副大統領の概要

副大統領の概要

アメリカの行政のトップは大統領で、副大統領はNo.2と言える。ここでは、副大統領の基本について、歴史や背景も補足しながら解説していく。

まずは、基本から

基本は、大統領と同じ

任期は4年。任期回数は2期まで。

被選挙権の要件はアメリカ連邦憲法において主に三つ規定されており、下院議員、上院議員になるための要件より厳しい。

  1. 35歳以上
  2. ネイティブな(帰化していない)アメリカ人
  3. 14年間アメリカの住民であること

副大統領はどうやって選定されるの?

大統領選の予備選を勝ち抜いた候補が副大統領候補を指定し、当該候補が党大会で承認されると、本選挙における党の正式な副大統領指名候補となる。

そして、本選挙において有権者が「選挙人」(Electors)を選び、「選挙人」が副大統領を選ぶ。この間接選挙の仕組みは、概ね大統領と同じ

大統領と副大統領の選定方法で唯一異なるのは、選挙人の投票で過半数を得る候補がいなかった場合、大統領は下院により選定されるが、副大統領は上院により選定されるところ。

なお、アメリカ連邦憲法が批准された1788年当時、大統領・副大統領の選定方法は異なっていた。当初は、選挙人による投票で1位になった者が大統領、2位になった者が副大統領に選ばれていたが、これだと大統領と副大統領が異なる政党に所属する事態が発生しかねず、実際3回目の大統領選(1796年)でそのような事態が起こったので、1804年に憲法が改正され、現在の仕組みに変わった。

憲法上、副大統領にはどのような役割や権限が与えられているの?

アメリカ連邦憲法において、副大統領の役割と権限については基本的に2点しか規定されていない。

  1. 大統領が死去・辞任した場合、または役割や権限を執行できない場合、大統領の役割・権限は副大統領に移る(「devolve」)
  2. 副大統領は連邦上院議会の議長であるが、可否同数の時にしか表決に参加できない

副大統領は、行政府のトップである大統領のNo.2でありながら、立法府の院のトップであるという変わったポストである。実際、副大統領の給与は上院により支払われている。このため、21世紀の後半まで、多くの副大統領は自身の役割は立法府にあると捉えていた。ただ、議員でない副大統領は通常上院の表決に参加できないため、この解釈にも矛盾をはらんでいる。

副大統領の憲法上の役割・権限があまりに乏しいことから、史上の多くの副大統領は、このポストを無価値のものと捉えていた。

現在の副大統領の実質的な権限は?

現在の副大統領は行政府に所属しているという見解が定着しているが、実際のところ副大統領にどこまで権限が与えられるかは、完全に大統領の裁量による。

たとえば、ジョージ・W・ブッシュ大統領(2001年〜2009年)の下で副大統領を務めたディック・チェイニーは、大統領のパートナーとして見られており、時には大統領以上の権限を有していたとも言われる。他方で、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(1989年〜1993年)の下で副大統領を務めたダン・クエールはあまり存在感がなかったと言える。

大統領の死去または辞任により大統領になった人は何人いるの?

以下9人いる。

  1. ジョン・タイラー(1841年)(ウィリアム・ヘンリー・ハリソンの死去による)
  2. ミラード・フィルモア(1850年)(ザカリー・テイラーの死去による)
  3. アンドリュー・ジョンソン(1865年)(エイブラハム・リンカーンの暗殺による)
  4. チェスター・A・アーサー(1881年)(ジェームズ・A・ガーフィールドの暗殺による)
  5. セオドア・ルーズベルト(1901年)(ウィリアム・マッキンリーの暗殺による)
  6. カルビン・クーリッジ(1923年)(ウォレン・G・ハーディングの死去による)
  7. ハリー・S・トルーマン(1945年)(フランクリン・D・ルーズベルトの死去による)
  8. リンドン・B・ジョンソン(1963年)(ジョン・F・ケネディの暗殺による)
  9. ジェラルド・R・フォード(1974年)(リチャード・ニクソンの辞任による)

アメリカ連邦憲法においては、大統領が死去した時、副大統領が実際大統領に就任するのか、それとも副大統領のまま大統領の役割と権限を有する「大統領代理」(acting president)になるのか、明記されていない。1841年に初めて大統領が死去した時、当時の副大統領だったタイラーは自身が大統領に就任するのであると主張して譲らず、「大統領代理」宛に送られてきた手紙をすべて拒否した。

大統領が欠員になると副大統領が大統領に就任することが正式に定められたのは、100年以上経った1967年に憲法が改正された時である。

なお、大統領が一時的に業務を執行できない場合(手術を受ける時等)には副大統領が大統領の業務を執行するが、この場合の副大統領は大統領の代理である。

副大統領が大統領選で当選して大統領になったことは何回あるの?

現・元副大統領が自力で大統領に就任できたことは6回しかなく、副大統領は思いの外「大統領への道」とはならない。

現職副大統領として大統領選で勝利できたのは次の4人だけ。

  1. ジョン・アダムズ(副大統領〜1796年から1801年、大統領選勝利〜1800年)
  2. トーマス・ジェファーソン(副大統領〜1801年から1805年、大統領選勝利〜1804年)
  3. マーティン・ヴァン・ビューレン(副大統領〜1829年から1837年、大統領選勝利〜1836年)
  4. ジョージ・H・W・ブッシュ(副大統領〜1981年から1989年、大統領選勝利〜1988年)

元副大統領として大統領選で勝利できたのは次の2人だけ。

  1. リチャード・ニクソン(副大統領〜1953年から1961年、大統領選勝利〜1968年)
  2. ジョウ・バイデン (副大統領〜2009年から2017年、大統領選勝利〜2020年)

副大統領が欠員になったことは何回あるの?

18回で、理由は以下の通りである。

  1. 大統領に就任(9回)
  2. 死去(7回)
  3. 辞任(2回)

副大統領が欠員になると、どうなるの?

大統領が後任の副大統領を任命し、連邦上院と連邦下院が過半数で承認する。この手続きは1967年のアメリカ連邦憲法修正条項により規定されている。なお、通常、大統領による任命を承認するのは上院のみであるが、副大統領の任命の場合、下院の承認も必要であることに注意が必要。

1967年以前は、副大統領が欠員になっても、次の大統領選まで欠員は埋まらなかった。現行の制度の下で副大統領の欠員を埋めるため形で副大統領になったのは、2人いる。

1人目は、ニクソン大統領の下で副大統領を務めていたものの金銭スキャンダルで辞任したスピロ・アグニューの後任として1973年に任命されたジェラルド・R・フォード。翌年、ニクソン大統領自身が辞任したので、フォードは大統領にも副大統領にも当選せず大統領になった唯一の人物である。

2人目は、フォードの後任として1974年に任命されたネルソン・ロックフェラー。

議会により弾劾された副大統領はいるの?

今のところ、1人もいない。

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