テキサス州上院予備選の結果〜共和党現職が決選投票に追い込まれ、民主党に好機〜

テキサス州上院予備選の結果〜共和党現職が決選投票に追い込まれ、民主党に好機〜

2026年3月3日(現地時間)、テキサス州で連邦上院議員選挙の予備選が開票された。ここでは、共和党の牙城であるテキサス州の上院選がなぜ注目されているのかを整理した上で、民主党では比較的穏健な候補が初回投票で勝利し、共和党では現職が決選投票に追い込まれた結果を分析する。さらに、共和党の決選投票に向けたドナルド・トランプ大統領の動きと本選挙の見通しを確認し、この選挙が日本企業にとって持つ意味を解説していく。

なぜテキサス州での上院選の予備選が注目されたの?

今年の中間選挙で民主党が連邦上院の過半数を握れるかは、テキサス州の結果に大きく左右されると考えられている。同州は30年以上にわたり共和党の牙城だったが、近年は民主党が支持を伸ばしている。

こちらで解説している通り、11月の中間選挙で改選される連邦上院の議席の多くは民主党側に不利な州に集中している。民主党が上院で過半数を獲得するためには、共和党に有利とされる州のうち少なくとも2州で勝利する必要があると考えられている。その有力な候補の1つがテキサス州である。

アメリカ南部に位置するテキサス州は、共和党の牙城である。民主党が同州における州単位の選挙で最後に勝利したのは1994年。知事や連邦上院議員のほか、副知事、司法長官(Attorney General)、会計監査官(Comptroller of Public Accounts)、州財務官(Treasurer)といった州政府の主要ポストも選挙で選ばれる。そのため、共和党は長年にわたって州政治を支配してきたといえる。

しかし近年は、この構図が徐々に変化している。背景にあるのは、州の急速な人口増加と人口構成の変化である。とりわけオースティン市(Austin)、ダラス市(Dallas)、ヒューストン市(Houston)といった都市圏で人口が急増しており、大卒の有権者やヒスパニック系住民の比重が高まっている。こうした都市部では民主党の支持が強く、選挙のたびに民主党の得票率が伸びてきており、2018年の上院選では、民主党のベト・オルーク(Beto O’Rourke)が現職のテッド・クルーズ(Ted Cruz)に2.6%差まで迫った

アメリカでは州ごとに選挙の仕組みが異なるが、テキサス州では、各党で予備選が実施され、予備選を勝ち抜いた候補者が本選挙で戦う。予備選のみ、過半数を取得する候補がいなかった場合、上位2人による決選投票が行われる。今回の選挙では、共和党の現職に対して有力な対抗馬が出馬したことで共和党が分裂気味となり、民主党が勝利する可能性が従来よりも高まった。

民主党の予備選には誰が出馬していたの?

民主党側では、事実上、テキサス州下院議員ジェームズ・タラリコ(James Talarico)と、連邦下院議員ジャスミン・クロケット(Jasmine Crockett)の一騎打ちとなった。

タラリコは36歳の白人男性。上院選に出馬する前は、神父になることを目指して神学校で学んでいたこともあり、選挙戦では自身のキリスト教信仰について語る場面が多かった。南部では、特に保守的な有権者ほど宗教を重視する傾向がある。そうした地域性に加え、分断を和らげるような融和的メッセージを前面に出していたことから、タラリコの選挙戦は中道層を意識したものだったといえる。

タラリコが全国的に知られるきっかけとなったのは、テレビ番組でのインタビューをめぐる一件だった。深夜番組「ザ・レイト・ショー(The Late Show)」の司会者スティーブン・コルベア(Stephen Colbert)が、タラリコとのインタビューを放送することが放送局の法務部に阻止されたと番組で暴露すると、その後YouTubeで公開されたインタビューの動画は再生回数が1000万回を超えた。

一方、クロケットは黒人女性で、弁護士としてキャリアを積んだ後、テキサス州下院を経て連邦下院議員となった。議会やメディアで共和党政治家やトランプ派を強く批判する姿がソーシャルメディアで拡散され、全国的な知名度を得た。

この両候補の間には政策の面で大きな対立があったわけではない。そのため、選挙戦では政治スタイルの違いが前面に出た。2024年の大統領選でカマラ・ハリス(Kamala Harris)が敗北して以降、トランプに対抗するには穏健なスタイルと対決型のスタイルのどちらが有効なのかをめぐり、民主党内では見解が分かれている。タラリコとクロケットの対決はその凝縮図だったと考えられる。

民主党予備選の結果は?

