現地時間の8月23日(金)、無所属候補として出馬していたロバート・F・ケネディ二世(Robert F. Kennedy, Jr.)が大統領選から撤退しドナルド・トランプ前大統領への支持を表明した。ここでは、なぜケネディが撤退したのかやケネディ撤退の大統領選への影響について解説する。
そもそもケネディってどんな人なの?
ロバート・F・ケネディ二世は、名前が示唆するように、ジョン・F・ケネディ元大統領の弟だったロバート・F・ケネディの次男である。ケネディ一家は民主党の貴族一家と言えるが(共和党側の貴族一家はブッシュ一家と言えるだろう)、ロバートはジョンと同様に暗殺されていることから、特に民主党支持者のアメリカ人は”ロバート・ケネディ”の名前を聞くと懐旧の情に駆られる。
ケネディ二世は政治家の道を選ばなかった。最初は環境保護のために戦う弁護士として名前を売り、最近は反ワクチンの姿勢やコロナに関する複数の陰謀説を唱える著名人として知られるようになった。
なぜケネディは大統領選に出馬したの?
当初、今回の大統領選がバイデン対トランプという大半のアメリカ人が希望していない対決だったことが、ケネディに初出馬を決断させる要因だった。
ケネディは、政策的にはトランプの共和党寄り、知名度的には民主党内で魅力があることから、バイデンにもトランプにも忌避感を感じていたいわゆる「ダブルヘイター(double hater)」への受けが期待された。実際、6月13日時点の世論調査でケネディは全国的に10%の支持があり、共和党と民主党の支持層から支持を得ている傾向が見られた。
なぜケネディは撤退することにしたの?
民主党の候補がバイデンからハリスに代わって以降、支持率が暴落していたからだ。6月に10%あった支持率は直近で5%弱まで半減し、下落が止まる兆しがなかった。
支持が落ちた理由は明確で、ダブルヘイターのうち、もともと民主党の支持者だった人たちがバイデンが撤退したことで民主党(具体的にはハリス)の支持に戻ったのだ。
よって、現在のケネディの支持者はトランプ寄りの人たちが多くなっている。このまま選挙活動を続ければトランプの当選を妨害する可能性が高く、ケネディにとってそれは本意ではなかったようだ。
なぜケネディはトランプへの支持を表明したの?
民主党の貴族、ケネディ一家の一員であるロバート・F・ケネディ二世が共和党のトランプ前大統領を支持することにした背景には、政策的な理由と個人的な理由があったようだ。
政策的に見ると、ケネディの「社会の権力層をぶっ壊す」といったメッセージはトランプに類似しており、陰謀説が多いこともトランプと被る。
個人的な理由としては、ケネディはトランプを支持する見返りとしてトランプ政権での閣僚ポストを約束されたと噂されている。さらに、ケネディ陣営はバイデン・ハリス陣営がスパイを送り込み妨害行為を繰り広げたと信じている模様で、民主党に対する恨みがあった可能性がある。
で、ケネディの撤退は大統領選にどのような影響を及ぼすの?
二大政党制のアメリカでは無所属や第三極の候補は共和党・民主党の妨害をするくらいしか影響力がないが、接戦の選挙ではそのインパクトは大きい。
ケネディの撤退が大統領選に与える影響について、まずはリアル・クリア・ポリティックス(Real Clear Politics)が公表している、今回の大統領選で最も重要な激戦州になると思われるウィスコンシン州(Wisconsin)、ペンシルベニア州(Pennsylvania)、ミシガン州(Michigan)のケネディを含む現状の世論調査の平均を見てみよう。
カマラ・ ハリス | ドナルド・ トランプ | ロバート・ ケネディ | ハリスとトランプの差 | |
ウィスコンシン州 | 46.3% | 44.8% | 5.0% | 1.5%のハリスのリード |
ペンシルベニア州 | 46.3% | 44.3% | 4.4% | 2.0%のハリスのリード |
ミシガン州 | 45.6% | 43.3% | 5.8% | 2.3%のハリスのリード |
許容誤差を考慮しないと、ケネディが得ている支持率はハリスとトランプの差を超えていることから、理論上は、ケネディの票の大半がトランプに流れればリードが逆転する。
もっとも、歴史的に見ると、第三極の得票率は実際の選挙結果において世論調査よりだいぶ低くなる傾向がある。今回も、ケネディの支持者はもともとトランプにも不満だったことを鑑みると、ケネディの撤退でトランプへの投票ではなく投票権放棄の選択をする人が多くなりそうだ。
直近の大統領選の最終結果を見てみると、2020年は3つの激戦州のうち2つでバイデンとトランプ以外の「その他」の票がバイデンとトランプの差を上回っていた。
ジョウ・ バイデン | ドナルド・ トランプ | その他 | 最終結果 | |
ウィスコンシン州 | 49.45% | 48.82% | 1.73% | 0.63%のバイデンの勝利 |
ペンシルベニア州 | 49.85% | 48.69% | 1.46% | 1.16%のバイデンの勝利 |
ミシガン州 | 50.62% | 47.84% | 1.54% | 2.78%のバイデンの勝利 |
2016年はクリントンとトランプの差がもっと小さかった上に「その他」の比率がずっと高かったため、すべての州において「その他」の票がクリントンとトランプの差を大きく上回っていた。この選挙では「その他」の票が選挙の結果を左右した可能性が極めて高い。
ヒラリー・ クリント | ドナルド・ トランプ | その他 | 最終結果 | |
ウィスコンシン州 | 46.45% | 47.22% | 6.33% | 0.77%のトランプの勝利 |
ペンシルベニア州 | 47.46% | 48.18% | 4.36% | 0.72%のトランプの勝利 |
ミシガン州 | 47.27% | 47.50% | 5.23% | 0.23%のトランプの勝利 |
2016年の結果で注目に値するのは、3州ともトランプが勝利したものの、得票率は50%に達しなかったことだ。実は2016年と2020年のトランプの得票率は大きく変わっていない。だが、2016年は「その他」の票が比較的多かったことで勝利ラインが下がりトランプが勝利したものの、2020年は「その他」の票が大幅に減って勝利ラインが上がったため同等の得票率でもトランプは敗北した。
2024年も同じ現象が起こるとなると、ケネディの撤退は「その他」の票を減らすので、トランプに不利に働くことになる。