トランプによる政府支出の凍結と撤回〜背景と今後の見通しは?〜

トランプによる政府支出の凍結と撤回〜背景と今後の見通しは?〜

ドナルド・トランプ大統領は現地時間の2025年1月27日(月)、アメリカ政府による支出を包括的に凍結する大統領令を発行したが、2日後にそれを撤回した。ここでは、この大統領令の曖昧な内容と撤回の背景を説明した上で、命令の微妙な合法性と今後同様の命令が再発行される可能性について解説していく。

簡潔にいうと、何が起こったの?

1月27日(月)、トランプはアメリカ政府によるすべての補助金の支出を1月28日(火)17:00から一時停止するよう、大統領令を通じてすべての省庁に指示した。

重要なことに、大統領令は年金制度(Social Security)とメディケア(Medicare)制度(高齢者向け医療保険制度)に基づく支出が対象外であることを明示していた。そのため、トランプ政権はこの命令によって個人が受け取る補助に影響は出ないと主張したが、大統領令の内容とそれに対する説明が曖昧だったため、具体的にどの補助金の支出が凍結されるかについて政府内でも混乱が広がった。

その後、アメリカ連邦裁判所が一時停止が始まる直前に大統領令の執行を差し止めたため、1月29日(水)にトランプは大統領令を撤回した。

大統領令はどういった内容だったの?

大統領令は2ページと短く、アメリカ政府の10兆ドルの予算のうち3兆ドルが補助金や融資のために支出されていると述べた上で(実際の予算は約7兆ドル)、支出はトランプ政権の政策と一致しているべきなので、すべての省庁に対して、支出がトランプの政策と合致していることを確認するよう命じた。

そして、その確認期間中、原則としてすべての支出が凍結された。

大統領令にはどのような背景があったの?

トランプ大統領は、就任した現地時間の1月20日(月)、公約を実現するための大統領令を多数発行した。その中には、イーロン・マスク(Elon Musk)が長官を務め政府予算の削減を目的とした政府効率化省(「Department of Government Efficiency」、通称「DOGE」)を設立する大統領令が含まれており、今回の大統領令は予算削減という目的の延長線上にあった。

トランプは初日にアメリカ政府内や軍隊の中でダイバシティープログラムを終了させる大統領令も発行しており、今回の大統領令で言及されていたトランプ政権の政策とはこのような政策を指していた。

大統領令はどのように曖昧だったの?

大統領令はNGOやグリーン・ニューディール関連の支出の凍結を命じたが、これらはあくまで例であり、対象は法律的に許容される範囲のすべての補助金とされていた。

ただ、トランプ政権は個人に直接支払われる補助金への影響はないと主張し、その根拠として、年金制度やメディケア制度に基づく支払いが大統領令から除外されていることを強調した。だが、「個人への直接的な支払いには影響がない」といった説明は混乱を深めた。

たとえば、アメリカにはメディケイド(Medicaid)と呼ばれる低所得者向けの医療保険制度がある。この制度に基づく支払いの一部はアメリカ政府の予算で賄われるが、制度の運営は各州に委ねられていることから、補助金は一旦アメリカ政府から州に支払われた上で、州から個人に対して支払われる。つまりアメリカ政府は間接的に補助金を個人に支払っているわけだが、トランプ政権はメディケイド制度に基づく州への支出が凍結されるかについて明確に回答できなかった

大統領令が撤回されたということは、凍結される支出はないの?

撤回されたのはあくまで1月27日の大統領令である。トランプは1週間前の就任時に外国補助とダイバシティー政策に関連する支出の凍結を命じる大統領令を発行しており、これらは今回の大統領令発行と撤回の影響を受けない。

今後、包括的に支出を凍結する大統領令が復活する可能性はあるの?

今回の大統領令は不明瞭さが問題で撤回されたが、大統領令はいつでも発行できるので、今後、より明確な大統領令が発行され、すべての支出が一時停止される命令が改めて発行される可能性は十分にある。

実際、2017年のトランプ政権1期目の際、トランプはイスラム教信者が多い国からの移民を禁止する大統領令を1月27日に発行し、それが連邦裁判所に差し止められると、その後3月と9月に新たな大統領令を発行し、イスラム教国からの移民を改めて禁止した。

支出を停止する大統領令はそもそも合法なの?

合法性は形式的な面と内容的な面双方で考える必要があり、前者は合法と考えられるが、後者は微妙だ。

今回の大統領令は「大統領覚書(Presidential Memorandum)」の形式が採用された。こちらで解説している通り、大統領覚書は連邦官報(Federal Register)に掲載されないと法的拘束力はないが、いずれ掲載されることが推測されたためか、今回の大統領覚書について法的拘束力の面で議論されることはなかった。今後新たな大統領令が発行されても、形式的な面で合法性が問題になることはないだろう。

他方、大統領が大統領令を通じて支出を停止することができるかについては疑義がある。

アメリカの予算は、立法プロセス、すなわち議会の可決と大統領の承認を経て成立する必要があり、アメリカ連邦憲法上、成立した予算を執行していく義務は大統領にある。アメリカでは三権分立が徹底しているため、予算が割り当てられているにも関わらず大統領が支出を拒否することは19世紀から起こっていた。

「押収(impoundment)」と呼ばれるこの行為は歴史的に珍しかったが、リチャード・ニクソン大統領(Richard Nixon)が頻繁に予算を押収したため、1974年に議会予算及び押収管理法(Congressional Budget and Impoundment Control Act)と呼ばれる法律が制定された。この法律は大統領が予算を押収するための議会承認プロセスを規定したことから、(もともと予算押収は違法であったと見られていたが)現在は大統領が独断で予算押収する権限はないと考えられている。

もっとも、予算の中で支出に関して大統領に裁量を与えることも可能なので、大統領が支出を拒否したからと言ってその行為が違法であるとは限らないことに注意が必要だ。

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