民主党の候補がジョウ・バイデン大統領からカマラ・ハリス副大統領に交代したことで完全にリセットされた大統領選。ここでは、ハリスに交代したからといって民主党が勝てるわけではない理由を解説。反対に、ハリスに交代したからこそ民主党が勝てるようになった理由はこちらで解説している。
ざっくりいうと、ハリスに交代しても民主党が勝てない理由は?
- ハリスの好感度(支持率)は低く、これから上昇する保証もない
- ハリスは不人気なバイデン政権の中枢にいた
- ハリスは思想的に極めてリベラル
- ハリスは4年前に出馬した大統領選で撃沈している
- 現職副大統領が大統領選で勝利できた例は乏しい
低いハリスの好感度(支持率)が上昇しない可能性はどれほどあるの?
ハリスの好感度(支持率)が低いことはよく言われることだが、実はトランプ並みに低いことはあまり知られていない。
前回、ハリスへの交代によって民主党が大統領選で勝てるようになった理由の一つとしてハリスの伸び代を挙げたが、ハリスは現職副大統領であり決して無名ではない。既にアメリカ国民が持っている彼女に対する低評価を変えていくことが、ハリスにとっての今後の大きな使命となる。
そして、この先ハリスの好感度が上昇しなかもしれない理由としては、次のようなものが考えられる。
ハリスが副大統領としてバイデン政権の中枢にいたことは、どこまで問題となり得るの?
バイデン大統領の支持率は40%未満と低迷している。これがバイデン個人の問題(健康と認知能力への懸念)なのか、バイデン政権の問題(インフレや不法移民対策への不満)なのか、定かではない。だが、前者が取り除かれた今、バイデンに対する国民の不満が政権にあるのかこれから明確になっていく。
バイデンの問題が政権運営にある場合、ハリスは知らんぷりができない。いくら副大統領の正式な役割が限定的であるとはいえ、バイデン政権は「バイデン・ハリス政権」である。特にアメリカ国民の関心が高い不法移民対策については、バイデンがハリスに重要な役割を任せたものの、ハリスは大きな成果を出せなかったというのが一般的な評価だ。
バイデンの不人気が政権への不満の表れなのであれば、ハリスもその煽りを受けて人気が高まらない可能性がある。
ハリスのリベラルな思想は選挙にどのような影響を及ぼしそうなの?
ハリスはカリフォルニア州出身。同州の州司法長官に当選した後(同州では州司法長官は公選で選ばれるポスト)、連邦上院議員を経て2020年の大統領選に出馬し、対抗馬だったバイデンから副大統領候補に指名されて副大統領に就任した。
カリフォルニア州は民主党の牙城で、アメリカで最もリベラルな州の1つである。州司法長官時代はさておき、上院議員時代と大統領選に出馬した時のハリスの思想は、バイデンと比較してもだいぶリベラルであった。
現在のトランプ陣営は民主党の候補がバイデンからハリスに代わって目標を失い迷走しているが、いずれは立て直して、ハリスに「カリフォルニア州のリベラル」といったレッテルを貼ろうとするだろう。
その批判が有効だと、激戦州のうち、特に民主党寄りだが思想は決してリベラルではないペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州でハリスの人気が頭打ちする可能性がある。
2020年の大統領選で撃沈したハリスは、二の舞を避けられるか?
ハリスはバイデンが勝利した2020年の大統領選に出馬していたのだが、まったく競争に食い込むことができず、「支持が高まらない、金も集まらない」といった二進も三進も行かない状態に陥り、最初の予備選が実施される前に撤退を強いられた。
4年前に党の指名争いで撃沈したハリスは、今回は本選挙というより大きな舞台に立っている。前回からの学びを十分に活かせないと、今回二の舞を演じることになりかねない。
現職副大統領が大統領選で勝利できた例はどれほどあるの?
意外かもしれないが、副大統領になることは大統領への道とはならない。過去において現職の副大統領が大統領選で当選できたのは4回しかなく、選挙の仕組みが異なっていた2回を除くと、実質、ハリスが試みていることを実現できたのは、1836年に当選したマーティン・ヴァン・ビューレン(Martin Van Buren)と1988年に当選したジョージ・H・W・ブッシュ(George H. W. Bush)だけである。
この2人に共通しているのは、超人気が高かった大統領の下で副大統領を務め、後継者指名を受けたことだ。ヴァン・ビューレンとブッシュの当選は、アンドリュー・ジャクソン大統領(Andrew Jackson)とロナルド・レーガン大統領(Ronald Reagan)の3期目の意味合いが強かった。
この点、ハリスの事情は大きく異なる。そもそもハリスに旗が上がったのは、1期しか務めていないバイデン大統領が不人気過ぎて再選できそうになかったからである。
この状況はヴァン・ビューレンやブッシュというより、1968年にあまりの不人気で予備選中に撤退に追い込まれたリンドン・ジョンソン大統領(Lyndon Johnson)と彼の後継者として出馬し完敗したヒューバート・ハンフリー副大統領(Hubert Humphrey)を思い出させる。