2026年2月28日(現地時間)に開始したアメリカとイスラエルによるイラン戦争は、3週間目を迎えた。ここではまず、戦争が起こった背景と理由を整理する。その上で、ドナルド・トランプ大統領がイラン戦争を行える権限、アメリカ国内でこの戦争がどのように受け止められているのか、さらに戦争の今後の行方と日本への影響を解説していく。
簡潔にまとめると、これまで何が起こったの?
今回のイラン戦争は、2026年2月28日(現地時間)にアメリカとイスラエルが共同でイラン国内への大規模空爆を開始したことで始まった。両国軍は同日、ミサイル基地、防空システム、軍司令部などを対象に数百回規模の攻撃を行い、イランの軍事インフラと指導部に深刻な打撃を与えた。攻撃では、最高指導者アリ・ハメネイ(Ali Khamenei)を含む複数の指導者が死亡している。
この攻撃に対してイランは、イスラエル本土やバーレーン、カタール、クウェート、サウジアラビアなどのアメリカ軍関連施設に向けて弾道ミサイルやドローンを発射した。さらに、イランと密接な関係を持つレバノンのヒズボラもイスラエルへの攻撃を再開し、イスラエルはレバノンへの空爆を強化するなど、戦闘は地域全体に拡大した。
戦争はその後、主に空爆とミサイル戦を中心とする「広域航空戦」として続いている。アメリカとイスラエルはイラン国内の軍事施設やミサイル拠点への攻撃を継続しており、イラン側も、中東各地のアメリカ関連施設やエネルギーインフラに対し、ドローンやミサイルによる攻撃を続けている。世界の原油20%が通過するホルムズ海峡ではタンカーがイランの攻撃対象となり、世界のエネルギー市場にも大きな影響が出ている。
なぜアメリカとイスラエルはイランを敵視しているの?
現在の対立の起点としてよく挙げられるのが、1953年のクーデターである。
イランでは当時、モハンマド・モサッデク首相(Mohammad Mosaddegh)が石油産業の国有化を進めていたが、アメリカとイギリスはこれを脅威とみなし、クーデターを支援してモサッデク政権を倒した。結果として、親米的なパーレビ国王(Mohammad Reza Pahlavi)の体制が強化され、イランは冷戦期におけるアメリカの重要な同盟国となった。しかしこの出来事は、イラン国内では「外国が民主的政府を倒した事件」として長く記憶され、後の革命の心理的背景となった。
その反動として、1979年にイラン革命が起こった。革命によって成立したイスラム共和国は、親米王政を支えてきたアメリカを体制の敵と位置づけた。同年11月、革命支持の学生グループがアメリカ大使館を占拠し、外交官ら50人以上を人質として拘束した。この事件は444日間続き、ジミー・カーター大統領が1980年の大統領選でロナルド・レーガンに敗北する要因となった。この事件によって、イランとアメリカの関係は事実上断絶し、その後も、イランの核開発や湾岸地域での軍事的緊張などを巡って対立は繰り返された。アメリカにとってイランは40年以上にわたり「敵国」であり続けている。
イスラエルとイランの関係も、革命を境に大きく変わった。革命前のイランはイスラエルと比較的協力的な関係を維持していたが、革命後は、イスラエルを正統な国家として認めず、パレスチナ問題を軸に反イスラエル政策を強めていった。イランはさらにレバノンのヒズボラやガザのハマスなどを支援し、「代理戦争」を展開してきた。イスラエルから見ると、イランは国家の存続を脅かしかねない存在となった。
なぜこの時点で、アメリカはイスラエルとともにイランに対して戦争を始めたの?
