ジョウ・バイデン前大統領とドナルド・トランプ大統領が多数の有罪判決者に対して恩赦を与えたことが物議を醸している。ここでは、バイデンおよびトランプが誰に対して恩赦を与え、それがどのように評価されているかについて解説していく。
そもそも、大統領の恩赦権限とはどういうものなの?
こちらで解説している通り、大統領はアメリカ連邦憲法に基づき、連邦法に基づく犯罪に関する刑罰について許したり減刑する権限を有している。恩赦を与えることで、有罪判決が無効になったり量刑が減刑される。恩赦された人は、有罪判決の記録は残るものの、公民権が復活し、懲役刑の場合は釈放される。
恩赦には閣僚の承諾等が必要なく、裁判所にも審査されないので、恩赦権限は大統領個人の絶対権限と言える。
バイデンは誰を恩赦したの?
バイデン前大統領が恩赦した人数は記録的で、次の人たちが含まれている。
- バイデンの息子ハンター(Hunter)を恩赦
- 死刑囚40人のうち37人について死刑から無期懲役に減刑
- 新型コロナ中に自宅監禁となった個人約1,500人について量刑を減刑
- 暴力的でない薬物犯罪者約2,500人について量刑を減刑
- 大麻関係の罪で有罪判決を受けていた数千人について包括的に恩赦
さらに、起訴されておらず犯罪の疑惑もない次の人たちも恩赦された。
- バイデンの兄弟姉妹および彼等の配偶者
- 2021年1月6日の国会襲撃事件でトランプの関与を調査した連邦議員
- マーク・ミリー前統合参謀本部議長(Mark Milley)
- 新型コロナ対策を指揮したアンソニー・ファウチ(Dr. Anthony Fauci)
バイデンによる恩赦はどのように見られているの?
バイデン前大統領は(包括的に恩赦された人たちを含むと)過去最多である8,000人も恩赦しているが、評価は誰が恩赦されたかによって異なる。
(1)息子ハンターの恩赦
ハンターは銃の購入や所持をめぐって有罪評決を受け、所得税を故意に支払わなかったことについても罪を認めていたが、バイデン前大統領はハンターが政治的な標的となり裁判も公平ではなかったとし、2014年から2024年の間にハンターが犯したまたは犯したかもしれないすべての犯罪について恩赦を与えた。
バイデンは昨年の大統領選出馬中ずっとハンターを恩赦しないと述べていたため、これは約束反故と見做されている。そもそも、ハンターはバイデン政権の下の司法省によって起訴されていたので、ハンターが政治的な標的であったという説明は説得力に欠けているというのが一般的な見解だ。
(2)死刑囚の減刑
カソリック教信者であるバイデンは個人的に死刑制度に反対であり、バイデンが所属している民主党も死刑制度に否定的であることから、死刑囚の無期懲役への減刑は党内や党支持者の間で好意的に受け止められたが、大量殺人者3人を対象外としたことには整合性が欠けているという声がある。
(3)大麻を含む薬物犯罪者の減刑・恩赦
アメリカでは90年代に薬物犯罪に対する強化策として量刑が重くされたが、近年はそれが行き過ぎたと考えられるようになり、法律が改正され量刑が軽くなった。さらに、大麻が多くの州で合法化されたことから、大麻の利用についてアメリカ社会はより寛大的になった。
したがって、現在の法律の下で裁かれていれば量刑がずっと軽かった薬物犯罪者に対する減刑・恩赦は共和党の間でも一定の支持がある。もっとも、連邦議会が過去に、減刑する法律を成立させなかった経緯があるため、法律で実現できなかったことを大統領の独断で行ったことへの批判もある。
(4)先んじた恩赦
バイデンは、トランプによる報復の恐れがあるとして自分の兄弟や連邦議員を恩赦したが、「犯罪の疑惑さえない人たちの恩赦」は前代未聞で、大統領の恩赦権限が「なんでもあり」になることが懸念されている。
トランプは誰を恩赦したの?
2020年大統領選におけるバイデン大統領の勝利を承認しようとしていた連邦議会を襲撃したとして約1,500人が有罪判決を受けていたが、トランプ大統領は2期目に就任した初日、彼らについて罪を恩赦するか量刑を減刑し、全員釈放した。中には、襲撃の首謀者として懲役22年の刑を受けていた受刑者も含まれていた。
トランプによる恩赦はどのように見られているの?
トランプは昨年の大統領選の最中から、連邦議会を襲撃した受刑者を恩赦すると明言していた。したがって、トランプは公約どおり行動しているだけで、約束を反故したバイデンとは事情が異なるとする声がある。だが、恩赦の対象者の中には極めて暴力的だった受刑者も含まれているため、トランプ支持者の間でさえトランプの恩赦は広く支持されているとは言えない。
バイデンとトランプによる恩赦は今後どのような影響を及ぼしそうなの?
もともと絶対権限に近かった恩赦権限だが、バイデンとトランプが歴史的な人数を恩赦したことで、今後の大統領が権限を行使することに躊躇しなくなり、権限濫用の懸念がさらに高まったと見られている。