リセットされた大統領選を分析(上)〜ハリスになったからこそ民主党が勝てる理由〜

リセットされた大統領選を分析(上)〜ハリスになったからこそ民主党が勝てる理由〜

民主党の候補がジョウ・バイデン大統領からカマラ・ハリス副大統領に交代したことで完全にリセットされた大統領選。ここでは、ハリスに交代したからこそ民主党が勝てるようになった理由を解説。反対に、ハリスに交代したからといって民主党が勝てるわけではない理由はこちらで解説している。

ざっくりいうと、ハリスに交代したことで民主党が勝てるようになった理由は?

大統領選の焦点が変わることが、なぜ民主党にとっていいの?

特に6月27日の1回目の討論会以降、民主党にとっての最大の課題は大統領選の関心事がもっぱらバイデンの認知能力にあったことだ。その状態が11月の選挙まで続けば、共和党・トランプの勝利の可能性は極めて高かった

だが、バイデンが撤退した事でバイデンの健康問題は完全に大統領選の争点から外れ、民主党(とハリス)はやっと焦点をトランプに移すことができる。トランプに対する好感度(支持率)は常に50%未満で、45%前後が天井。今後、トランプが抱えている多くの問題(「口止め支払い事件」での有罪評決被告人になっているその他3つの刑事事件、差別的発言等)が大統領選の最大の争点となれば、民主党の勝利の可能性が高まる。

バイデンからハリスに代わったことで、民主党支持層の熱はどれほど高まったの?

指名候補が81歳の白人の男性から59歳の複数の人種にルーツを持つ女性に代わったインパクトは、世論調査と献金双方の面で確認できる。

民主党支持者に対して行われた世論調査で「民主党候補の支持は、候補者への支持票か、それともトランプに対する批判票か」と聞いたところ、まだバイデンが候補だった時は「バイデンへの支持票」が37%で「トランプへの批判票」が63%だったところ、候補がハリスに代わると50%/50%に改善した

選挙資金の面では、バイデンが撤退を表明してから24時間以内にハリス陣営や民主党が集めた献金は120億円(8000万ドル)を超えた。ちなみに、撤退表明前のバイデンは7月を通して38億円(2500万ドル)集めるペースだったので、資金調達のペースは相当加速している。

これまでバイデンをしぶしぶ応援していた民主党支持層の士気が高まっていることは間違いない。

「どちらの候補も嫌」現象が収まることが、どうしてハリスにとってプラスに働くの?

今年の大統領選で奇妙だったのは、歴史的に珍しいバイデンとトランプの再対決を望んでいるアメリカ国民が皆無だったにも関わらず、民主党も共和党も予備選を通してこの2人を改めて選んだという矛盾である。

バイデンが撤退するまで、この選挙で注目されていたのは、「トランプは不適切な言動を繰り返すので嫌だ。バイデンも高齢への懸念があるので嫌だ」とどちらの候補にも忌避感を感じていた、いわゆる「ダブルヘイター(double hater)」がどういう投票行動に出るのかだった。

彼らは第三極の政党に一票を入れる又はそもそも投票に行かないことになるのではないかと推測されていたが、民主党の候補がハリスに代わったことで、「ダブルヘイター」の多くが「トランプヘイター」になり、彼らの票がハリスに流れる可能性が高まった。

ハリスの好感度(支持率)には伸び代があるとはどういうこと?

バイデンもトランプも大統領を1期4年務めており、彼らに対する投票者の意見はすでに固まっていた。今更、両者に対して意見を持っていない又は両者に対する意見を変える余地がある投票者は極めて少なかった。

確かにハリスの好感度(支持率)は低い。だが、そもそも副大統領はアメリカ政府の中で最も価値がない職として揶揄されるほど正式な役割や権限がないことから、ハリスは現職副大統領として名前は知られているものの、経歴や実績、そして人柄が浸透しているわけではない。

アメリカ国民は今後、民主党の党大会や選挙の集会を通して彼女のことをもっと知る機会が増え、好印象を与えることでハリスの好感度アップが期待できる。

ハリスはどれほど党大会後の「弾み」を期待できるの?

共和党の党大会に関する解説において説明した通り、一種の祭である党大会が終わると、その党の大統領候補の支持率が高まる傾向がある。

民主党の党大会は来月開催されるので、ハリスはまだこの「弾み」の恩恵を受けていない。弾みの大きさや持続性は候補によるが、ハリスの場合、新鮮さに加えて未知数の要素もあることから、党大会が相当な注目を集め、通常より大きな弾みが期待できそうだ。

トランプ陣営のこれまでの戦略がなんでハリスにとってプラスなの?

トランプはバイデンを「史上最悪の大統領」と批判していたが、トランプ陣営は基本的にバイデンの認知能力に疑問を投げかけることで勢いを維持していた。バイデンが撤退した今となっては、この戦略が一切通じないどころか、同じ批判が史上最高齢の大統領候補となったトランプにブーメランのように戻ってくる可能性がある。

実際、相手が代わってからの共和党は有効なハリス批判ができておらず、迷走気味である。選挙日は11月だが、州によっては期日前投票が9月から始まる。トランプ陣営が迅速に戦略を立て直すことができなければ、ハリスが勢いを維持したまま投票が開始する可能性がある。

1
0

コメントを残す