20年以上にわたり、アメリカやイスラエルに加えて欧州もイランの核開発を警戒してきたことが直接的な理由である。
欧米は長年、経済制裁によってイランの核開発を抑え込むという戦略を取っていたが、オバマ政権下の2015年にイラン核合意(Joint Comprehensive Plan of Action)が成立し、外交的にイランの濃縮活動を制限する枠組みが作られた。
だが、2018年、第1期トランプ政権はイラン核合意を破棄し、経済制裁を用いてイランを抑制する方針に転じた。これをきっかけにイランが核開発を再開し、それに反発したイスラエルが2025年6月にイランの核関連施設に対して大規模空爆を実施した。その戦闘にトランプ政権も介入し、イランの核プログラムは打撃を受けたが、核能力そのものが完全に破壊されたわけではなく、イランは核開発を続けた。
今回の開戦の判断には、イラン国内の政治状況が影響したと思われる。2025年12月、経済状況の悪化への不満を理由に、イラン国内で大規模な抗議デモが発生した。この抗議は政府によって強く弾圧され、数千人から数万人が死亡したと報道されている。トランプ大統領はイラン政府による抗議者への弾圧を強く批判し、抗議者が殺害される事態に対してアメリカが軍事的対応を取る可能性に言及した。アメリカとイスラエル側は、イラン国内の不安定さを政権基盤の弱体化を示す兆候と見て、攻撃すれば強く抵抗できないまま政権が崩壊するという計算が働いた可能性がある。
大統領は戦争を行う権限を有しているの?
アメリカ連邦憲法上、大統領は軍の最高司令官とされている一方で、戦争を宣言する権限は連邦議会に与えられている。しかし実際には、アメリカは太平洋戦争以降正式な宣戦布告を行っておらず、多くの軍事行動は大統領の判断で開始されてきた。
こうした大統領による軍事力行使を制約するため、連邦議会は戦争権限法(War Powers Resolution)を1973年に制定した。この法律は、大統領が議会の承認なく武力を行使した場合、48時間以内に議会に報告し、議会の承認を得られなければ、60日以内に撤兵することを求めている。トランプ大統領は3月3日(現地時間)にイラン戦争に関する報告を連邦議会に行ったが、議会は戦争を承認する法案を審議していない。それどころか、議会の承認がなければ撤兵することを求める法案が連邦上院と下院双方で否決されたことから、議会はイラン戦争を実質容認することとなった。
なお、開戦とともに行われた大規模空爆によって、イランの最高指導者ハメネイが死亡していることについては、アメリカには政治的暗殺を禁止する大統領令が存在するため、外国指導者を意図的に殺害することは認められていない。だが、この禁止が戦争中の軍事攻撃まで含むものであるか疑義がある。さらに今回のケースでは、最高指導者を死亡させた攻撃はイスラエル軍によるものであると報じられている。実際の攻撃主体がイスラエルである以上、アメリカの暗殺禁止規定は適用されないと考えられる。
この戦争はアメリカ国内でどのように受け止められているの?
今回のイラン戦争は、トランプ政権にとって大きな政治的リスクを伴う。
トランプ大統領の政治的ブランドの中心にあるのは、「アメリカ・ファースト(America First)」という外交理念である。トランプはこれまで、ジョージ・W・ブッシュ大統領(George W. Bush)が始めたイラク戦争やアフガニスタン戦争を繰り返し批判し、「終わりのない戦争(endless wars)」からアメリカを解放する必要があると主張してきた。そのため、今回のようにアメリカが中東で大規模な軍事作戦に関与することは、トランプ支持者の間でもトランプの政治メッセージと矛盾していると見られる可能性がある。
さらに、トランプは経済問題に焦点を当てることで2024年の大統領選挙で勝利した。選挙戦中、バイデン政権期に続いたインフレへの不満を汲み取り、トランプは「生活コストを下げること」を主要な公約として掲げていた。大統領就任後、トランプはガソリン価格が低下していることを政権の経済成果の1つとして繰り返し強調してきたが、イラン戦争によってガソリンの平均価格は20%上昇しており、ガソリン価格はトランプにとって、政権の成果を示す材料から足かせへと変わるだろう。
この戦争に対するアメリカ国内の意見は明確ではない。戦争支持が10%以上上回る世論調査もあれば、逆に10%以上の差で反対が上回る調査もある。共通しているのは、共和党支持者の間では支持率が高く、民主党支持者の間では支持率が低い。そして、無党派層の支持はその中間に位置している。
この戦争はいつ、どのように終結すると予想されるの?
