トランプ政権による不法移民取締りはどこまで許されるのか~令状なき身柄拘束や知事・市長の捜査の行方~

トランプ政権による不法移民取締りはどこまで許されるのか~令状なき身柄拘束や知事・市長の捜査の行方~

ミネソタ州(Minnesota)のミネアポリス市(Minneapolis)とセントポール市(Saint Paul)では、トランプ政権の連邦移民税関捜査局(Immigration and Customs Enforcement、通称ICE)による不法移民の取締りが、多数の身柄拘束および2人の死亡につながっている。ここでは、ICEが令状なしに人物を拘束・逮捕できる法的根拠を解説し、民間団体や州・市が起こした訴訟がICEの活動を抑制できる可能性は低く、知事や市長が起訴される可能性があることや、日本人や日本企業の留意点について解説していく。

ミネアポリス市で何が起こっているの?

トランプ政権は12月上旬に「オペレーション・メトロ・サージ(Operation Metro Surge)」を発表し、ミネソタ州の最大都市ミネアポリス市と隣接するセントポール市に2000人のICE捜査官を派遣し、不法移民を取り締まると発表した。

1月時点で、3000人のICE捜査官が派遣されており、アメリカ市民を含め2500人以上が逮捕・拘束されている。また、裁判所が発付した令状がないまま住居内に強制侵入され、ICEに逮捕された人もいる。

2026年1月7日(現地時間)、レネ・グッド(Renée Good)がICE捜査官に射殺され、2026年1月24日(現地時間)、アレックス・プレッティ(Alex Pretti)が射殺された。グッド射殺後に市内で抗議活動が広がると、ICEは抗議者の身柄拘束を行うようになった。

ICE捜査官による身柄拘束は合法なの?

アメリカ連邦政府の職員であるICE捜査官には、連邦法である移民国籍法(Immigration and Nationality Act)を執行する権限があり、その権限の中には、不法移民と疑われる人物を逮捕するだけでなく、目前で連邦法を侵害した人物を逮捕する権限も含まれている。この権限を行使するには令状は必要なく、公共空間や公の場で行使されることが想定されている。よって、抗議者の行為によっては、ICE捜査官は抗議者を逮捕する権限がある。

また、ICE捜査官は行政令状(administrative warrant)に基づいて、強制送還するかの判断がなされるまで人を拘束する権限を有する。行政令状とは、裁判所ではなく行政が発行する令状である。行政が行政向けに発する令状に独立性は担保されていないので、行政令状は裁判所の令状より審査基準が遥かに緩い。

アメリカ連邦憲法修正第4条は「不合理な捜索・差押えを禁じる」と規定していることから、ICE捜査官が住宅に踏み込むためには、裁判官が発行した令状が必要であると従来は考えられていた。

ところが、ICEを管轄している連邦国土安全保障省(United States Department of Homeland Security)は2025年5月、強制送還の命令の対象となっている人物を逮捕するためなのであれば、行政令状に基づいて住宅に侵入できるというメモを内部的に発行した。このメモの存在は最近になって明るみに出ており、ICE内でも一部の捜査官にしか提示されていない模様である

裁判所はこのメモ自体の合憲性について判断していないが、2026年1月15日(現地時間)、連邦第一審裁判所は、裁判所の令状がないままICEに拘束された人物の釈放を命じた

ICEの活動が訴訟によって抑制される可能性は?

ICEの活動を制約しようとする訴訟が複数起こされているが、移民法の執行はアメリカ連邦政府の中核的な権限であることから、司法的にICEの活動が制約される可能性は低い。

まず、全米市民自由連合(American Civil Liberties Union、通称ACLU)が、抗議者や観察者の人権が侵害されていると主張する訴訟を起こしている。

この訴訟においては、連邦第一審裁判所が1月16日(現地時間)、平和的・非暴力的な抗議者や合法的に現場を観察している市民に対するペッパースプレーの使用や逮捕を禁止する差止命令を出した。だが、連邦控訴裁判所は1月21日(現地時間)、トランプ政権による緊急控訴(emergency appeal)を受け、この差止命令の効力を停止した。

全米市民自由連合による訴訟とは別に、ミネソタ州とミネアポリス市・セントポール市が、ICEの大規模活動は州の主権を保護するアメリカ連邦憲法修正第10条を侵害していると主張する訴訟を起こしている。

ICE捜査官が移民法を執行する権限を幅広く有していることは憲法上も法律上も明確であるため、どちらの訴訟においてもトランプ政権が有利であると考えられる。たとえ原告側が”勝利”できたとしても、ICEの過激な活動を制約することに留まるだろう。

ミネソタ州の知事とミネアポリス市・セントポール市の市長が起訴される可能性は?

