ジョウ・バイデン大統領が大統領選から撤退し、バイデンから後継指名を受けたカマラ・ハリス副大統領は、早々と民主党内の支持を固めて来月正式に党の大統領候補に指名されることが確実となった。注目は副大統領候補の指名に移っているので、ここでは誰が民主党の副大統領指名候補になりそうかについて解説していく。
副大統領候補はどのように指名されるの?
通常は、予備選を勝ち抜いた大統領指名候補が自ら希望する副大統領候補を指定し、当該候補が党大会での承認を経た後、本選挙における党の正式な副大統領指名候補となる。今回の民主党は予備選を勝ち抜いたバイデンが撤退するという異常な状態になったが、ハリスは大統領指名候補を投票で決める党大会代表者の過半数の支持を得たので、実質、予備選を勝ち抜いたバイデンと同じ立場になっている。
20世紀前半までは、大統領指名候補の意向にかかわらず、党員が党大会で副大統領候補を指名していたが、1960年以降は、大統領候補の意向を尊重する方法が定着している。
副大統領候補はいつ指名されるの?
副大統領候補は党大会で党大会代表者により正式に指名される必要があるため、通常、党大会開催日の数日前(早くても1〜2週間前)に、大統領指名候補が副大統領候補を発表する。
今年の民主党大会は8月19日(月)に開催されるが、民主党は8月7日までにリモートで党大会代表者による投票を行い、党大会前に大統領候補を指名すると発表した。ハリスはそれまでに副大統領候補を指名することになるが、それを待たず早急に指名するだろうと思われている。
副大統領候補はどのような基準で選ばれるの?
大統領指名候補の裁量ではあるが、通常は以下のような要素が考慮される。
- 党内緩和のため、大統領指名候補が予備選で争った相手を選ぶ(2004年の民主党)
- 経験が浅い大統領指名候補が、経験豊富の候補を選ぶ(2008年の民主党、2000年の共和党)
- 苦戦している大統領指名候補が、話題性のある候補を選ぶ(2008年の共和党)
- 大統領選での勝利の可能性を高めるため、「激戦州」の現職知事または連邦上院議員を選ぶ(2004年の民主党)
- 支持を広げたい大統領指名候補が、自分とは支持層が異なる候補を選ぶ(2016年の共和党)
なお、憲法上、実質的には、大統領指名候補と副大統領指名候補は異なる州に居住している必要があるため、副大統領候補と大統領候補が同じ州に居住している場合、どちらかが11月の本選挙前に違う州に引っ越す必要がある。
副大統領候補は大統領選にどのような影響を及ぼすの?
大きく注目される割には、副大統領候補が大統領選に影響を及ぼした例は乏しい。
1988年に共和党の副大統領指名候補になったダン・クエール(Dan Quayle)は多くの失言により物議を醸したが、ジョージ・H・W・ブッシュ(George H.W. Bush)の勝利を妨げるものではなかった。
2004年に民主党の副大統領指名候補になったジョン・エドワーズ(John Edwards)連邦上院議員は共和党寄りのノースカロライナ州で民主党の勝利をもたらすことが期待されたが、ジョン・ケリー(John Kerry)は同州で完敗した。
2008年に共和党の副大統領指名候補になったサラ・ペイリン(Sarah Palin)は大統領選が進むに連れて経験不足が露呈したが、ジョン・マケイン(John McCain)の敗因は共和党に対する根強い不人気の煽りを受けたことだった。
誰が最有力候補として名前が挙がっているの?
次の3人が身体検査のための質問状を受け取ったと報道されており、最有力候補である。
- マーク・ケリー(Mark Kelly)現アリゾナ州選出連邦上院議員〜2期目の上院議員で元宇宙飛行士。妻は銃撃事件により重体となった同州選出の元連邦下院議員。民主党にとって勝利したい激戦州で2回当選できていることがメリット。ただ、ケリーが副大統領に就任した場合、後任を選ぶ補選で民主党が議席が維持できないかもしれないことが懸念されている
- ジョシュ・シャピロ(Josh Shapiro)現ペンシルベニア州知事〜2022年に当選したばかりだが、民主党にとって勝利必須の激戦州で高い支持率を誇る。極めて経験が浅いことがデメリット
- ロイ・クーパー(Roy Cooper)現ノースカロライナ州知事〜ハリスの20年近い友人であり、同じ時期に州司法長官を務めていたことで2人は親睦を深めた。一応は激戦州であるノースカロライナ州で2回当選できていることが魅力的だが、クーパーに果たして共和党寄りの同州で勝利をもたらせる効果があるかは微妙
上記に加えて、3人はいずれも白人の男性として人種的マイノリティーの女性であるハリスにバランス感をもたらすメリットがある。
その他の有力候補は?
次の3人も有力候補として報道されている。
- J・B・プリツカー(J.B. Pritzker)現イリノイ州知事〜2期目の知事として経験豊富であり、グローバルホテルブランドであるハイアットを保有しているプリッカー家の一員。リベラル派として知られるが、民主党牙城のイリノイ州は激戦州でないため、選挙戦略としてのメリットが乏しい
- アンディ・ベシア(Andy Beshear)現ケンタッキー州知事〜2期目の知事で、46歳と若いことがメリット。共和党牙城の州で2回当選していることから思想は中道的であることが民主党内のリベラル派の間で評価されなさそう
- ピート・ブティジェッジ(Pete Buttigieg)現連邦運輸長官〜元インディアナ州サウスベンド市長を2期務めた後に2020年の大統領選に出馬していたが、大した結果を出せずに撤退。選ばれれば、正・副大統領候補として初の同性愛者となる
噂されていたけど候補から外れた人は?
ミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマー(Gretchen Whitmer)およびメリーランド州知事のウェス・モア(Wes Moore)はいずれも本人の希望で候補から外れた。
特にホイットマーは、民主党にとって勝利必須の激戦州の知事であり、選ばれたら正・副大統領候補双方が女性となり注目されたことから、候補から外れたことは意外だった。
で、誰が選ばれそうなの?
マーク・ケリーは多くのメリットがありデメリットも彼個人の問題ではないことから、最も可能性が高そうだ。また、ハリスは副大統領として不法移民対策の担当を担っていたが、大きな成果を残せなかったことで批判されているが、ケリーはメキシコ国境に接しているアリゾナ州選出の議員として、ハリスの弱点を補うことが期待される。