2024年大統領選で注目される州②〜ハリス副大統領の2つの勝利への道とは?〜

2024年大統領選で注目される州②〜ハリス副大統領の2つの勝利への道とは?〜

ジョウ・バイデン大統領が撤退し、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領指名候補に代わったことで、2024年11月に実施される大統領選の構図が大きく変わった。ここでは、リセットされた大統領選の見どころをハリス副大統領の2つの勝利への道に焦点を置きながら解説していく。

大統領選の仕組みのおさらい

アメリカの大統領選で勝利するためには、各州とワシントン首都(Washington, D.C.)に割り当てられている「選挙人」の過半数を獲得する必要がある。選挙人は合計538人いるので、270人以上獲得した候補者が次期大統領となる。

なお、両候補者とも269人の選挙人を獲得した場合、次の大統領は連邦下院が決めることになるが、その採決は各議員1票ではなく各州1票で行われることに注意が必要だ。

前回2020年大統領選の振り返り

前回2020年の大統領選では、民主党のジョウ・バイデンが共和党のドナルド・トランプを選挙人306対232で破った。

バイデンが勝利した州(青色)とトランプが勝利した州(赤色)を地図で示すと次の通りとなる。メイン州(Maine)とネブラスカ州(Nebraska)は選挙人を連邦下院議員選挙区ごとに割り当てており、ネブラスカ州ではトランプが4人とバイデンが1人、メイン州ではバイデンが3人とトランプが1人の選挙人を獲得したためピンク色とした。

2020年に人口調査が実施されたことに伴い、13の州で選挙人の割当が次の通り見直されている。結果、今回ハリスがバイデンが勝利したのと同じ州で勝利しても、選挙人の差は303対235に縮まる。

2024年の大統領選における「激戦州」とその他注目されている州とはどこ?

民主党の候補がハリスに代わっても大統領選の行方を決める「激戦州」は大きく変わらず、前回の大統領選で最も差が小さかった次の7つの州が今回も「激戦州」となる。

  1. ジョージア州(Georgia) 0.23% (約1万票差でバイデン勝利)
  2. アリゾナ州(Arizona)0.31% (約1万票差でバイデン勝利)
  3. ウィスコンシン州(Wisconsin) 0.63% (約2万票差でバイデン勝利)
  4. ペンシルベニア州(Pennsylvania) 1.16% (約8万票差でバイデン勝利)
  5. ノースカロライナ州(North Carolina) 1.35% (約7万票差でトランプ勝利)
  6. ネバダ州(Nevada) 2.39% (約3万票差でバイデン勝利)
  7. ミシガン州(Michigan) 2.78% (約15万票差でバイデン勝利)

加えて、次の6つ州も注目されている。これら州が注目される背景はこちらを参照されたい

  1. フロリダ州(Florida)
  2. テキサス州(Texas)
  3. ミネソタ州(Minnesota)
  4. ニューハンプシャー州(New Hampshire)
  5. オハイオ州(Ohio)
  6. アイオワ州(Iowa)

「激戦州」(水色)と「注目の州」(オレンジ色)を地図で示すと、次の通りとなる。(数字は今年の大統領選で割り当てられている選挙人の数)

ハリスの勝利への道は?

以前解説した通り、バイデン大統領の再選への道は厳しく、基本的には、いわゆるラストベルト(Rust Belt)で勝利することが最も現実的な再選への道であった。だが、ハリスにはサンベルト(Sun Belt)経由の道も開かれている。

ラストベルト経由の道とは?

