ドナルド・トランプ大統領は、グリーンランドを支配下に置くことの必要性について訴えている。ここでは、アメリカ連邦憲法と法律の枠内で、トランプ大統領がグリーンランドを支配するために採用できる4つの方法と、それぞれにおいて連邦議会が関与できる権限について解説していく。国際政治や外交戦略の是非、ならびにデンマークとアメリカ国内政治上の実現可能性には立ち入らない。あくまで、憲法と連邦法に基づく権限配分に焦点を当てて整理する。
簡潔にまとめると、トランプ大統領にはどのような手段があり、連邦議会はどの程度関与できるの?
トランプ大統領がグリーンランドを支配するための手段として、次の4つがあると考えられる。
- グリーンランドの購入
- 自由連合協定の合意
- 軍事力による掌握
- 既存の防衛協定に基づく影響力の拡大
グリーンランドを購入することが最も連邦議会の関与が強く、既存の防衛協定に基づいて影響力を拡大することが最もトランプ大統領の裁量が広い。ただ、いずれの方法においても、特に予算の面で議会の協力が欠かせない。
なぜ、グリーンランドの購入が最も連邦議会の関与が強いの?
アメリカは、デンマークからグリーンランドを買収することで、グリーンランドをアメリカの支配下に置ける。ただ、これは連邦議会(特に上院)による承認のハードルが高い。
アメリカによる外国からの領土の買収には、次のような前例がある。
- 1803年〜フランス第一共和政からルイジアナ準州(Louisiana Territory)を買収
- 1867年〜ロシア帝国からアラスカ(Alaska)を買収
- 1917年〜デンマークからデンマーク領西インド諸島(現在のアメリカ領ヴァージン諸島(U.S. Virgin Islands))を買収
これらはいずれも、外国政府と交渉した条約に基づいて実現したものである。
アメリカ連邦憲法上、大統領は外国と条約を交渉・締結する権限を有しているが、条約の発効には連邦上院の2/3の承認が必要である。また、領土取得に伴う支出には予算が必要で、予算を成立させるためには、立法プロセスを経て、連邦下院と連邦上院が過半数で可決する必要がある(原則として、大統領の署名も必要)。
したがって、トランプ大統領は交渉の入口には立てるが、連邦議会の協力がなくてはグリーンランドを購入することができない。
なお、1946年、アメリカはグリーンランドを1億ドルで買収することをデンマークに提案したが、拒否されている。
なぜ自由連合協定の合意は連邦議会の協力が欠かせないの?
アメリカは「自由連合協定(Compact of Free Association)」を結ぶことで、グリーンランドに対する関与を制度化することができる。ただ、この手段でもトランプ大統領は連邦議会の承認を得る必要がある。
自由連合協定とは、アメリカと特別な関係を定めた包括的枠組みであり、現在、マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦およびパラオ共和国と締結されている。自由連合協定上、相手国の主権は尊重されながらも、アメリカは軍事施設を維持することができ、その代わり、アメリカは防衛責任を担って、長期的な財政支援を行う。
自由連合協定は、立法プロセスに基づいて、上下両院の過半数による可決(および原則として大統領の署名)によって成立する。領土の購入と異なり、自由連合協定が条約として扱われないのは、単なる外交合意にとどまらないからである。これは、長期かつ恒常的な財政支出や、アメリカ政府の行政機関への権限付与などを伴うためだ。例えば、2003年の改正法(Compact of Free Association Amendments Act of 2003)では、国務長官(Secretary of State)と内務長官(Secretary of Interior)に対し、協定実施に関する調整・政策指針策定の権限が与えられた。
自由連合協定の締結においてもトランプ大統領は連邦議会の協力が必要だが、連邦上院の可決が2/3ではなく過半数でよいため、領土購入よりハードルが低い。
なお、自由連合協定はグリーンランドと締結することになるので、デンマークがグリーンランドに対する独立性を認めないと実現しにくい。
なぜ軍事力による掌握は大統領単独で実現できないの?
アメリカは、グリーンランドに侵攻し占領することで、軍事的にグリーンランドを支配できる。この手段を採用した場合、トランプ大統領はグリーンランドを掌握することはできるが、中長期的な占領にあたって連邦議会の協力が避けられない。
アメリカ連邦憲法は、大統領を軍の最高司令官と指定する一方で、連邦議会(上院・下院)に戦争を宣言する権限を与えている。憲法が想定しているのは、議会が宣戦布告した相手に大統領が軍隊を展開する構図だが、実際は、大統領が議会の宣戦布告なしに軍を展開することが繰り返されてきた。
こうした大統領の軍隊の活用に抵抗するために、連邦議会は戦争権限法(War Powers Resolution)を1973年に制定した。この法律は、大統領が議会の承認なく武力を行使した場合、原則として48時間以内に議会に報告し、議会の承認を得られなければ、60日以内に撤兵することを求めている。だが、この法律の実効性は乏しく、歴代政権は共和党・民主党に関わらず、議会の明示的な承認を得ないまま軍事行動を継続してきた。
連邦議会は、トランプ大統領が最高司令官としてアメリカの軍隊をグリーンランドに展開することを実質止められないと考えられる。よって、トランプは単独でグリーンランドを掌握することができるだろう。
ただ、掌握したグリーンランドを占領し続けるためには、行政運営などに関連して、上院・下院の両院が可決した予算が必要となる。一旦大統領が軍隊を展開した後に議会が予算を拒否するのは現実問題として難しいが、連邦議会の協力なしにグリーンランドを中長期的に占領することはできない。
なぜ既存の防衛協定に基づいた影響力の拡大なら大統領の裁量でできるの?
アメリカは、既存の防衛協定と法律に基づいて、グリーンランドに対する影響力を強めることができる。すでに連邦議会が認めている枠内で実現できるので、これがトランプ大統領にとって議会の関与が最も少ない選択肢となる。
アメリカとデンマークの間では、グリーンランド防衛に関して1951年に協定が締結されている。その協定に基づいて、アメリカはグリーンランドにおいて防衛地域(defense area)内で軍事施設を維持しアメリカ軍人員を派遣することが認められている。
この協定は条約として扱われ、連邦上院の承認を経た上で発効している。この協定に基づいて更なる人員を派遣したり、新たな防衛地域を追加することをデンマークと合意する裁量を有するのは、最高司令官である大統領である。関連する支出については連邦議会が可決した予算が必要であるが、それは一般的な国防予算として整理できるはずだ。
トランプ大統領は既存の協定では十分な影響力を発揮できないと発言しているが、連邦議会による関与が限定的であるため、これが最もトランプの裁量が広い選択肢である。