トランプとハリスの討論会が9月10日(現地時間)に開催された。ここでは、なぜハリスが討論会で”勝利”したと思われているのか、実際はどうだったのか、そして大統領選への影響について解説していく。なお、討論会の背景についてはこちらを参照されたい。
簡潔に言うと、ハリスとトランプの討論会での出来はどうだったの?
ハリスはトランプの多々なる問題発言を容赦なく追求し、自分自身の失言やワードサラダを避けた。トランプは本題となんら関係ない話が目立ち、(いつもながら)事実と異なる発言を頻発させては、2人の司会者から何度も「事実と異なる」と指摘された。
ハリスは大統領らしさを感じさせ、トランプは怒り狂った印象だったので、評論家の間や下馬評ではハリスが”勝利”したと考えられている。
どういうところがトランプの”敗北”を感じさせたの?
ハリスは明らかにトランプをいら立たせる意図があり、トランプは度々それに乗せられた。
たとえば、ハリスはトランプが自分の集会の規模に関して異常な執着があることを知っているので、移民政策に関する質問に対する回答の中で、トランプの集会に来る支援者はあまりに退屈で早めに引き上げていると、明らかにトランプを挑発する発言をした。
それに対しトランプは過剰反応し、自分の集会は史上最大規模だと主張した上で、やっと移民政策の話を始めるとオハイオ州スピリングフィールド市ではハイチからの移民が住民のペットを食べているとSNSで出回っている噂を繰り返し、最後にまた集会の話に戻った。
さらに、ハリスは度々トランプの過去の言動に言及しては自分が「変化をもたらす候補」だと主張していたが、現職副大統領が「変化をもたらす」と主張することの矛盾をトランプが指摘したのは討論会の最後だった。
視聴者、特に激戦州の有権者は討論会をどう受け止めたの?
討論会の視聴者数は6710万人であり、6月のバイデンとトランプの討論会より1600万人ほど多く、2020年の大統領選の1回目の討論会より600万人少なかった。(いずれの数字にもストリーミング等は含まれておらず)
今回の討論会について専門家はもっぱら「ハリスの勝利」と評論しているが、討論会を”敗北”した候補が選挙で当選するのは度々起こっている。実際、2016年の大統領選ではヒラリー・クリントンがトランプとの3回の討論会で全勝したと見られたが、選挙では負けている。
今回の大統領選は、7つの激戦州におけるまだ投票先を決めてない数少ない有権者が行方を決める。トランプが初めて出馬表明してから9年が経つ今、これら有権者はトランプがどのような人物か十分知っている中、まだ投票先を決めかねているのだ。
ハリスにとっての課題は、通常の大統領候補のように予備選を勝ち抜く必要がないまま、バイデンの撤退により突如大統領候補になれてしまったことで、アメリカ人の多くが彼女のことをよく知らないことである。彼女に必要だったのは、自身の政策を明確にし、2020年の大統領選出馬していた時の政策との矛盾を説明し、自分についてより深く知ってもらうことだったはずだ。
ハリスは討論会で、口止め料事件におけるトランプに対する有罪評決や2021年1月6日の議会襲撃事件におけるトランプの役割といったトランプの過去の言動を追求する姿勢を貫いたが、今更トランプの数々の問題言動に焦点を置き自分自身については詳細を語らないことで、果たして浮動票を影響することができたのか疑問が残る。
実際、トランプは大半の時間を移民に関する話で費やしており、(内容の事実性に疑義があったとしても)これは投票先を決めてない有権者にはウケが良かった可能性がある。
なぜ司会者の進行が話題になっているの?
今回の討論会では、2人の司会者がトランプの発言を訂正するという極めて異例なことが何度も起こった。
司会者が候補者の発言の事実確認を行うことは禁忌であるとされている。理由は、司会者の役割は議論を促すことであり、事実確認の役割は相手の候補が担うべきであると考えられているからである。実際、この討論会では、トランプの発言を訂正しようとした司会者とそれに反発したトランプが何回か言い合いになった。
一部の評論家の間では、このことが物議を醸している。この討論会を主催した民間放送テレビ局ABCの親会社はディズニーであり、ディズニーのニュース部門を担当している役員は、後にハリスの夫となったダグ・エムホフ(Doug Emhoff)をハリスに紹介しているほどハリス夫婦と仲がいい。
ディズニーはこの役員がABCの運営に関与することはなく利益相反はないと主張しているが、司会者による訂正がハリスに対しては行われなかったこともあり、外見は良くない。
少なくとも、このことはトランプが「討論会で負けたのは3対1の戦いだったからだ」と言い訳できる材料になりそうだ。
で、結局、この討論会は大統領選にどのような影響がありそうなの?
ハリスが討論会で”勝利した”と解説している評論家の間でも、選挙の決め手となる瞬間はなかったという見方が一般的である。
討論会の前の世論調査では、ハリスの勢いが頭打ちになりつつあった。この先1〜2週間の世論調査でハリスの数字が伸びないと、討論会は大きな影響を及ぼさず、大統領選は11月の投票日に混戦状態のまま突入する可能性が高い。
2回目の討論会はないの?
討論会の直後、ハリスは2回目の討論会を提案したが、トランプは応じないと発表した。今後、トランプの数字が著しく落ち込み、トランプが状況の打破のために討論会を希望しない限り、2回目の討論会が実現する可能性は低い。
ちなみに、これまではトランプが他にも討論会を実施することを提案しハリスが応じてこなかったため、姿勢が逆転している。これは、ハリスが1回目の討論会での自分の出来に満足し、トランプが自分の出来が悪かったことを把握しているからだろう。
なお、副大統領候補の討論会は現地時間の10月1日(火)に民間放送テレビ局CBSの主催で予定されている。