タラリコが52%、クロケットが46%の得票率で、タラリコが初回投票で民主党の指名候補となった。

タラリコは地盤であるオースティン市で票を固めたほか、比較的中道寄りの有権者が多い地方部や、ヒスパニック系住民の比率が高い地域でもクロケットを大きく上回った。また、大卒の有権者が多い都市部の郊外でも強みを示し、幅広い有権者層から支持を集めた。クロケットは黒人が多い都市部でタラリコを上回ったが、支持は州全体に広がらなかった。

選挙前の世論調査では、タラリコが二桁リードする調査もあれば、クロケットが二桁リードする調査もあり、結果を予測しにくい選挙だった。

共和党の予備選には誰が出馬していたの?

共和党側では、5期目を目指す現職ジョン・コーニン(John Cornyn)、テキサス州司法長官のケン・パクストン(Ken Paxton)、連邦下院議員のウェズリー・ハント(Wesley Hunt)の3人による争いとなった。

コーニンは1990年代からテキサス政治の中心にいるベテラン政治家で、州最高裁裁判官や州司法長官を経て、2002年に連邦上院議員に初当選した。その後も再選を重ね、長く共和党指導部の一員として活動してきている。議員としての活動は基本的に保守的で、トランプ政権の政策も概ね支持してきたが、2022年の銃規制法案など、民主党と協力して超党派の立法に関わったこともあり、党内の強硬派から批判されることがある。

パクストンは、現職の州司法長官として州政治で強い存在感を持つ政治家である一方、長年にわたり数々のスキャンダルを抱えてきた。2015年に証券詐欺の容疑で起訴され、2020年には贈収賄の疑いでアメリカ連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、FBI)に捜査された。2023年にテキサス州下院によって弾劾されたものの、州上院で有罪に必要な票数に届かず職にとどまった。トランプが2期目への出馬を表明した際にいち早く支持を表明したことから、自らを最も筋金入りのトランプ派候補として位置づけようとしている。

ハントは、共和党では珍しい黒人の政治家。退役軍人で、比較的若い保守派政治家として知られている。政治的にはトランプの路線に近い立場を取り、移民政策などで強硬な保守政策を主張してきた。

民主党側と同様、3人の間に政策面で明確な対立軸があったわけではない。そのため、予備選は誰が最も強いトランプ派なのかを競う争いという色彩が強くなった。トランプ大統領本人は特定の候補への支持を表明しなかったため、候補者それぞれが自らのトランプ支持の姿勢をアピールする形で選挙戦は進んだ。

共和党予備選の結果は?

得票率はコーニンが42%、パクストンが41%、ハントが14%だった。いずれの候補も過半数の50%に届かなかったため、テキサス州の予備選制度に基づき、コーニンとパクストンの2人による決選投票が5月26日(現地時間)に行われる。

コーニンは都市部を中心に支持を得た。オースティン市やダラス市およびその郊外で支持を広げ、より穏健な共和党支持層の票を集めた。また、地方でも一定の得票を確保しており、現職として州全体に一定の支持基盤を持っていることを示せた。一方のパクストンは、地方を中心にトランプ支持者が多い地域で強い支持を得たが、ヒューストン市などの一部の都市でもコーニンに迫った。両候補が州全体で幅広く票を集めたことが、僅差につながった。

選挙前の世論調査の大半では、パクストンがコーニンをリードしていた。そのため、コーニンが僅差ながら首位に立ったことは、やや意外な結果と受け止められている。

共和党予備選の決選投票の行方は?

