史上最長となっているアメリカ連邦政府の閉鎖は、食料支援制度「SNAP(Supplemental Nutrition Assistance Program)」の給付金をめぐり、大きな混乱を招いている。ここでは、トランプ政権が政府閉鎖を理由にSNAP給付金支給の制限を試みた背景、州を通じて給付金が支払われる制度の仕組み、そして裁判所の判断が事態をさらに複雑にしている経緯を解説していく。
簡潔にまとめると、何が起こっているの?
SNAPは、低所得世帯が食料を購入できるよう支援する制度である。プログラムの枠組みや予算の編成は連邦政府が担う一方、実際の運営は各州に委ねられている。このため、給付金は連邦政府から州へ、州から受給者へと段階的に支払われる仕組みになっている。
2025年10月1日(現地時間)、民主党の反対により連邦政府の2025年度新予算は成立せず、政府は支出できない閉鎖状態に陥った。10月24日(現地時間)、トランプ政権は予算が底をついたことを理由にSNAP給付金の支払いを11月1日から停止すると発表した。
これに対し、10月28日(現地時間)、民主党が知事を務める25の州がトランプ政権に対して、SNAP給付金の支払いを継続することを求める訴訟を起こした。連邦第一審裁判所の裁判官が原告側の主張に理解を示したことから、トランプ政権は既存の予算から11月分のSNAP給付金の一部を支払うと表明し、裁判官はこの処置に同意した。
ところがその後、裁判官は連邦政府に対して11月分のSNAP給付金を全額支払うよう命令した。トランプ政権はこの命令について即座に連邦最高裁へ上訴し、連邦最高裁は上訴を認めた。
結果として、トランプ政権は11月分のSNAP給付金を全額支払う必要がなくなった。しかし、第一審裁判所による命令と最高裁による差し止めの間にすでに給付金を全額支給した州もあり、現場は混乱に陥っている。
なぜSNAPプログラムはアメリカ連邦政府のプログラムなのに州に支給されるの?
アメリカが連邦制国家であるためだ。
SNAPプログラムの給付要件や給付額などはアメリカ連邦法に定められ、プログラムは連邦農務省(United States Department of Agriculture)に監督される。だが、受給者の決定、給付額の算定、実際の給付などは各州が実施している。
この「連邦制度+州実施型」は、公的医療保険制度のメディケイドと類似している。
なお、SNAP給付金は連邦政府の予算で賄われるが、運営費は連邦政府と州で折半される。
SNAPプログラムに基づいて何人にいくら支給されているの?
約4200万人がSNAPに基づく給付金を受給しており、これはアメリカの人口の約12%に相当する。
また、給付金の総額は毎月約80億ドル(約1.2兆円)、1世帯あたり毎月約350ドル(約5万円)である。
政府閉鎖はSNAP給付金の支払いにどのような影響を及ぼしているの?
SNAP給付金は年度予算に組まれる必要がある。したがって、トランプ政権は政府閉鎖が始まった数週間後、11月から給付金を各州に対して支払うことができないと発表した。
もっとも、SNAPプログラムの臨時資金や他の予算をやりくりすれば、給付金の支払いを継続することは可能である。実際、過去の政府閉鎖ではこうした工夫により、給付金の支払いが継続されてきた。
今回の政府閉鎖では、トランプ政権はこのような措置を取らずにSNAP給付金の支払いを停止しようとしたが、多数の州に提訴されたことを踏まえ、46億ドル(約7000億円)残っている臨時資金から11月分のSNAP給付金の65%を支払うことに同意した。
一部の州は、州予算で差額を補う方針を示したが、財政的にこの処置には限界があり、トランプ政権は州による穴埋めを補填しないと忠告している。
SNAP給付金の支払いについて、裁判所はどのように判断しているの?
SNAP給付の停止や削減をめぐる訴訟は、紆余曲折を経ている。
10月28日に25州がトランプ政権を相手に連邦第一審裁判所で訴訟を起こすと、10月31日、連邦裁判官は臨時資金があるにもかかわらずSNAP給付金の支払いを停止することは違法である可能性が高いとの見解を示した。その上で、トランプ政権に対し、給付金の一部を支払う案を提出するよう命じた。
トランプ大統領はこの命令に対して政府閉鎖が終了するまでSNAP給付金は支払わないとSNSに投稿したが、11月3日(現地時間)、連邦農務省は裁判所に対して11月分の給付金の50%を州に支払う意思を示し、連邦第一審裁判所は迅速に実行するよう命じた。その後、11月5日(現地時間)に、連邦農務省は給付金の支払率を65%に引き上げた。
ただ、連邦農務省が「給付金の一部だけを支給するには、各州が数週間から数か月かけてSNAPプログラムの運営を調整する必要がある」と裁判所に主張したことで、原告側はトランプ政権が裁判所の命令を遵守していないと訴えた。連邦第一審裁判所はこの訴えを認め、11月6日(現地時間)、連邦農務省に対して11月分のSNAP給付金の全額を州に支払うよう命じた。
この全額支払い命令について、トランプ政権は即座に差し止めを連邦最高裁に求めた。11月7日(現地時間)、連邦最高裁はトランプ政権の要請を認め、全額支払い命令を暫定的に差し止めた。結果、連邦農務省は直ちに全額を支払う義務を回避できたが、連邦最高裁のこの判断は非公開かつ緊急的に行われるいわゆる「シャドウ・ドケット」に基づくものであり、連邦第一審裁判所の命令の是非に関する本質的な審理は、通常の「メリッツ・ドケット」手続を通じて連邦控訴裁判所で行われる。
6日の連邦第一審裁判所の命令と7日の最高裁による差し止めの間に、複数の州がすでに給付金を全額支給しており、現場では混乱が広がっている。