トランプ政権は今回の戦争について「限定的な軍事作戦」であると説明しており、開戦当初から4〜5週間で完了するとしている。
もっとも、作戦の目的に関するトランプ政権の説明が一貫していないため、何をもって作戦完了とみなすのかが定かでない。最も強調されている作戦の目的は、イランの核兵器取得を阻止し、核関連施設や弾道ミサイル能力を破壊することである。だが、トランプ大統領は政権交代が目的であることを示唆し、ハメネイの後任指導者はアメリカが承認する必要があると発言している。さらにトランプはSNSで、イランが無条件降伏する必要があると投稿している。
結果、戦争が終わる時期についても、トランプ政権の発言は一貫していない。3月8日から11日の3日間だけでも、「戦争は始まったばかりである」、「戦争はほぼ終わっている」、「戦争はもっと続く」、「すでに勝利している」といった矛盾する発言が連発されている。結局、トランプ大統領が完了したと判断するまで戦争は続くと考えられるが、トランプは終結のタイミングについて「自分がそれを感じたとき」であるとインタビューで曖昧な回答をしている。
この戦争で最も大きなエスカレーションのリスクとして注目されているのが、ホルムズ海峡をめぐる状況である。ホルムズ海峡は世界の石油輸送の約20%が通過する重要な海上ルートであり、イランは海峡封鎖を圧力手段として使っている。こうした状況が続く限り世界経済への打撃は避けられず、アメリカ海軍がタンカーを護衛する必要性が指摘されているが、そうなれば戦争の長期化は避けられない。
今年の11月には中間選挙が実施されることから、戦争の行方は世論に左右される可能性が高い。もし戦争が長期化し、経済への影響(特にインフレの上昇)が著しくなれば、世論が厳しくなり、イラン戦争は共和党にとって政治的負担になる。共和党のネオコン系議員の間ではイランに対する強硬姿勢と軍事行動への支持が強いが、世論が厳しくなると、改選を迎える議員を中心に戦争への支持が共和党内でも揺らぐ可能性が高まる。トランプ大統領としても、1期目に中間選挙で大敗したことで政権運営が行き詰まった経験から、今年の中間選挙で勝利するためにも戦争は早く終結させたいと思われる。
こうした要素を踏まえると、数週間以内に、イランの核施設やミサイル能力が一定程度破壊された段階でアメリカ・イスラエルとイランの双方が軍事作戦を縮小し、事実上の停戦状態に入るというシナリオが最も現実的だと思われる。ただ、イランによる報復攻撃が拡大し、ホルムズ海峡の閉鎖状態が続けば、世論が反対していても戦争を継続せざるを得ない状況が続く可能性はある。そうなると、トランプ政権と共和党にとっては極めて厳しい政治的環境となる。
日本から見て、この戦争をアメリカ政治の観点からどこに注目して見ればよいの?
今回のイラン戦争が日本に与える影響はエネルギー市場や外交だが、いずれもアメリカ国内政治の動きによって大きく左右される。
日本は輸入原油のうちおよそ70%がホルムズ海峡を通過している。したがって、イラン周辺の軍事衝突は日本のエネルギー供給に直接影響するが、この影響がどこまで拡大し、いつ終わるかは、アメリカ国内の世論が戦争をどう見て、トランプ大統領がいつ軍事活動を終了させるかにかかっている。
また外交面では、日本はイランとの外交関係を維持しており、2019年には安倍首相がアメリカとイランの間での外交的な仲介を試みたこともある。一方、日本は日米同盟を安全保障の基盤としており、トランプ大統領は14日(現地時間)、ホルムズ海峡を通過する商船の護衛のため戦艦を派遣するよう、日本を含めた多国にSNSで呼びかけた。もし、19日にホワイトハウスで行われる首脳会談で高市早苗首相が商船護衛を正式に要請されたり、アメリカがイランとの軍事対立をさらに強めると、日本が完全に中立的な立場を取ることは難しくなる可能性がある。
さらに注目が必要なのが、アメリカの中間選挙との関係である。アメリカでは戦争と選挙はしばしば密接に関係してきた。もしイラン戦争が長期化し、原油価格の上昇や経済への影響が大きくなれば、11月の中間選挙で共和党が連邦下院選で大敗することが確実となり、過半数を維持する可能性が高いと思われている連邦上院選でも敗北する可能性が高まる。そうなると、トランプ政権がレームダック化することは避けられず、日本企業は民主党やトランプ後を見据えたアメリカ対策へシフトする必要が出てくる。