現職は知名度と組織力を背景に予備選で圧勝するのが通常なので、コーニンにとっては、初回投票で過半数を確保できなかったという点で厳しいものとなった。現職が決選投票に追い込まれると、反現職票がまとまる決選投票では負ける傾向にある。

決選投票での両候補の戦略ははっきりしている。民主党予備選で比較的穏健なイメージを持つタラリコが勝利したこともあり、コーニンはパクストンの長年のスキャンダルを前面に出し、「本選では勝てない候補だ」と訴えることが予想される。これに対してパクストンは、コーニンを長年ワシントンで活動してきた「ワシントンのインサイダー」として批判し、より強い保守派の候補である自分こそが共和党の支持者を代表していると訴えると見られている。

決選投票の大きな変数になるのが、トランプ大統領の動きである。今回の共和党予備選では、すでに8800万ドル(約140億円)の広告費が使われており、決選投票までの3ヶ月間で同規模の資金が投入される可能性が高い。トランプは初回投票で特定の候補を正式に支持しなかったが、党内で長引く激しい予備選を避けるため、決選投票では支持を出すと述べている。トランプの支持は共和党予備選において決定的な影響力を持っているため、トランプ大統領がどちらの候補を支持するかが大きく注目される。

現時点では、トランプがコーニンを支持する可能性が相対的に高いと見られている。トランプは、中間選挙で共和党が連邦上院・下院で過半数を維持し続けられることを重視しており、その観点からは、コーニンの方が本選挙で勝利しやすい。さらに、コーニンは「共和党内でも最も多くの支持を集めた候補」であると主張できるので、僅差ながら首位に立てたことの意味は大きかった。

本選挙の見通しは?

今回の予備選の結果を見ると、民主党にとって本選挙を戦いやすい条件がある程度そろってきたといえる。共和党の牙城であるテキサス州で民主党が勝利するには、民主党支持層だけでなく、中道層や一部の共和党支持層にも訴える必要がある。その点で、宗教や価値観を重視し、分断を和らげるメッセージを前面に出すタラリコが予備選で勝利したことは、民主党にとって有利な材料である。

投票率は、民主党内での選挙への関心の高さを示している。予備選に参加した約450万人の有権者のうち、約230万人が民主党予備選に投票した。これは、大統領選を含めても、民主党予備選の投票者数としては過去最多である。また、民主党予備選の投票数が共和党予備選を上回るのは、2002年以来だ。

もっとも、本選挙の見通しは誰が共和党の予備選を勝ち抜くかで大きく変わる。もしコーニンが決選投票で勝利した場合、現職としての強みと比較的穏健なイメージを背景に、本選挙は共和党に有利な展開になるだろう。一方、パクストンが決選投票で勝利した場合、長年の政治スキャンダルが重荷となり、競争力のあるタラリコに敗れる可能性はかなり高まる。

日本企業にとって、この選挙の意味は?

テキサス州の連邦上院選は中間選挙後のトランプ政権の運営を大きく左右しうる選挙として、日本企業としても決選投票と本選挙の双方が注目に値する。

もし民主党が1988年以来の勝利を収めることができれば、それは中間選挙で民主党が圧勝していることを意味する可能性が高い。その場合、現在共和党が僅差で過半数を維持している連邦下院は、民主党が奪還することがほぼ確実となる。また、民主党が過半数を獲得するのは難しいと考えられている連邦上院でも、テキサス州で共和党の牙城を崩せれば、オハイオ州やアイオワ州など、あともう1つの州を拾うだけで過半数を確保できる構図が生まれる。

今年の11月、共和党が連邦上院でも多数派を失うようなことがあれば、次の大統領選に出馬できないトランプ大統領は一気に求心力を失い、政権は完全にレームダック化するだろう。2期目のトランプは強い発言力を維持してきたため、多くの日本企業のアメリカ対応も、トランプ政権の政策を前提に組み立てられてきたとみられる。ただ、中間選挙の結果次第では、日本企業もトランプ後を見据えた戦略へ徐々に軸足を移す必要が出てくるかもしれない。

0
0

コメントを残す