ラストベルトとは、過去に鉄鋼の製造で栄えていた地域を指し、激戦州の中では、中西部のウィスコンシン州とミシガン州、そして東北にあるペンシルベニア州が所在する。

民主党にとってラストベルト経由の道が勝利への鍵なのは、他の4つの激戦州のうち、ノースカロライナ州、ジョージア州およびアリゾナ州は共和党寄りで、実際、2016年の大統領選では3つともトランプが勝利していたからだ。加えてネバダ州では世論調査でバイデンがトランプにリードを許していたことから、現実問題として、バイデンにはラストベルト以外の再選への道がなかったと考えられていた。

バイデンに残されていた勝利への道はハリスにとっても有力だが、1つハリス特有の懸念事項があるとすると、それは彼女の政治的思想だ。バイデンよりリベラルなハリスは、決してリベラルとは言えない投票者が多いラストベルトで苦戦する可能性がある

もしラストベルトのウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州で全勝できれば、ハリスは他4つの激戦州すべてを落としても、選挙人270対268でギリギリ当選できる。

「ラストベルト経由の道」を全国図で示すと次のようになる。

(青色がハリスが勝利する州、赤色がトランプが勝利する州。ピンク色のメイン州とネブラスカ州は、2020年と同様に連邦下院議員選挙区レベルでハリスとバイデンに割り当てられるものとする)

サンベルト経由の道とは?

サンベルトとは、アメリカの南部西南部を合わせた地域を指しており、激戦州の中ではノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州が所在する。

サンベルトは、近年アメリカで最も人口が増えている地域である。特に都市部で民主党の支持基盤であるヒスパニック系や黒人といった人種的マイノリティーの人口が急増しており、このことが従来は共和党の牙城だったジョージア州アリゾナ州で民主党が食い込む理由になっている。

支持率が低迷しているバイデン大統領は人種的マイノリティーの間で支持を著しく下げていたため、サンベルトで全敗しかねないと考えられていた。だが、ハリスは黒人とインド人のルーツを持つため人種的マイノリティーから支持を集めることが期待され、サンベルト経由の道が開かれるようになった。

サンベルトのノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州で全勝できれば、ハリスはラストベルトにある3つの激戦州すべてを落としても、選挙人275対263で当選できる。

「サンベルト経由の道」を全国図で示すと次のようになる。

(青色がハリスが勝利する州、赤色がトランプが勝利する州。ピンク色のメイン州とネブラスカ州は、2020年と同様に連邦下院議員選挙区レベルでハリスとバイデンに割り当てられるものとする)

サンベルトとラストベルトのコンビの道は?

ハリスはラストベルトのみ又はサンベルトのみの激戦州で勝利すれば当選できるが、より現実的なのは双方のコンビだろう。

たとえば、サンベルトでアリゾナ州とネバダ州で勝利すれば、最も共和党寄りのノースカロライナ州(選挙人16人)とジョージア州(同16人)で負けても、ラストベルトでペンシルベニア州(同19人)に加えてミシガン州(同15人)かウィスコンシン州(同10人)で勝利すれば当選する。

または、ラストベルトでミシガン州とウィスコンシン州で勝利すれば、大票田のペンシルベニア州(同19人)で負けても、サンベルトでジョージア州(同16人)に加えてアリゾナ州(同11人)かネバダ州(同6人)で勝利すれば当選する。

このように、ハリスにはサンベルト経由の道があることで、バイデンより勝利への道が広がった。

(激戦州の色々なシナリオは、このリンク先で自分で試すことができる)

選挙人の数が両候補者同数になる可能性はあるの?

可能性は低いが、たとえば「ラストベルト経由の道」の場合にあり得る。

上述した通り、ラストベルト経由の道だと、ハリスは必要な選挙人270をちょうど獲得して当選することになるが、このシナリオには1つニュアンスがあり、それが選挙人を下院選挙区ごとに割り当てるネブラスカ州である。

ネブラスカ州の首都であるオマハ市が所在する第2選挙区は、2020年の大統領選でバイデンが6.50%の差(約2万票)で勝ち、2016年の大統領選ではトランプが2.24%の差 (約7千票)で勝った。もしトランプが今回の選挙でこの選挙区を奪い返すと、両候補者とも獲得する選挙人が269人になる。

こうなると、次期大統領は連邦下院が(各議員1票ではなく)各州1票による採決で決める。大統領選と同時に実施される連邦下院選挙において民主党が過半数を獲得できても、50州のうち半数以上で共和党所属の下院議員が過半数を占めることがほぼ確実であるため、州単位での採決ではトランプが極めて有利である。

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