄権は同州内に留まると考えられている。各第一審裁判所が全国的に影響を及ぼす判決を下せるとなると、第一審裁判所の間で矛盾する判決が出た時に混乱が生じる。
他方、政権側の主張には問題もあり、全国的な差し止めがないと、不法移民又は一時滞在者の母に生まれた子供に国籍が与えられるか否かが州ごとによって異なってしまい、これも混乱につがなる。
結局、連邦最高裁は2025年6月27日にトランプ政権の主張を認める判決を下し、第一審裁判所が原告以外に適用される差し止め命令を下すことを禁じた。
連邦最高裁は大統領令の合憲性自体について意図的に判断せず、この点は今後、通常の手続きに則って連邦第一審裁判所、連邦控訴裁判所に判断された後、連邦最高裁に判断されることとなる。
連邦最高裁が審査する頃には1年以上経っている見込みで、それまでの間、トランプ政権は訴訟を起こさない子供たちに対してアメリカ国籍を与えないことができる。その行為がいずれ覆されるとしても、これはトランプ大統領にとって大きな勝利である。
最高裁の判決後、包括的に大統領令の執行を差し止める方法はないの?
クラスアクション訴訟制度(class actio lawsuit)を用いれば、アメリカ国籍を否定される子供がそれぞれ訴訟を起こさなくても、大統領令の執行を包括的に差し止められる。実際、最高裁の判決に対する反対意見はそれを促している。
クラスアクション訴訟とは、 実際に訴訟を提訴した原告と同じ法的利害関係の立場にいる人達を、その人達の同意なく原告側に含む集団訴訟制度である。訴訟に携わる原告は「クラス代表者(Class Representative)」と呼ばれ、 自動的に原告に含まれる人達は「クラス構成員(Class members)」と呼ばれる。クラス構成員全員が原告となるため、判決の効力はクラス構成員全員に及ぶ。
クラスアクション訴訟の特徴は、訴訟に関与していないのにも関わらず、クラス構成員の誰しもが同じ訴因で訴訟を起こす権利を失うことである。このため、クラスアクション訴訟においてはクラス構成員の権利を保護する必要があり、クラス代表者が適切な代表者であるか等を裁判所が判断する、クラス認定(class certification)と呼ばれる手続きが必要となる。
アメリカ国籍を否定される立場にいる子供全員がクラス構成員に含まれクラス認定されれば、差し止め命令はクラス構成員全員に対して包括的に適用されることになる*。
だが、1つ留意点がある。それは、連邦最高裁の判決の趣旨を回避することを目的にクラスアクション制度を活用してはならないと、一部の最高裁裁判官が捕捉意見において忠告している点だ。
2025年7月10日(現地時間)、早速、差し止め命令を下していた連邦第一審裁判所の1つがクラス認定し、アメリカ国籍を否定される子供全員から構成されるクラス構成員に対して大統領令を執行することを差し止めた。今後他の裁判所によるクラス認定と差し止め命令が続くと思われるが、これらについて連邦最高裁がどのように判断するか注目される。
* 複数のクラスアクション訴訟においてクラス構成員が重複している問題は頻繁に起こるので、クラスアクション訴訟制度においては全国的な差し止めと異なり、複数の第一審裁判所が矛盾する判決を下す問題については既存の法理に基づき整理できる
【2025年7月12日にクラスアクション制度を用いた大統領令執行の差し止めについて補足】