トランプが有罪判決を受けた刑事事件〜実質お咎めなしに〜

トランプが有罪判決を受けた刑事事件〜実質お咎めなしに〜

ドナルド・トランプは有罪評決を受けたニューヨーク州の口止め料違法処理事件で無条件釈放の量刑を受けた。ここでは、稀に見ない軽い量刑となった理由を解説していく。

この事件の背景は?

2023年3月、トランプはニューヨーク州の検事に起訴された。起訴内容は、2016年の大統領選中、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズとの不倫関係が公になって選挙に影響を及ぼすことを懸念したトランプが、自身の弁護士にダニエルズに対して口止め料として13万ドルを支払わさせ、大統領就任後、自身の会社から当該弁護士にこれを払い戻した上で、その返済を虚偽的に「弁護士費用」として処理したというものだった。

責任を問われたのは会社記録の虚偽記載であり、口止め料の支払い自体ではない。通常ならこの罪は軽犯罪(misdemeanor)であるが、検察は選挙法違反と絡めて重犯罪(felony)に格上げした。

2024年5月、陪審員が有罪評決を下し、その後トランプは量刑を待つのみだった。当初7月に予定されていた量刑審問の期日は度々延期され、2025年1月10日(金)にやっと期日が開催された。

トランプはどのような量刑を受けたの?

無条件で釈放される「unconditional discharge」と呼ばれる刑で、実質、お咎めなしである。

重要なのは、刑罰はなかったものの有罪判決は残ったことである。これをもってトランプは正式に「重罪犯人(convicted felon)」となった。元大統領又は次期大統領が「重罪犯人」となるのはアメリカ合衆国の240年の歴史の中で初めてである。

この罪で無条件で釈放されるのは普通なの?

すごく珍しい。

量刑は一定の範囲内で裁判官の裁量に委ねられており、「unconditional discharge」もその範囲内ではある。

だが、重犯罪ともなると少なくとも「probation」の罰が科されるのが普通である。Probationとは一定期間probation officerと呼ばれる人の観察の下に置かれ、その期間に他の罪を犯さなければ服役しなくてよくなる罰である。日本での「保護観察」や「執行猶予」に近い刑だ。

トランプはなぜ稀に見る無条件釈放となったの?

量刑を決めたフアン・マーシャン(Juan Merchan)裁判官は、大統領という役職には刑事責任に対する法的な保護が与えられており、この保護が他のどの要素より優先される必要があるため、トランプが大統領選で勝利したという事実を踏まえると無条件釈放以外の量刑はありえなかったと説明した。

判決の中で裁判官は次期大統領という極めて特殊な立場がなければ量刑は異なっていたことを示唆し、トランプがたとえ次期大統領であっても有罪評決は無効にされるべきではないと述べた。

州の裁判官が連邦政府のトップである大統領に刑罰を科すことは現実的ではないので、マーシャン裁判官にとっては、トランプの有罪評決を覆さない方法はこれしかなかったと言える。

この判決にトランプは納得しているの?

納得していない。罰則は受けなかったものの有罪判決は残ったため、トランプは有罪判決を控訴すると明言した。

控訴の根拠は主に2つ考えられる。

1つ目は、大統領免責特権の適用だ。アメリカ連邦最高裁は2024年7月、大統領の”公務上の正式な行為”(official acts)には大統領免責特権が適用され、原則として当該行為について大統領は退任後も刑事責任は問われないという判決を下した。この事件の対象である会社記録の虚偽記載は大統領の”公務上の正式な行為”に該当しないことは明確だが、最高裁は”正式ではない行為”について刑事責任を問う裁判で”正式な行為”を証拠としてはならないとしており、この事件の裁判ではそれが起こった可能性がある(注〜連邦最高裁の判決はこの事件の有罪評決後に下されている)

2つ目は、検察側が連邦政府の法律である選挙法違反と絡めて、州法に基づくこの罪を軽犯罪(misdemeanor)から重犯罪(felony)に格上げしたことだ。連邦制のアメリカでは、州と連邦政府(国)には異なる主権と法律がある。連邦選挙法違反で州の検察に州の裁判所で起訴された被告人はトランプが初めてであり、これが合憲であるか疑義がある。

トランプの有罪判決が覆される可能性はどれほどあるの?

十分にある。

トランプは量刑期日の直前に、大統領免責特権に関する判断がなされるまで量刑は判断されるべきではないと連邦最高裁に緊急の控訴を起こした。最高裁はこの申請について、大統領免責特権に関する判断は量刑が決まった後まで待つべきという手続き的な理由で(つまり大統領免責特権の適用性について審査せずに)却下したが、9人中4人がこの却下に反対した

手続きの面でトランプの主張を認めるべきとした連邦最高裁裁判官が4人もいたので、これから行われる控訴においては、本質的な面でトランプの主張を認める裁判官が5人以上いても不思議ではない。実際、2024年7月の、元大統領には免責特権があるとした判決においては、9人のうち6人が賛成していた。

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