今年の大統領選で激戦州になっているミシガン州。ここでは、なぜ(オバマとトランプが勝利した)「転換郡」と都市部が同州の中で注目されるかについて、2020年と2016年の大統領選のデータをベースに解説して行く。なお、同じく激戦州のウィスコンシン州の分析はこちらを参照されたい。また、ペンシルベニアは後日解説する。
直近の大統領選ではどちらの党がミシガン州で勝利してるの?
2020年は民主党のジョウ・バイデンが15.4万票の差で、2016年は共和党のドナルド・トランプが1.1万票の差で勝利している。それ以前は、バラク・オバマを含めた民主党候補が1992年以降6連勝していた。このため、この州は民主党寄りとみられており、2016年のトランプの勝利は驚きだった。
ミシガン州ではどの地域が重要なの?
特に注目されているのは2つあり、1つ目はオバマが2008年と2012年に2回勝利し、トランプが2016年に勝利した郡(county)だ。全国的に3150ある郡の内、転換郡(”pivot counties”)とも呼ばれるこれら郡は206あり、オバマとトランプといったまったく異なるタイプの候補者が勝者になっていることから、2016年のトランプ当選の象徴となった。
2つ目は、2020年にバイデンの勝利の鍵となり、今回はカマラ・ハリスの勝利のカギを握ると思われる都市部だ。民主党にとって大票田であるこの地域で投票率が上がったことが、バイデンがトランプからミシガン州を奪い返すことに大きく貢献した。
転換郡はどこにあり、今回の大統領選ではどの点が注目されるの?
最も重要なのは6つあり、2020年と2016年の選挙の結果は次の通りである。
サギノー郡(Saginaw County)では、オバマが2008年と2012年に2回勝利した後、トランプが2016年に勝利し、2020年にバイデンの勝利に戻っている。振り子のように勝者が変わっていることから、このような郡はブーメラン郡(boomerang counties)と呼ばれており、全国的に25しかない。直近4回の大統領選では、ブーメラン郡で勝利した候補が大統領選で当選しているので、今回も大統領選の行方を予知する郡として注目される。
他の5つの郡では、オバマが2008年と2012年に2回勝利した後、トランプが2016年と2020年に勝利しており、このような群は全国的に181ある。
2016年と2020年を比較すると、ベイ郡(Bay County)、シアワシー郡(Shiawassee County)、カリフーン郡(Calhoun County)ではトランプのリードが概ね同じで、モンロー郡(Monroe County)ではトランプのリードが0.3万票広がっている。これはオバマが勝てていた地域で共和党・トランプ寄りが定着しつつあることを示唆しており、今回の大統領選でもこの傾向が維持されるか注目される。
マコーム郡(Maccomb County)ではトランプのリードが0.8万票ほど縮小している。デトロイト市の郊外にあるこの郡には白人労働者が多く住んでおり、組合員である彼らは従来から民主党の支持基盤である。だが、1980年から1988年の大統領選において、共和党のロナルド・レーガンとその後継者だったジョージ・H・W・ブッシュが一定数の白人労働者の票を集め、レーガンとブッシュに投票した白人労働層は「レーガン・デモクラット(Regan Democrat)」と呼ばれた。トランプの勝利にはレーガン・デモクラットの票が鍵を握っていると言われていることから、今年の大統領選でも、マコーム郡は白人労働層の象徴として注目される。
都市部の群はどこにあり、今回の大統領選ではどの点が注目されるの?
3つあり、2020年と2016年の選挙の結果は次の通りである。
ミシガン州における民主党の大票田はデトロイト市が所在するウェイン郡(Wayne County)およびその周辺にあるオークランド郡(Oakland County)とウォッシュトノー郡(Washtenaw County)である。
2020年と2016年を比較すると、この3つの郡でバイデンがクリントンのリードを大きく広げていることがわかる。
クリントンのリード | バイデンのリード | リードの拡大値 | |
ウェイン郡 | 29.0万 | 33.3万 | 4.3万 |
オークランド郡 | 5.4万 | 10.9万 | 5.5万 |
ウォッシュトノー郡 | 7.8万 | 10.1万 | 2.3万 |
合計 | 42.2万 | 54.3万 | 12.1万 |
2016年の大統領選ではトランプが1.1万票の差でミシガン州で勝利したが、この3つの郡でバイデンは12.1万票も増やしており、同州をバイデンがひっくり返すには十二分だった。
なお、バイデンは15.4万票の差で同州で勝ち、クリントンは1.1万票で負けたので、バイデンは州全体でクリントンより16.5万票増やしている。3つの郡で12.1万票増やしたということは、他の地域でも4.4万票増やしていることを意味するので、ウィスコンシン州と異なり、ミシガン州におけるバイデンの勝利は都市部頼りではなかった。
バイデンのリードの伸びは得票率と投票率双方の向上による総合効果であることに注目されたい。バイデンはこの3つの郡でクリントンの得票率を上回ったが、2020年の投票総数が2016年と同様であったと仮定した場合、バイデンのリードは以下になる。
クリントンのリード | バイデンのリード | リードの拡大値 | |
ウェイン郡 | 29.0万 | 28.5万 | -0.5万 |
オークランド郡 | 5.4万 | 8.9万 | 3.5万 |
ウォッシュトノー郡 | 7.8万 | 8.3万 | 0.5万 |
合計 | 42.2万 | 45.7万 | 3.5万 |
ウェイン郡ではトランプの得票率も上がったため、2020年の投票総数が2016年と同じだったらバイデンのリードはクリントンのより縮小していた。結局、得票率の向上のみだとバイデンは3.5万票しか増やせず、2020年の結果はずっと近くなっていた。
このため、今年の選挙でも、各候補の得票率のみならず投票率も注目される。