二大政党制であるアメリカでは、共和党と民主党の違いを対極的に理解しやすい。ここでは、アメリカの中西部地域での共和党と民主党の違いを解説して行く。なお、東北地域の解説はこちら、南部の解説はこちら、西部の解説はこちらを参照されたい。また、政治的思想に基づく両党の違いの解説はこちらを、投票者の属性に基づく違いの解説はこちらを参照。
「中西部」はどの州により構成されるの?
アメリカの国勢調査局が採用している区分を引用し、「中西部(Midwest)」は以下の州から構成されるものとする。各州の人口のイメージがつきやすくなるよう、下院の議席数を括弧内で記載している。
- ミシガン州(Michigan)(13)
- オハイオ州(Ohio)(15)
- インディアナ州(Indiana)(9)
- ウィスコンシン州(Wisconsin)(8)
- イリノイ州(Illinois)(17)
- ミネソタ州(Minnesota)(8)
- アイオワ州(Iowa)(4)
- ミズーリ州(Missouri)(8)
- ノースダコタ州(North Dakota)(1)
- サウスダコタ州(South Dakota)(1)
- ネブラスカ州(Nebraska)(3)
- カンザス州(Kansas)(4)
上記1~5は合わせて「イースト・ノース・セントラル(East North Central)」、6~12は合わせて「ウエスト・ノース・セントラル(West North Central)」とも表現される。
中西部では共和党・民主党のどちらが強いの?
次のとおり、中西部は他のどの地域よりばらつきが見られる。
- 共和党の牙城(インディアナ州、ミズーリ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ネブラスカ州、カンザス州)
- 民主党の牙城(イリノイ州)
- 共和党寄りの州(オハイオ州、アイオワ州)
- 民主党寄りの州(ミシガン州、ウィスコンシン州、ミネソタ州)
上記を踏まえると共和党の方が強いように見えるが、共和党の牙城は人口が少ない州に集中しているので、中西部全体では共和党と民主党が拮抗していると考えられる。
2016年にトランプがこの地域で健闘して以降、中西部はアメリカの政治で最も注目される地域になった。ミシガン州とウィスコンシン州は大統領選挙の行方の鍵を握っており、オハイオ州とアイオワ州は近年の農村部での共和党の勢いと民主党の弱体化を象徴している。
中西部での一般的な投票者の属性は?
中西部で共和党と民主党が拮抗している理由は、共和党が強い農村部と民主党が強い都市部が混ざっているため。あえていうなら若干共和党寄りだが、それは中西部が東北や西部と比べるとより保守的であるからである。人種的には白人が多い地域であるが、都市部には民主党の支持基盤である黒人が多く住んでいる。
中西部の詳細は次のとおり区分して解説する。
イリノイ州はなぜ民主党の牙城なの?
イリノイ州(Illinois)には、アメリカ全国で3番目に人口が多い大都市であるシカゴ市が所在する。シカゴとその郊外の投票者が州全体の投票者の半分を構成しており、農村部を圧倒している。
都市部では民主党が強いので、イリノイ州は民主党の牙城となっている。
中西部での共和党の牙城はどこにあり、これら州はなぜ共和党の牙城なの?
- インディアナ州(Indiana)
- カンザス州(Kansas)
- ミズーリ州(Missouri)
- ネブラスカ州(Nebraska)
- ノースダコタ州(North Dakota)
- サウスダコタ州(South Dakota)
これら州に都市がないわけではないが、規模としては比較的小さい。投票者の構成比は農村部の方が高いことから、これら州は農村部が支持基盤である共和党の牙城になる。
ちなみに、ミズーリ州は2000年頃まで共和党と民主党が拮抗していた州だが、民主党の農村部での弱体化により、民主党の大票田であるセントルイス市のみでは共和党の農村部の票を相殺できなくなった。
なお、ネブラスカ州は、大統領選において選挙人の獲得者を下院選挙区ごとに決める2つの州の1つである。都市部で強い民主党は、ネブラスカ州の首都があるオマハ市が所在する下院議員の選挙区で大統領選の選挙人を獲得することがたまにある。
過去は拮抗していた州から共和党寄りの州に変わったのはどこで、なぜ変化があったの?
- アイオワ州(Iowa)
- オハイオ州(Ohio)
2000年〜2012年の大統領選ではいずれの州も典型的な激戦州であったと言え、共和党候補(ジョージ・W・ブッシュ)も民主党候補(アル・ゴア、バラク・オバマ)も僅差で勝利できていた。
ところが2020年の大統領選では、トランプは全国的に敗北したのに、アイオワ州とオハイオ州では10ポイントと8ポイントの差で勝利できている。この結果は2016年と概ね同じであり、最近の上院議員の選挙結果を踏まえると、これら2州は共和党寄りになっていると言わざるを得ない。
背景にあるのは、どちらの州も、民主党が強い都市や大学キャンパスがあるものの、共和党の支持基盤である白人が多い農村部が広域であること。2016年の大統領選以降、それまで一定あった民主党の農村部での支持が崩れ、民主党は都市部と大学の票のみでは州全体で持ちこたえられなくなった。
この現象が定着すると、アイオワ州とオハイオ州はミズーリ州のように元激戦州から共和党の牙城に変わる可能性がある。
民主党寄りの州とはどこで、今後はなぜ共和党と拮抗する可能性があるの?
- ミシガン州(Michigan)
- ミネソタ州(Minnesota)
- ウィスコンシン州(Wisconsin)
これら3つの州では1992年〜2012年の大統領選においてすべて民主党候補が勝利を収めていたが、2016年にトランプがミシガン州とウィスコンシン州で勝利し、ミネソタ州で2ポイント差まで追い上げると、状況がガラッと変わった。
どの州でも事情は同じ。農村部で共和党の票が伸びているのだが、アイオワ州やオハイオ州と違って都市部その郊外や大学キャンパスが占める票が多いので、民主党は共和党の農村部での伸びに耐えられている。
例えば、ミシガン州には自動車産業で有名なデトロイト市やミシガン大学があるアナーバー市、ウィスコンシン州にはミルウォーキー市やウィスコンシン大学があるマディソン市、そしてミネソタ州にはミネアポリス市がある。これら街には民主党の支持基盤である黒人が多く住んでいるので、民主党の勝利はこれら街で投票率を上げ、郊外で得票率を上げることにかかっている。
2020年の大統領選では3州とも民主党の勝利に戻ったが、この先も民主党の農村部での弱体化が進むようなことがあると、民主党に逆風が吹く選挙では共和党が勝利を収めるようになっても不思議ではない。