連邦司法省(United States Department of Justice)は、ミネソタ州とミネアポリス市・セントポール市が連邦移民法執行を妨害していないかを調査している。

この捜査に関連して、連邦司法省は1月下旬、ミネソタ州知事、州司法長官、ミネアポリス市長、セントポール市長らに対し、文書提出を求める召喚状(subpoena)を発付した。召喚状の対象は、ミネソタ州における移民執行に関連する方針の文書、そうした方針についての他の州機関とのやり取り、そしてICE捜査官の監視等に関連する文書等。なお、ミネソタ州知事は、2024年の大統領選で民主党の副大統領候補だったティム・ワルツ(Tim Walz)である。

当初、連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)はグッド氏の射殺についてICE捜査官の行為が違法でなかったかを捜査していたが、トランプ政権の指示で捜査対象が知事と市長に移ると、グッド事件の捜査に関与していたFBI捜査官の一人が辞任した。他にも、グッド氏を巡った調査について懸念を持った検察官も6人辞任していることから、連邦政府内では、特にキャリア職と政治任用のポストの間で捜査の方向性を巡った対立があると考えられる。

ミネソタ州知事やミネアポリス市・セントポール市の市長らが最終的に起訴されるかについては、現時点では十分に見通すことは難しい。

連邦制のアメリカでは州にも主権があるため、連邦憲法上、連邦政府は州に連邦法を執行させることを強制できない。よって、州や市が連邦政府に協力しなかったという事実だけでは犯罪は成立しない。州や市は連邦政府による連邦法の執行を妨害してはならないが、知事や市長が連邦政府に批判的だったというだけでは妨害にならない。

この捜査は政治的圧力としての性格が強いと見る向きが多い。通常、検察は犯罪が行われた証拠があると判断した時点で起訴に踏み切るが、これまでのトランプ政権は、キャリア職の検事が証拠不十分を理由に反対する中、政治主導でニューヨーク州司法長官レティシア・ジェイムズ(Letitia James)元FBI長官ジェームズ・コミー(James Comey)を起訴してきた。

最終的にジェイムズやコミーの起訴は却下されたものの、たとえ証拠が不十分でも、政治的な理由でワルツ知事やミネアポリス市・セントポール市の市長が起訴される可能性は否定できない。

ミネソタ州で起こっていることについて、日本人や日本企業への影響は?

今回のミネアポリス市におけるICEを巡る混乱は、在米日本人や日本企業に影響を及ぼし得る。

まず、ミネソタ州に住んでいる日本人にとっては、ICEは連邦法違反が疑われる場合に誰でも拘束や逮捕できる権限を有していることを強く意識する必要がある。たとえ就労ビザや永住権を持っていても、抗議活動に参加したり、現場周辺に行くことでICEに拘束されるリスクが高まるので、抗議現場に近づかないのが重要となる。

また、ミネソタ州で事業を展開している日本企業にとっては、ICEと州・市・抗議者の対立によって、現地従業員の不安や通勤・移動時のリスクが増し、人材確保や職場の安定性に影響を及ぼす可能性がある。また、ICEによる行政令状を根拠とする立ち入りや聴取に対し、どこまで応じる義務があるのかという判断は日本的な感覚だけでは対応が難しい。誤った対応が従業員の権利侵害につながりかねないので、ICEからの接触時には即座に弁護士へ連絡することが望ましい。

より一般的には、この事件はアメリカの法的予測可能性に対する評価にも関わる。行政内部メモによる解釈変更や捜査対象の急転換は、トランプ政権の下では法執行が政治の影響を受けやすいことを示唆している。対米投資や米国での事業展開を検討している企業は、「アメリカは依然として安定した法治国家か」という点を改めて評価することが推奨される。

0
0

コメントを残す